M.M.ポンセが作曲したソナタ・ロマンティカの
第4楽章「アレグロ・ノン・トロッポ・エ・セリオーソ」は
組曲の最後を飾る曲であり、高速のアルペジオ(amim)が登場します。
(指のパターンはmipiでも弾けますが、弾けない箇所もあります)
クラシックギターの曲の中でJ.ロドリーゴのトッカータが最も難曲と言われていますが、
右手の難易度においてはソナタ・ロマンティカの第4楽章もかなりの難易度
ではないでしょうか。
このアルペジオを理由に組曲そのものを弾かない人もいるかもしれません。
(元から弾ける人にとっては何でもない曲でしょうが)
この曲を献呈されたセゴビアはそれほど速いテンポで弾いておらず、
まだ真似する気にもなるのですが、
(録音により熱量が削がれて少し遅く聴こえるだけで、セゴビアも充分速いです)
現代ではマルシン・ディラ氏、ザビエル・ジャラ氏、サネル・レジチ氏、猪居亜美氏が
快速の演奏を繰り広げており、このスピードに慣れてしまうと
アルペジオの部分に限ってはセゴビアの演奏は聴き劣りしてしまいます。
何人か、プロやトップレベルのアマチュアの演奏を聴きましたが、
「大変そう」という印象を拭えませんでした。
M.M.ポンセのソナタ・ロマンティカは今回取り上げた第4楽章のみ
原典の楽譜が見つかっておらず、セゴビア編のみ存在します。
私は「如何にセゴビアの改編が素晴らしいもの、効果的なものであったとしても
原典に目を通して意図を確認した上で曲を弾きたい」と考えていますので、
第4楽章のみ原典版を参照できないことは大きなマイナスです。
(セゴビアが演奏困難と見なした部分も、技術の研究が進んだ
現代のギタリストであれば弾けるかもしれません)
しかし、そういったマイナスがあったとしてもこの曲は素晴らしく、
手を付けずに通り過ぎることは出来ません。
アルペジオの困難さをこの曲を弾かないための言い訳のひとつとして使っていたのですが、
この機会に対応策を考えてみました。
難しさの理由
登場頻度が低いアルペジオのパターンである
この「amim」というパターンのアルペジオは他の曲であまり登場しません。
なおかつ、薬指aで弾くトップノートが1弦から3弦まで様々な弦に跨っています。
高速でaとpを同時に弾く
トレモロのように高速で指を動かす意識(以下、アルペジオ感覚)でなければ、
この曲はセゴビア以上のテンポで弾けないでしょう。
欲を言えば、この速さで親指pをプランティング出来るスキルが欲しいです。
この能力はバロック等のアーティキュレーションでも役に立ちます。
32分音符で親指pを連続して弾く
アルペジオの最小音価で親指pを連続して使う部分があり、当然難しいです。
しかし、これはその他の部分が弾けるようになってから
心配すれば良い部分かと思います。
「ami」でプランティングが出来ない
「ima」の順番に比べて、「ami」プランティングが難しいです。
また、プランティングすると音が切れてしまうフレーズです。
話は変わりますが、最近指摘を頂くことがあり、
この曲に関わらずアルペジオでプランティングを多様することは
避けようと思いました。
どうしても音は切れていますので、耳が良い方には気になるようです。
(どちらも出来たほうが良いでしょう)
高速アルペジオを会得するには
コツ
- 「ゆっくり、指の分離を意識して弾く練習」と
「アルペジオ感覚の高速で指を動かす練習」を
区別し平行して練習すべきです。 - aがトップノート、旋律を弾くので、
アルペジオの感覚は「a+mim」になると思います。
スピードを上げるための初期段階では「ami+m」の感覚ですが、
音楽を仕上げる過程で徐々に切り替わっていくように感じます。 - 動きを小さく、なおかつ、手ではなく指で弾くようにします。
- 薬指aと人差し指iを、それぞれを弾いた後すぐに動かす感覚があれば
高速のアルペジオ感覚をキープしやすいです。
「aの直後にi」「iの直後にa」を繰り返します。
間の中指mはないがしろになりますが、始めは汚かったとしても
とりあえず弾けるようになるのが先決です。 - a、m、iのうち、どれか1本は弦に接している(プランティング)イメージ
で弾きます。
これは、スピードの面でも、右手の安定感の面でも有利です。
「結局プランティングするじゃないか」と思うかもしれませんが、
高速の中の極めて短い時間なので、(多分)大丈夫です。 - iを弾く弦の上に待機させておきます。
弾き手の感覚としては「弦の上のどの位置にいるかをiの指で感じる」ことです。
右手の位置感覚をロストしにくいだけでなく、
これを行うことで弾く前に自然と人差し指iの位置が弦に近付きます。
今回のパターン「amim」もトレモロ「ami」も、
薬指aから弾き始めるので、人差し指iの待機場所が遠くなり、
動きが大ぶりになりがちです。
(少なくとも私は) - 耳で音を聴き、音のパラメータを指の感覚と一致させます。
音のパラメータとは「音量」「音色」「音価」等です。
特にプランティングすると音は消えてしまうので、
音の断絶が許せるものなのかどうかを区別しましょう。
また、巻き弦を弾く際は右手のノイズが大きくなりますので、
ノイズにも気を配りましょう。
この感覚が無いまま我武者羅に練習していると、
脳が混乱し手を壊しやすいのではと思います。
習得のステップ
このアルペジオを習得するには、
高速のアルペジオ感覚を保ったまま弾けるようになる必要があります。
遅いテンポからコツコツやっていては、中々この感覚になりません。
練習の初期で音楽がぐちゃぐちゃになったとしても、
高速で指が動く感覚をキープする練習を取り入れるべきです。
(自分の理想の音が出ないため、無意識にブレーキがかかると思います)
その状態からアルペジオの音の間隔や音質を揃えていった方が上達が速いでしょう。
指先の感覚と音の一致は、
後からアルペジオの音を個別に聴いて意図的にリンクさせ、
脳に指の動きと結果(どんな音か)を理解させます。
これは荒療治ですので、くれぐれも怪我には気をつけて下さい。
自分の身体の声を聴いて、毎日少しずつ練習しましょう。
練習方法
- amimだけ弾く。
まずは、親指p抜きでamiだけで練習します。
何が出来ていないのか、最小単位で分析しましょう。 - ①の後、親指pを付ける。
上のamimに親指pを付けます。
難易度が急に上がります。 - 親指pを弾く位置を変えてみる。
拍の頭ではない音でpを弾く練習します。
また、いつpを置くのかを工夫することも重要です。 - アルペジオを3対1のブロックで意識を分けて弾いてみる。
一番簡単なブロック分けは「ami+m」かと思いますが、
「a+mim」や「i+mam」の意識でも弾いてみます。
ブロック分けした単位でリズムを創作して練習すると効果が高いです。 - amaのパターンを練習する。
このアルペジオでは「ama」のパターンが出てきませんので、
「ama+i」等で音を変えて練習してみます。 - mipiで弾き、それと同じ表現をする。
これが中々効果があります。
mipiであれば、かなりの速度が出ますので、
この音の印象を頭に残したままamimで弾いてみると
印象に引っ張られて速度が上がります。
追記:ある程度の速さで弾ける目処が立ちました。
最終的に下記の練習がおすすめです。
拍の頭で低音を連続して弾く。(4拍子で4つ打つ)
- 低音を弾く弦は4弦~6弦を移動する。
その際、アポヤンドや背面の消音等で
音量や音価を自在にコントロールする。
(その際、上のアルペジオに一切の乱れがないこと) - 上記と同様に拍の頭で低音を連続して弾く。
低音を弾く弦は6弦で固定する。
アルペジオの弦を「1弦から3弦」~「3弦から5弦」と順番に移動させる。
移動の際に弦を弾く順番が下記のようになるため、
同じ弦を連続して弾く部分と1本飛ばしの部分で切れ目が無いようにする。
アルペジオの区切りで/を入れています。
①→②→③→ ②/→② →③→④→ ③/→③ →④→⑤→④→・・・
③→④→⑤→ ④/→② →③→④→ ③/→① →②→③→②→・・・
これを行うと得られる効果として、
トップノートを弾く弦でプランティングをしなくなります。
雑にスピードを上げて練習したとしても、
旋律を消さない動きを習得出来ます。
なるべく曲を弾いた方が良い
始めは開放弦で練習しても良いのですが、
開放弦の練習では、曲のイメージによる理想の姿が無いので、
無遠慮、無造作に弾いてしまいます。
要求される音の内容(音量やバランス、音質、ノイズ、音の切れ方)に
曲を弾いた段階で気付かされる訳です。
曲を弾くことで、初めは汚くても音に慣れましょう。
低音弦に差し掛かったときの爪の音や音量バランスに特に気を付けたいところです。
このアルペジオの会得のために別の曲で練習することも、不要かと思います。
左手が難しければ、前半の簡単な部分だけで練習しましょう。
今回の記事は以上となります。
このアルペジオで今回書いた練習方法を使えば、
最小単位としての
「im」「mi」「ma」「am」「ia」「ai」は
全て練習出来ます。
暴論ですが、この曲をいつでも弾けるようにしておけば、
他のアルペジオ練習は最小限で済むかもしれません。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。