クラシックギターという楽器は「小さなオーケストラ」と表現されます。
ベートーヴェンが言ったとか、ベルリオーズが言ったとか、由来に関しては諸説あります。
弦が6本のみのギター1台を指して「オーケストラ」という言葉を使うのはあまりに誇大な表現だという意見もあります。
クラシックギターを「小さなオーケストラ」と呼ぶことについて、考えをまとめます。
クラシックギターが小さなオーケストラである理由
クラシックギターを「小さなオーケストラ」と呼ぶ理由は、「響き」「声部の独立」「音色」にあると思っています。
最近の記事で「留学した方が響きの良い演奏家になれるのでは」「この演奏家は響きの感覚が良いのでは」という記事を書きました。
クラシックギターでの海外留学について。 – クラシックギターの世界
山本采和氏の演奏が素晴らしいです。 – クラシックギターの世界
演奏において 「響き」「声部の独立」「音色」の要素を感じられることでギターは「小さなオーケストラ」と呼べるのでは無いでしょうか。
誰のギター演奏を聞いて誰が「小さなオーケストラだ!」と言ったかは分かりません。
しかし、F.ソルやM.ジュリアーニの演奏は紛れもなく「小さなオーケストラ」だったのだろうと思います。
ギター演奏が「小さなオーケストラ」と呼べるかどうかは「技術の上手・下手」「演奏の良し悪し」とは全く別の話だと思います。
ですから、凄く上手な演奏を聴いても「ギター1本の上で音が作られているだけ」のようにしか聞こえないことの方が多いでしょう。
現在はひと昔前より遥かに演奏家のレベルは上がっていると思います。
響き・奥行きのある演奏が少なかった時代に「ギターをオーケストラと呼ぶなんて言い過ぎだ!」というのは、正論かもしれません。
音色の違いはあくまで表現の一部
最も良く聞く話として、ギターが小さなオーケストラと呼ばれる理由は「音色の幅広さ」であるという意見があります。
「音色もオーケストラ的な要素である」とは思いますが、「音色によってギターは小さなオーケストラになっている」とは思えません。
ガンガン音色を変えていても、「あくまでギター1本で弾いている」ようにしか聴こえない演奏は溢れています。
逆に、大きな音色の変化に頼らなくても、全ての音が独立した存在感・奥行きを持って聴こることもあります。
独立した、違った声部であるべき
ギターが「小さなオーケストラ」になるには、声部が独立していることが絶対に必要な条件だと思います。
しかし、単に全ての声部を聴いてコントロールしているだけでは、「ギターの上で複数の声部が動いている」ようにしか聴こえません。
少なくとも単なる「ギターの高音、低音」以上のイメージや意味を与えて弾かなければならないようです。
ピアノとの違いは何か
私の経験では、ピアノよりもギターの方が「小さなオーケストラだ」と感じる演奏を聴いた回数が多いです。
(単純にピアノの生演奏を聴く回数が少ないかもしれませんが)
音数は少なくとも、それぞれの声部が全く違う楽器のように聴こえたことを指しています。
「小さなオーケストラ」のように聴こえるというのは、器楽の独奏において最高の賛辞ではないでしょうか。
となると、音数は少なくともギターの存在価値は非常に大きいと思います。
ピアノであっても音色は変えられますので、「音色の変化」で語るような内容ではないと思います。
「ナイロン弦と巻き弦」「各弦の太さの違い」「独立したコントロールの難易度」等が原因でしょうか。
ピアノであっても、ギターであっても、奥行きを感じない演奏は、楽器というひとつの箱から鳴っているように聴こえます。
(上手い演奏であっても)
ソロ演奏を想定した楽器であるか
スチール弦のギターで「伴奏」するために作られたギターでは、演奏の奥行きは出しにくいように思います。
普段はアコースティックギターを作っている製作家の方が作ったクラシックギターを拝見して、高音と低音の差が少ないと感じたことがあります。
楽器を作る側にも、楽器が演奏された際の立体感のイメージは必要ではないでしょうか。
ただし、フラメンコギターの銘器は独奏の楽曲を弾いても最高峰であることが多いです。
この理由は分かりません。
鳴っている音を聴き、音をコントロール
色々と偉そうなことを書きつつも、私も自分の演奏がフラットでずっと悩んでいます。
少し前は「メロディとして成り立っていないと独立させられないのでは」と思っていました。
しかし、響きの良い演奏家は和音として1音弾いただけで立体感があります。
「鳴っている音を全て聴き取り、意思を通わせて音をコントロールする」しかないと思っています。
Youtubeで聴ける中では、ギタリストの新野英之氏の演奏もかなり響きが良いと思っています。
録音で良さを伝えるのは難しいのですが、音が良く分離して聴こえるのは分かると思います。
(リバーブ等で本来の良さが消える部分もあると思います)
最後までご覧いただき、誠に有難うございました。