演奏における脱力とその方法を考える。

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集中力に続き、今回は演奏における脱力とその方法を考えたいと思います。

脱力は良い演奏の絶対条件ではないですが、より一層の演奏の向上を目指す方にとっては必須項目でしょう。

私は力むことはほぼ無くなりましたが、力が入った、と思う瞬間は多々あるので、
まだまだ修行が足りません。

(追記)
その他の脱力の記事はこちらです。
より一層踏み込んだ内容になっています。
楽器演奏における脱力方法、力みの対策を考える。(思考編)
脱力と力の効率を整理する。(脱力の誤解)

この記事でわかること

力んでいる状態とは

私が先生に力むことの例えとして言われていたのは、以下の方法を行った状態です。

左手の手を、ギターを持たずにフレットを押さえるときと同じ形にします。
指の形を変えないまま、親指の付け根、手の平にグッと力を入れて硬くしてみます。
(親指が少し反ると思います。)この状態では指の形を変えておらず、物体に対して何の作用もしていないのに、力だけが入った状態となっています。

これが左手が力んでいる、という状態です。

自分の感覚で力は入っているのに、弦に対しては押さえる力が発生していないわけです。

特に難しいセーハで起きやすく、この状態を知ることで「一生懸命押さえているのにどうして音がビビるのだろう」という疑問が解けるのではと思います。

脱力することのメリット

脱力のメリットには以下の3点があります。

①重力や体幹を使える

「力んでいる」という状態では、腕の重みや体幹を使うことが出来ません。

力を抜くことで腕の重さを生かすことが出来、体幹、肩甲骨からの力が滞りなく伝わります。
腕や肩に力みがあると、体幹や重力は使いにくくなります。

試しに「力こぶを作ってみる、二の腕にグッと力を入れてみる」と、本来はダランと垂れ下がるはずの腕がその場にホールドされます。

これでは腕の重みは活かされません。

力んでいる部分で本来伝わるはずの力も滞るので、これでは体幹や肩甲骨から伝わるはずの力もロスしてしまいます。

②指先の感覚が鋭敏になる

指先が硬くなり過ぎたり、強く押さえ過ぎて指先の感覚が鈍くなってくると、押さえている弦の感覚を感じ取りにくくなり、より一層力が入ってしまいます。

脱力することで、指先の感覚を鋭敏に保つことが出来ます。

触っているだけの状態を0、最大限に力を入れた状態を10とすると、低い領域(0〜5)の方が力の入り具合を繊細に感じやすいのが分りますでしょうか。

演奏中に脱力した方が良いのは、知覚しやすい力の範囲で身体を使いたいという理由もあるでしょう。

③怪我しにくくなる

これは自明のことでしょう。

力んだ状態で演奏を続けている方はこの事実を受け止める必要があります。

力みも身体からのサインで、これを無視していればいつかどこかを壊してしまうでしょう。

セゴビアのように晩年まで演奏を続けたいですね。

脱力する方法

ピアニッシモor遅いテンポで弾く

これはよく指導されている方法ですが、意味を考えて練習する必要があると思います。

この方法で練習する意味は、脱力しているかどうかを含めた動作の点検にあるでしょう。

通常の演奏では力んでしまうところを、力みようが無いくらいにピアニッシモor遅いテンポで弾きます。
(両方やっても良いです)

この時に重要なのが、腕の重みや体幹を使うということです。

たとえ僅かな力であろうと、指先で発生する力で済ませないようにするのが大事です。
大きな筋肉を使って弾きましょう。

腕の重みや体幹を使うのがピンと来ない方は、力んでいる時と同じ悪いフォームにならないように鏡を見て弾くのも良いでしょう。

まずはビブラートかけない

ギターの神様 アンドレアス・セゴビアに関してよく言われるように、
ギターの音色は右手だけでなく左手でも作るものです。
硬い音も、ビブラートをかけると柔らかくなります。

しかし、脱力が出来ていない段階から一生懸命ビブラートをかけると
むしろ力み癖がついてしまうように思います。

また、ローポジションでは、弦長が長く、
ほとんどビブラートがかからない場合もあるので
そういった場面で頑張ってビブラートをかけようとするのは
エネルギーのロスです。
(音にニュアンスは乗るので、本当は意味があります)

身体の感覚とギターと鳴っている音が上手く繋がってから
ビブラートを入れてくのが良いでしょう。

ギリギリ音が鳴らない左手の力加減で弾く

あえて音をビビらせる練習です。

意外と難しいですが「ここまで左手の力を抜いても音になるのか」という気付きがあるでしょう。

ちょっとオーバーな練習に思えるかもしれませんが、そもそもあまり脱力が得意でない人、コンクール等ミスが許されない演奏を控えている人は積極的に行うべきでしょう。

フレットに対して適切な位置を押さえているか確認する

これも自明の話なのですが、果たしてどこまで徹底出来ているでしょうか。
(自戒です)

押さえる位置を無視して、弦を押さえる力だけで完全な脱力の状態をめざすのは難しいです。

あまりに基本なので忘れがちですが、フレットに対して適切な位置を押さえているか点検する練習も取り入れてみると良いでしょう。

特に難しい和音では左手の指の位置がズレがちです。

弦を押さえる力のバランスを点検する

これは、主に和音の場合です。

他の指に比べて、4の指小指の力が弱いのは当然です。

12の指は力を入れやすいでしょう。

何も考えず1から4の指を使うと、適切な力のバランスにならないわけです。

これがピアノであれば、弱い指は実際に音が弱くなるので耳で気がつくことが出来るのですが、ギターは音からは分かりません。

各指の力の入り具合の点検をすることは必要でしょう。

脱力で本当に大事なのは

練習方法を色々と書きましたが、脱力で本当に大事なのは「力が入ったら力を抜く」ということです。

「そのまんまやんけ!」と思うかもしれませんが、これが私を含めて一般のプレイヤーは出来ていません。

どうしてこれが出来ないかというと、力の知覚が出来ていないからです。

中級者止まりの年配のプレイヤーが一定のレベルから上達出来なくなる理由は「力の知覚が出来ないから」が多いと私は思っています。

ボディスキャンをしよう

力が知覚出来ていないことへの対策として、ボディスキャンが有効です。
これにより力が入っていないニュートラルな状態を作ることが出来ます。

方法は以下の通りです。

  1. 仰向けになるor椅子に座る
  2. 頭から足先まで、身体の部位に順番に意識を集中する。
    初めての方は力んでいる場所が分からないので、なるべく身体の部位を細かく分けて観察する。
  3. 対象の部位に意識を集中させつつ、深呼吸して完全にリラックスした状態にする。
    息と共に力が抜けていくイメージを持ちます。
    (眉間にシワが寄っている、歯を食いしばっている、も力が入っているということです。)
  4. 身体全体にこれを行う。

この方法を行ってみると、思いもよらない部分に力が入っていたことに気がつくと思います。

初めての方は完全に脱力した状態を目指したいので、仰向けになって行った方が良いでしょう。
仰向けですら力が入っている部位があることに驚きます。

③に関しては、あえて対象の部位に全力で力を入れ、その後に力を抜く方法も有効です。

ボディスキャンを行うことにより力が入っていない状態を知ることが出来、その結果、力んだことを感じ取れるになります。

繰り返し行うことで脱力した状態が普通になっていくと思いますので、段々とボディスキャンに掛かる時間も短くなるでしょう。

ギターを持った状態でのボディスキャン

最終的にはギターを構えた状態でのボディスキャンを瞬時に行うことが目標です。

勿論完全に力を抜くと椅子から崩れ落ちてしまうので、必要な力は残す必要があります。

例えば、下記の項目をチェックすると良いでしょう。

  1. 首に力が入っていないか
  2. 呼吸が止まっていないか
  3. 背中に力が入っていないか
    (過剰に背筋を伸ばす、猫背になっている)
  4. 肩が上がっていないか
  5. 足でギターを挟もうとしていないか、
  6. つま先を浮かせる状態が普通になっていないか
  7. 肘が上がっていないか
    (力が入って腕の重みが機能していない)
  8. 右手でギターを押さえていないか
    (両足、胸の3点でギターは支えられます)

こういった項目を瞬時にチェック出来る能力を身に付けたいところです。

「力が抜ける→感覚が鋭敏になる→力を感じ取る→力が抜ける」の良いループが出来ればしめたものです。

ボディスキャンのような作業は後天的に身につけられる能力ですので、意識して行いたいです。(自戒)

終わりに

脱力は、一定以上は先生に教わることが難しい要素かと思います。

見た目のフォームや音に影響が出れば、先生はチェックすることが出来ますが、そこに表れない力みの種に最初に気がつくことが出来るのは演奏者自身だけです。

フォームを直すことによる改善も良いのですが、脱力することでフォームは自然に良くなっていきます。

「足をどれくらい広げるか」は力が入っていない幅に広げれば良いわけです。

「左手の肘が上がっている」なら、肘を下げる意識をするよりも、力を抜けば自然に肘は落ちてきます。
(どんなに上手い奏者でも、左肘が身体の後ろにある方は力んでいます)

演奏の内容に大きく影響するのが脱力ですので、私も生涯の課題として向き合っていこうと思います。

最後までご覧頂き、誠に有難うございました。

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