スペイン・マドリッドのクラシックギターの印象・感想について。

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マドリッドのギター

個人的な話です。
久々に東京に出る機会があり、楽器店にてギターを試奏しました。
時間がほとんど取れず、1店で数本の楽器を弾いたのみです。

短い時間でしたが、ギターマニアのおうどん氏に立ち会っていただいて、非常に有意義な時間を過ごしました。

おうどん氏のすすめで、普段ならばほとんど弾かないマドリッドのギターを弾きました。
そのうちの1本が私の好みとタッチに合致しまして、真剣に購入を検討しています。

この記事では、「マドリッドのギターに対する印象」や「私が購入を検討している楽器」について書きます。

購入を検討している楽器に関しては、購入を検討しているので、名前はふせます。
記事を読んで大まかな当たりがついて、誰かが購入したらそれはそれでしょうがないと考えています。
最近入荷した楽器ではなく、タッチも簡単ではないため、誰もが欲しがるようなギターではないでしょう。

この記事でわかること

スペイン・マドリッドのギターの特徴

マドリッドのギターには以下のような特徴を感じます。

  • 余計な響きがない
  • 音色と響きのコントロールに優れ、繊細な表情がある
  • 和音がクリア
  • 余計な響きがないため、単音の印象が地味・物足りない
  • 乾いた高音・重くやや鈍い低音

「余計な響きがない」という特徴は、付帯音が整理されてすっきりしていることを指します。
「音がぶつかって濁る」という響きの話とはまた別の内容です。

虚飾のない音によって、クラシックギターが持つ繊細な表情を最大限まで引き出せるのがマドリッドの楽器です。

これまではあまり魅力を感じていなかった

クラシックギターの王道であり真髄といえるマドリッドのギターですが、私は購入に至るほどには魅力を感じていませんでした。
理由は以下のとおりです。

  • 響きが少なく、音量もないため地味である
  • コンクール出場者の演奏を聴いて、良い印象がない
  • タッチが合わない
  • 私の耳が響きに対して鈍感である

コンクール出場者がマドリッドのギターを使用した演奏を聴く限りでは、印象は良くなかったです。
他の種類のギターに比べると地味で聴き劣りしますし、大きな会場やコンクールには向いていないかもしれません。

クラシックギターの王道は「スペイン」ということで、マドリッドのギターを使っている奏者は多いのですが、本来の魅力を引き出している演奏に出会うのはかなり稀です。
「魅力を理解して、意図的にコントロールする」レベルでないと、聴衆には伝わりません。

私の耳の感度不足も、マドリッドのギターの印象が悪い大きな要因です。
私は、現代の演奏環境や条件を考慮してお客様が「良い音と感じる音」を出したいと思っているため、単音の音色の印象が良いギターばかりを選んでいます。

過去に沢山の楽器を試奏しましたが、マドリッドのギターを弾いてもタッチが合わず、鳴らせている感覚はありませんでした。

マルセリーノ・ロペスを買った耳の良い知人の話

知人がマルセリーノ・ロペスを購入しました。
ピアノを長年弾いており、とても耳の良い方です。

このロペスは普通のロペスに比べると音量はあるのですが、それでもロペス特有の手強さを持っています。
私はけっこう弾きにくいと感じましたし、購入した知人が弾いているのを聴いても「音が出しやすそう」という印象ではないです。

知人は、以前は音が出やすいブーシェモデルの楽器を使っていました。
ブーシェモデルの楽器は余計な響きが付いてくるため、「ロペスの方が響きがすっきりしていて演奏時にストレスがない」ようです。

私は幼少時代に音楽経験がなく響きに対しては耳が悪いため、「地味にも聴こえるほどに響きがすっきりした楽器が良い」というのは、参考になる感覚でした。
響きの面でマルセリーノ・ロペスは大変優れた楽器です。

また別のエピソードです。
ステージで某国内製作家のギターを聴く機会がありました。
私は音量と響きがあってそれなりに悪くないギターだと思っていたのですが、耳の良い知人にはかなり響きが悪い楽器と感じたようです。
同じ国内製作家のとあるモデルは音が分離して(時間差で?)聴こえてしまうようです。プロの方も使っているモデルなので、ギタリストよりもさらに耳が良いのだと思われます。

私が持っているフランスのギター「ユーゴ・キュビリエ」もかなり響きが多いのですが、上記のエピソードの国内製作家の楽器よりはまだ響きが良い(まし)らしいです。
「響きの良し・悪し」は単純に響きが「多い・少ない」とはまた違う問題であるようです。

ギターが耳を育てる?

私は「ギターが演奏者の耳や感覚を育てる」という説を支持しています。

私の手元にはステージで映える響きに特徴・癖のある楽器が多いです。
そのため、自分自身の感覚を磨くために「響きに癖のない楽器」が手元にあれば、現状よりは耳が開発されるのではと考えていました。

「癖のない楽器」は、以前の記事に書いた大西達朗氏のトーレスモデルのようなギターをイメージしていましたが、マドリッドの楽器もそれに該当するとこのたびの試奏で気付いた次第です。

「ギターが演奏者の耳や感覚を育てる」は事実と思いますが、鳴らないギターを知識がない人に押し付ける理由にも使われるため、慎重になる必要があります。

実際、若いギタリストが幼少期に使っていた「響きが美しいとされているギター」から、響きもへったくれもない音量のあるギターに持ち替える例も多いです。

購入を検討しているギターの特徴

いかに響きが良いとはいえ、タッチが合わない・鳴らせないギターを高額で購入するのは無理な話です。

今回試奏したマドリッドのギターは、マルセリーノ・ロペスのような純度の高い音でいながら、ごく僅かにクラシカルな成分を合わせ持っていました。
スペインの完全に硬派な音ではなく、ほんの少し色が付いていて、これによって私のタッチでも鳴らし切ることが可能です。

少しの華やかさがあることで、音響として地味な印象もありません。あまり大きい音ではないですが、私のタッチで弾くと高音がプリンプリンと伸びました。

以前の記事で書いた「セゴビアトーンを出すタッチ」を練習していることも、この楽器が良いと感じた要因と思います。

となりで聴いていたおうどん氏からも「ピチカートの音の余韻がすごく綺麗ですよ」とのコメントがあり、「確かに!」と思いました。
おうどん氏は「余計な響きのない純度の高い音」をギター選びの最重要項目に据えており、マドリッドのギターに絞っておうどん氏のブログを読むと、この種類のギターに関する一貫した基準・価値観を学ぶことができます。

私が持っている他の音量のあるギターが「山や空、海などの風景を表現する」ものであれば、このマドリッドのギターは「足元にある可憐な花を緻密に描写する」性質があると感じます。

購入を躊躇している理由

かなり気に入ったギターですが、店頭で即決購入はしませんでした。
1~2年ほど、時間をかけて検討するつもりです。

その理由は以下のとおりです。

他のスペインギターと比較したい

私の手元の楽器も、だいぶ本数が増えています。
「ちょっと気に入った」ぐらいでは新しいギターの購入は決められません。

値段の問題を抜きにするなら、以下のような王道のスペインギターと比較した上で判断したいと考えています。

  • アグアド
  • ベレサール
  • アルカンヘル
  • バルベロ
  • ラミレス2世
  • サントス
  • エステソ

大御所の名前を並べましたが、1960年以降のスペインギターに私のタッチがハマった記憶がほとんどありません。タッチの相性から考えると検討中のギターに軍配が上がります。

サントスやエスエソ、ラミレス2世などの1960年以前のスペインギターと比べても「買い」と判断できるなら、今気になっているギターは本当に買うべきなのだと思います。

ホセ・ヤコピで足りるのでは?

私の手持ちに王道のスペインギターは無いのですが、バルセロナのギターの特色を持つホセ・ヤコピを持っています。

ヤコピは押し付けがましくない響きではあるのですが、琥珀のような響きが常に付いてくるところはあります。

「癖のない音で耳を鍛えたい」なら、ヤコピよりもう少し硬派なギターの方が良いと感じています。(購入の免罪符)

レパートリーを選ぶ

マドリッドのギターはスペインの楽曲には抜群の相性ですが、バッハなどのクラシカルなレパートリーにはベストマッチではないと感じます。(完全に私の感想です)

プロの演奏を聴いても思うのですが、筆ペンでアルファベットを書いたような印象を受けます。

タレガやトローバ、ロドリーゴ、その他セゴビアレパートリーには最高の相性でしょう。(購入の免罪符)

スペイン・マドリッドのギター、まとめ

音量や派手さはないですが、余計な響きがなく、ニュアンスの表現に優れるのがスペイン・マドリッドのギターです。

ある程度経験のある方が、タッチの相性や音量に納得して購入するのであれば、非常に良い選択肢です。

初心者の方が「これは本場スペインの凝縮された音です」という説明を受けて買ってしまうと、魅力を理解できないまま鉄ゲタになってしまうかもしれません。背伸びは良いことですが、分かったフリをすると後悔します。

私は人よりは沢山ギターを試奏していますが、「私でも弾ける」という実感があったマドリッドの楽器はほとんどありません。時間をかけて考えますが、この機会を逃すと王道スペインギターの入手はだいぶ先になる気がしています。

追記:私の紹介で知人が買いました

この記事で書いたギターに関して、私がお店に同行して知人が購入しました。
「ペドロ・バルブエナ 2015年」2世の楽器です。

再試奏した店頭での印象として、私が持っているアントニオ・マリンよりもバルブエナの方が戦闘力が高かったです。
私が持っているマリンはブーシェ方面のベクトルで明るさを抑えているため、やや大人しくなっています。
店にあった新品のアントニオ・マリン(良い楽器でした)よりもバルブエナの方が音が伸びていました。

私が弾いたバルブエナの中では、1世よりも2世の方が印象が良いです。
日本に存在する2世の個体数も少ないため「たまたまこの個体が傑出したものであるのか」「2世が1世よりも優れた製作家であるのか」に答えは出ません。

購入した知人はクラシックギターを本格的に弾いてから年数が浅いため、技術的に上達の途中なのですが、バルブエナを使った演奏は明らかに他の楽器と比べて音質が良く、彫りが深く聴こえたそうです。
(別の友人から感想を聞きました)

このバルブエナ2世について、エステソやバルベロに及ぶかは分かりませんが、私がこれまでに弾いたほとんどのアグアドやアルカンヘルを超える楽器でした。
「自分で買えば良かったな」と未だに思います。
過去と比べて今が一番耳が良いため、この楽器が買い逃したギターの中でベストになるかもしれません。

追記の追記:自分を信じるべき

このブログでたびたび紹介している「タッチが良い友人(ロマニリョスやフレタを所有)」がバルブエナ2世を弾く機会があったようです。

私がバルブエナを買うかどうか迷っているという相談をした際は、「今あるギターでタッチを追求した方が良いのでは」「過去に所有したギターの傾向と異なっていて、本人との相性はどうなんでしょうか」といった意見を頂いていました。
タッチが良い友人がバルブエナを弾いたあとの感想は、「あの値段なら、どうしてこの楽器をすぐに買わなかったのか?」というコメントでした。

タッチが良い友人はメインとして使えるギターを4本持っていますが、未調整の状態ですぐに使えるような魅力を感じたのは1本だけとのことです。
私も5本ギターを持っていますが、お店に置かれた状態で充分な魅力を感じたのは1本だけでした。
その他のギターは、欠点があるのを承知で調整を前提として購入しています。

何が言いたいかというと、「普段からナット・サドル・弦を適切に調整したギター」を使っている人が「お店にあるギター」に全面的に賛同できる機会はほとんどないということです。
タッチが良い友人は「出張や旅行のついでに楽器店でギターを弾かせてもらっても、今回の例のように、自分で買うほど良いと思う楽器は1本もなかった」と言っておりました。(もし良かったとしたら、必ず買うはずです)
今回のバルブエナは未調整の状態で諸手を挙げて良いと言える稀有なギターでした。

私はこのブログで偉そうにしている印象ほどは、自分の審美眼に自信を持っていません。
過去に失敗した経験もあるため、他人のアドバイスも聞きたいです。
しかし、今はそれなりに耳が育っているため、自分で良いと思ったものは間違いなく「本当に良い」ものだったという体験でした。

最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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