演奏技術

(続き⑧)楽器を豊かに鳴らす方法について。

楽器を豊かに鳴らす方法について、技術的な進展・変化があった感覚がありました。
再度記事にまとめます。

タイトルが「太い音」でなくなったのは、「太い音」=「楽器が鳴っている」ではないと気が付いたからです。
(結局、楽器が鳴っていると、音が太いと感じますが)

「楽器が豊かに鳴る」状態とは?

音の芯が太く、低音が楽器全体を震わせているのが分かるような鳴り方であれば、「豊かに鳴っている」と思います。
あまり良い例が思いつかなかったのですが、下記にファビオ・ザノン氏の動画を貼ります。

楽器がロベール・ブーシェですので、音色が良いのは当然なのですが、並の奏者ではここまでリッチな音にはならないのではないでしょうか。
あえて粗探しをするような聴き方をすれば、このレベルの奏者であっても力みがある音もあります。
(意図的に細い音色を使っている部分は別として)

この状態になると、楽器はよく鳴り、タッチに対する反応も良いです。
「楽器が良く鳴る状態を達成すること」=「セゴビアトーン(広い意味でのギターの理想の音)」なのではないかと勝手に思っています。

前提:抵抗・引っかかりは楽器の振動を止める

楽器を豊かに鳴らすために必要なこととして「弦に対して、抵抗・引っかかりがないこと」が重要です。

ギターの発音原理はシンプルで、指・爪を使って弦を振動させます。
複雑なことをやっているように感じますが、単なる物理現象です。
「指・爪・手」の側に引っかかりや抵抗・力みが存在すると、楽器の振動を止めてしまいます。
(他の楽器も、人間の喉も、同じ)

「どうしてあの奏者の音は豊かなのか?」という疑問があるとします。
その答えは「楽器の振動を邪魔する抵抗がないから」というただそれだけなのだと思っています。

「爪の質や形、手のサイズや柔軟性、技術」といった結果・方法に注目しがちです。
そこで、「抵抗・引っかかりを無くすにはどうすれば良いか」という視点で自分のタッチを見直すことが重要です。

一時的に固めるのは良い

「引っかかりや抵抗・力みを無くす」というのはレギュラーで使うタッチに関する話です。

音色の変化のために一時的に関節をロックするのは必要な技術です。
(それであっても、力みという表現は違う気がします)

セゴビアの音は硬いが?

音が豊かな奏者の代表はやはりギターの神様アンドレアス・セゴビアだと思います。
彼が常用する音は硬い音です。

「引っかかりや抵抗・力みがない」状態とセゴビアの硬い音は矛盾するように感じるかもしれません。

個人的には、セゴビアが常用する硬い音は「引っかかりや抵抗・力みがない」状態で出す芯がしっかりある音だと思っています。
(生で聴いていないので分かりませんが)

弦に対して抵抗のない爪を作る

楽器を豊かに鳴らすためには、弦に対して抵抗のない爪を作ることが必須です。

初心者が弦を捕まえるために、爪が弦に引っかかるようにしているのを見かけます。
この状態では大きな音を出した時に抵抗が大きく、楽器の振動を止めることになります。

抵抗がないことは必須の条件ですが、長さは人それぞれです。

爪は柔らかい方が良い(と個人的に確信している)

ギターを弾く右手の爪に関して、音だけを考えるなら柔らかい方が良いと思っています。
あまり厚くない方がしなりも効くでしょう。

爪の柔らかさは、関節の柔らかさと同じだと私は思います。
(物理的には)
欠けたり、折れたりというトラブルもあると思いますが、音の面では爪に柔らかさがあった方が潰しが効くと考えています。
あまりタッチを追求しなくても、この記事で書いている豊かな音を出せている人も多いでしょう。

私は残念ながら、爪が厚くて硬いです。
人差し指「i」の爪は曲がっている(少し鷲爪)ので、伸びてくると抵抗が大きくなります。
柔らかさで逃すことも出来ないため、人差し指「i」の爪にはとても気を使います。
爪が硬いことにより手で柔らかさを確保する必要があるため、大きなハンデだと感じています。
(洒落にならない)

ジュリアン・ブリームの話

ジュリアン・ブリームは爪が弱く、薬指「a」の爪が綺麗でなかったため、この欠点が無ければ彼は演奏家としてより素晴らしい存在だったのではという話を聞いたことがあります。
この点について、半分同意、半分反対です。

また別のエピソードで、ジュリアン・ブリームは演奏中にとても力むため、「最も音が美しいのは調弦のときだった」という話も聞いたことがあります。

力みがちなブリームが爪まで硬かったとしたら、演奏はより難しくなったのではないでしょうか。

爪は磨き過ぎなくても良い

良く言われる「爪の断面を細かいやすりで仕上げる」ことは、太い音を出すためには重要です。
しかし、音が少し細くても楽器が豊かになっていればかまわないのであれば、爪磨きにそこまで神経質にならなくても良いと思っています。

これはギター業界で言われるプロの常識とは異なった意見です。
もちろん、爪の断面にエッジがないに越したことはないです。

掌(てのひら)や手首から指を動かす

爪の形を整え抵抗を減らしたとしても、私は爪が硬く、柔らかさの確保が難しいです。
難曲を弾いた際は特に右手が力み楽器のテンションがどんどん硬くなってしまいます。
張りが強く、いかにも弦が古いときのような音がします。
(実際に弦はかなり古いです)

そこで「右手の脱力」を追求してみました。
弱音であれば、楽器が柔らかい状態を保って弾けるような気がします。
しかし、ずっとこの状態ではフォルテが出せません。

ここで、右手を脱力した状態でフォルテを出す方法を試行錯誤し、何となく感覚を掴みました。
それは「指を掌(てのひら)の奥から動かす」ことです。
(手首あたりから指を動かす)

この意識で弾くと、掌(手首)より先の関節を柔らかいままにしたイメージで弾くことができます。
物理的には指は手の付け根の関節から動くのですが、意識によって力の入り方・関節の固定の仕方が変わります。

「指を掌(手首)から動かす」というのは、良い音を出す友人と会話していた際に聞いた内容でした。
私はその際に「そんなことできるんかいな」と思ったのですが、良い音を出すためには重要な要素だったようです。

「掌の奥から指を動かす」というのと同じニュアンスで、元陸上選手の為末大氏が「足がお腹から生えているように意識すると良い」ということをYoutubeで言っていました。
走ることとギターを弾くことは共通するようです。

指の先端を反らすのはどうか?

指の先端を反らして柔らかい音を出すことは可能です。
しかし、これは意図的に調整を加えたタッチであり、演奏時にこれを常用するのはかなり気を使います。
ここからさらに柔らかい音を求められたときの幅もありません。

また、多くの人は指先を反らせた場合、爪の先端に弦が引っかかってむしろ抵抗が出来てしまうのではないでしょうか。

抵抗を動きで逃すのはどうか?

弦に対してリリースを斜めにすると、抵抗を弱めることが出来ます。

この弾き方も、常用できるものではありません。
レギュラーのタッチは、ノーコストで繰り出せるものであるべきです。

リリースを斜めにするのは、楽器の抵抗を避けようとして個人的にずっと試していました。
音の芯がなくなって柔らかい音になりますが、弦の感覚はとても硬かったです。
(力みがあったため)

脱力して弦にまとわりつくイメージ

良い弾き方に話を戻します。
手の関節全てを緩めて弦を捕まえて(プランティング)、指を握り込む力を掌側で発生させます。

脱力すると、弦を捉えることが簡単になり、弦と指・爪の設置面積も増えます。
全ての指が弦に当たるので、特定の声部が鳴らないことも減ります。

親指「p」が重要

楽器を豊かに鳴らすには、低音が豊かになることが重要です。

しかし、ギターを弾く際に使う4本の指の中で、親指「p」を脱力させることが一番難しいのではないでしょうか。
私は親指以外のimaの力を抜いて、完全に脱力した気になっていました。

親指も和音であれば脱力して弾く感覚が掴みやすいです。
掌の付け根から親指を動かし、それより先の関節は完全にフリーにします。
そうすると、指先が自然に弦にアジャストし、親指の設置面積が増えます。
これを行うと、楽器全体を震わせるような低音が鳴ります。
(通常と比べると太く鳴り過ぎて違和感があるかもしれません)

単音の親指「p」が課題

和音と比べると、単音の親指「p」は非常に難しいです。
私はつい弦に引っかけて弾いてしまいます。
力みのある頃の弾き方に慣れていて、弦を弾く時に抵抗があると安心するせいではないかと考えています。

今の私は、和音で楽器に与えた振動の貯金を、単音で取り崩しながら弾いている状態です。
アポヤンドすると楽なのですが、アルアイレせざるを得ない部分もあります。
アルアイレの親指「p」の質を高めることは重要です。

サウンドホール上でしか弾けない人は注意

手がサウンドホール上にある

右手の位置がサウンドホール上でないとギターを弾けない人は、タッチに改善の余地があると思います。
(私はまさにこの状態に陥っていました)
具体的には以下の感覚がありました。

  • サウンドホール上でないと、音が硬く感じる
  • サウンドホール上でないと、張りが強く感じ、弾きにくい

この記事に書いたようにタッチを改良した結果、「i」「m」「a」の3本の指がサウンドホールの下に来ても、音が痩せずに弾けるようになりました。

まだサウンドホール上で弾く癖は抜けていないので、人前演奏で私がサウンドホール上で弾いていても「ブログと違うぞ」と責めないで下さい。

とはいえまだまだ道のりは長い

偶然でなく、意図的に楽器を豊かに鳴らせるようになったので、楽器を弾くのがだいぶ楽になりました。
目標としていた音質を8~9割は達成できています。
半年以上張りっぱなしの弦で楽器を鳴らすことができるようになったのは素直に嬉しいです。

ただし、私が弾いた後の楽器のテンションは理想と比べてまだまだ強いです。
楽器を1日放置して緩んだ状態のテンションと、練習を開始して楽器が落ち着いた状態のテンションが違います。
楽器を鳴らしきる友人が弾いた後は、この2つのテンションがあまり変わりません。

手全体が柔らかくなるよう、もう少し改善策を考えてみます。
爪の硬さ・厚さだけはどうにもならない問題と感じています。
(爪が硬い分、整える頻度も上げるべきと思いました)

今回の記事は以上となります。
最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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