クラシックギターは当然ながら木で作られており、使用する材質によって音が変わります。
ギターの音は本来、素材や見た目で判断するべきではないです。しかし、「ギターのこの音の特徴は、横・裏板にこの材料を使っているからかもしれない」という予想が出来れば、楽器を弾く楽しみは増えます。
クラシックギターの各部位ごとに材質の特徴を紹介いたします。
表面板による音の違い
松(スプルース)
松(スプルース)の良い点
音に伸びや抜けがあり、密度を感じます。
一般論として杉を使用している楽器の方が音量はあります。しかし、音が伸びたり抜けて聴こえることによって、松は音に躍動感があるように感じます。品が良く、明瞭な芯と明るさを持っています。
松の楽器が好きな方は、この特徴に魅了されているのでしょう。
音の分離も、松を使用した楽器の方が優れています。
松(スプルース)の悪い点
あまり良くない個体の場合、そもそも上記で述べた伸びや抜けがあまり感じられず、音量のないただの上品なギターになってしまうことがあります。
また、奏者によっては松の楽器が合わない方もいます。(杉の方が相性が良い人)
材質よりも製作者との相性の方が大きいので、あまり経験がない状態で松が合わないと決めつけない方が良いです。
また、スプルースの中でも以下のような分類があります。
ジャーマンスプルース
きらびやかな倍音成分のある腰の強い材料です。私がメインで使っているギターはジャーマンスプルースを使用しています。
存在感と上品さを両立しています。
イタリアンスプルース
アタック感と柔らかさを兼ね備えた材料です。焼けると色が飴色になります。
イタリアの製作家は、頻繁にイタリアンスプルースを使っています。
イングルマンスプルース
美白な見た目の印象がとても美しいです。
繊細なタッチに反応が良いのですが、タッチが強い方ですと飽和を感じるかもしれません。音楽的な個性は少し薄味に感じます。
イギリスの製作家「ケビン・アラム」が使用していました。
この他にもいくつか種類がありますが、クラシックギター ではそもそもあまり材料を記載しません。
楽器店でも情報が無い場合もありますので、製作された国や音から推測してみるのも面白いでしょう。
杉(シダー)
杉(シダー)の良い点
音量があり、コントロールしやすい楽器が多いです。松の楽器のような抵抗が無く、音量のレベルをリニアに調整出来る印象があります。
奏者本人にも弾いている音が聴こえやすく、プロがステージで信頼して使用する理由がよく分かります。ダブルトップ等の楽器であれば、それに加えて極太の音質をもっています。
杉の方が機能面での信頼が高いです。安価なグレードで失敗したくない方には、杉の楽器を推奨します。
杉(シダー)の悪い点
あまり良くない個体の場合、音の密度が低くかすれたような聴こえ方をします。音の芯は太くないため、耳に刺さる印象があります。
音全体は太いのですが、その密度は松ほどではなく、ともすれば下品な音になってしまうのが杉のデメリットです。
レッドウッド、セコイア
見た目は杉に近いですが、どちらかといえば松の品種に属する木のようです。存在感のある太い音で、松とも杉とも明確に異なります。
フレドリッシュ、フレタ、オリベ等の楽器で使われていました。
裏板、横板の材料
表面板に比べると材質の違いによる音への影響は小さいです。
しかし、違いは確実に存在します。知っておいて損は無いでしょう。
ローズウッド
しなやかで音が伸びる印象です。最もクラシックギターでは標準的な材料かと思います。
遠くではやや音が細く聴こえるかもしれません。
フレドリッシュやフレタ等、ハカランダでなくローズウッドを好んで使用する制作家も多いです。
マダガスカルローズウッド、ココボロ
手工ギターの中でも中間のグレードに使われている材という印象があります。音の面では「暗さのないハカランダ」といった印象です。
ローズウッドよりは硬めです。押し込んで音が伸びる感覚はローズウッド程ではありません。
ハカランダよりは少し明るさがある印象です。音の深さではハカランダに劣る印象がありますが、単純にハカランダを使った古い楽器の音が深いのかもしれません。
ハカランダ
ハカランダは非常に硬い材料で、横・裏板の中では重い部類です。サステインが長く、迫力のある豊かな音が特徴です。表情と透明感を兼ね備えた太い音を持っています。
よく出来た楽器であれば、音があまり減衰せずに遠くへ飛びます。
あまり良く無い個体であれば、ローズウッド程の音の伸びが無く、潰れた音になってしまいます。
ローズウッドより硬質で加工しにくいのか、バランスが悪い楽器もあります。
しかし、ハカランダにこだわる人が多いのにはそれなりに理由があると思います。
ハカランダとローズウッドは明確に違います。
「ローズウッドでも良い楽器がある」はその通りですが、経験上はハカランダが私の好みです。
私はこれまで所有した楽器の中でローズウッドのものは2本だけで、19世紀ギターを除けば他は全てハカランダでした。
ローズウッドの2本を購入したのは「人に勧めらた、弾きこみによる成長を期待した」という理由だったので、試奏の時点であまり好みではありませんでした。
(自分の感覚でなく、人の意見を聞いて失敗した)
下記はメインギターの裏板のハカランダです。
メイプル
良く柔らかい音、と言われるのですが、個人的にそれは見た目の印象もあると考えております。(メイプル自体は堅い材質)
音色は、音楽的な明るい音という表現が適切と思っています。明るいのに不快な成分が無いのが魅力です。
ヴァイオリンやチェロ等の弦楽器では横板・裏板はメープルを使用しています。
ローズウッドで感じるような音の密度の低さや暗さが無く、個人的に好きな材料です。ローズウッド系の材料に比べて重心がやや腰高になる印象があります。
シープレス
フラメンコギターで良く使用される乾いた音色が特徴の材料です。軽くて柔らかく、アタック感があり余韻が短いです。
横・裏板シープレスを使ったスペイン製の某高額ギターでの演奏を聴く機会がありました。広いステージで弾くと、クラシック音楽にはマッチしないと感じます。
そのため、クラシックギター向けの材料では無いと思っていたこともあります。しかし、シープレスの「ドミンゴ・エステソ」を弾いてその印象を改めました。
自然な音の減衰が心地良く、ハカランダやメイプルと同じ音量感がありました。楽器はできあがった音で判断しましょう。(自戒)
マホガニー
どちらかというと安価な量産ギターに使用される材という印象です。
音質は柔らかく優しい音なのですが、余韻が短くややパワー不足に思います。マホガニーを使用した高額のギターも弾いていますが、音質は良いものの少し量感不足に思いました。
マホガニーを使ったギターの良し悪しも、シープレスと同じく個体によります。
ネックの材料
ネックでは、ホンジュラスマホガニー、セドロ、メイプル等が使用されます。「製作の個体差・表面板や横裏板の材質」が音に与える影響の方が大きく、ネックの材質ごとの音質を知ることは難しいです。
材質よりも、重さが音に与える影響が大きいように思います。
19世紀ギターやリュートのネックには、芯材にスプルース等の比重が軽い材料を使用し、外側に硬度のある材料を突き板として貼っています。
楽器を軽くするためです。
ヴァイオリンやチェロはネックもメイプルです。ギターでネックにメイプルを使用したものは音が鈍かったです。擦弦楽器のようにエネルギーを与え続けられるものはメイプルで良いのでしょう。
また、ネックに関しては、反りにくいことなどの機能面も求められます。
以下に、私が持っている楽器のネックの写真を張ります。
セドロよりもホンジュラス・マホガニーの方が赤みがあります。(そうでない場合もあるようです)ホンジュラス・マホガニーの木目の方が線が細く、くっきりしています。
クラシックギターに使用する材料のまとめ
表面板は、どうやっても使った材料の特徴が出ます。杉なら杉の、松なら松の音がします。
裏板・横板は、表面板ほどははっきりと違いが現れません。表面板や製作者との相性によっては使用した材料のデメリットを感じない個体があります。
色々な材料を説明しましたが、ギターはできあがった音が全てです。上記に書いた材料の特徴を全く感じない楽器もあるでしょう。
しかし、デメリットを知っておくことでチェックポイントを持てる強みもあります。私の場合ですと、ローズウッドのデメリットを始めから知っていれば、いくつか無駄な買い物は減らせました。
(デメリットを感じないローズウッドならOKです)
これらの知識が楽器選びの助けとなれば幸いです。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。