先日、エアコンを付けっぱなしで外出してしまい、乾燥によりギターの表面板が割れました。
あまり音に影響が無いと思われる指板の両脇が割れたので、そこまでショックは受けませんでした。
1つ前の記事のフレットの打ち替えに合わせて、この指板脇の割れ修理も実施してもらいました。
表面板の割れ修理に関して、思うところをまとめます。
修理して頂いた製作家の名前は伏せます。
仕事に困っている方ではないでしょうし、修理の作業ばかり増えてしまうと新作が作れなくなってしまうためです。
割れの修理、パッチを当てをした
アントニオ・マリンの指板脇の割れに対して以下の修理を行いました。
- 割れた部分に膠(にかわ)を流し込む
- 割れの部分にパッチ当てをする
あまり深く悩まずにこの方法を選択しました。
修理を終えて戻ってきた楽器の音を聴き、正解の判断だったのではないかと思っています。
割れ修理の考え方
どれくらい振動を止めて良いのか
表面板に対して、新たに何か取り付けると、以前よりも振動が止まります。
これは楽器に対して「悪いこと」のように聞こえますが、力木(ブレーシング)もブリッジも塗装も振動の抑制を行っています。
これらにより低音がタイトになったり、高音に輪郭や特徴がもたらされます。
もっと引き締まって欲しいのか、柔らかく鳴って欲しいのか等を想像して修理方法を決定するしかありません。
(固めてしまうのか・余地を残すのか、何か付けるか・最低限とするか)
ヴァイオリンの修理では「和紙を当てる」修理方法があるようです。
美濃和紙のこと – 大樹バイオリン工房 Blog
弓でエネルギーを加え続けることのできるヴァイオリンでも余計なものを付けたがらないのですから、ギターで木片を張り付けるのは「やり過ぎ」なのかもしれません。
(あくまで推測の域で、批判ではありません)
ギターはパーカッション奏法もあるため、強度を確保する必要があるのだとも思います。
拘束により他の部分に悪影響が及ばないか
[PDF] Modal analysis of different types of classical guitar bodies | Semantic Scholarより引用
割れの修理方法を考えるにおいて、ギターの振動をイメージした方が良いと思います。
サーモグラフィーのように、ギターの表面板の振動モードが可視化されている画像があります。
また、表面板に砂を置いて、振動の様子を見るという実験もあります。
「ここの部分にパッチを付けて、振動に悪影響はないだろうか」と考えてみましょう。
「表面板の端が厚いと楽器が鳴らない」という話を聞いたことがありますので、振動の端に厚みのあるパッチを当てるのは良くないかもしれません。
衝撃に対する懸念
ギターの場合、通常の使用範囲においては割れが更に広がることは考えにくいです。
(湿度管理を行っている限りは)
そのため、過剰な補強をしない方が無難です。
ただし、ギターを持って移動している最中に、振動や衝撃があって割れが悪化することはありえます。
音に影響が小さい部分であれば、しっかり目の補修をしても良いでしょう。
ブーシェ系の鳴り方により判断した
内部を確認した訳では無いのですが、アントニオ・マリンは恐らくブーシェ系統の力木の配置をしていると思います。
サウンドホール下の力木が、サウンドホールの横でトンネルになっているということです。
ギター試奏 川田一高 2021 ブーシェNo71RFダブルサイドモデル | クラシックギターマニア おうどん
(おうどん氏のブログより、画像をお借りしました)
これにより、弾いていて「表面板が大きいギターの鳴り方」をしているように感じました。
表面板の鳴っている面積がこれだけ大きいのであれば、影響の小さい部分にパッチ当てしても音への悪影響はあまり無いだろうと考えました。
修理の結果、低音が深くなり、輪郭や分離も明瞭になりました。
フレットや指板と同時に修理したので、どちらの影響か分かりませんが良い結果で一安心です。
以前、レベルの高いコンクールを聴いた際、「ギターの鳴りが去年より大人しいな」と思ったことがありました。
関係者に話を伺ったところ、「剥がれていた力木を貼り付けた」とのことです。
本来付いているものを再び貼り付けただけでも鳴りが悪くなることがあるので、修理も慎重な判断が求められます。
この記事は以上となります。
最後までご覧いただき、誠に有難うございました。