「良い演奏はどんな演奏か」と問われれば、大雑把に「音楽的に豊かでミスが少ない演奏」と思うのではないでしょうか。
また、コンクールやオーディションではミスの質や量によって評価が別れてしまいます。
プレッシャーがかかる状況では緊張し、よりミスが増えるわけですが、演奏者はそれに向き合っていかねばなりません。
今回の記事では、ミスに関する自分なりの結論を書きます。
ミスは絶対に無くならない
何とかミスを減らしたいと思った私は、過去の現代ギターのテクニック講座を読み漁りました。
その結論として、世界の名だたる巨匠達が「ミスを無くせる方法があったら私が知りたいよ」とインタビューに答えているのをいくつか目にしました。
効率の良い練習方法は沢山あり、結果的にミスを減らすことは出来ますが、ミスを無くすことは出来ません。
ミスを減らしたいとばかり考えている人は「潔癖症のようなもの」で、完全にミスがゼロになるまで恐らくずっと満足出来ないのではと思います。
練習やメンタルトレーニングによってミスが減ったとしても、僅かに残ったミスに心は囚われ続けるでしょう。
(完全に私です)
「絶対に失敗しないようにしよう」と考えると、逆にミスは増えてしまいます。
「たまに失敗しても良い」位に考えるようにしましょう。
ある実験で「特定のものを絶対に考えないように」と指示した場合は「逆にそのことが頭から離れない」傾向があるという結果があります。
ミスを減らすことだけが目的にならないように
ミスを減らすことだけを目的に練習することは、効率が悪くなってしまうでしょう。
やりがいがなく、単なる作業として練習をこなす状態になりがちです。
エドゥアルド・フェルナンデス氏が言うように「常に作品の音楽が要求することを実行するために練習する」と思って練習した方が、努力の中に楽しさや喜びがあると思います。
楽曲において、良くミスする箇所を練習するのは「ミスを減らすため」ではなく「ミスによって損なわれている表現や曲の流れを取り戻す」と考えれば良いのではないでしょうか。
指の運動としての意味しか持たない練習はしないと答える演奏家がいるのも上記のことが理由だと思います。
デヴィッド・ラッセル氏が言っているように、最小限の指の運動に着目して練習するのはとても大事なことです。
しかし、アマチュア奏者はそれを音楽のために行っていることを忘れ、指の運動になりがちです。
私は以下のように考えて、結果的にミスが減れば良いと思っています。
(というか、思うように心掛けます)
- 右手
正確に弦を捉えることにより、音楽に応じて様々な音を容易に出すことが出来る。
自分の理想の音楽を再現し届けるために、安定した表現を目指す。 - 左手
無駄のない動きと力で弦を押さえることにより身体の制限に縛られず、表現の自由度を増やす。
自分の理想の音楽を再現し届けるために、安定した表現を目指す。(右手と同じ)
私は趣味でテニスをしていますが、サーブで「ネットにかけない、オーバーしないように」と考えるか、「ネット上の高さ何cmを通して、ワイド・ボディ・センターのどこに打つのか」と考えるかで、コントロールするという点では同じでも意味合いは大分違うと思います。
音楽も一緒だと思います。
ミスに関する集中とフィードバックのジレンマ
スキルの上達にはフィードバックが欠かせません。
しかし、演奏中に発生したミスに気を取られていたら「今」に集中することは困難でしょう。
もし、演奏中は今出している音や身体の動きに集中し続け、演奏後には起きたミスのことを詳細に覚えていたら、それは理想的です。
弦に対してどちらの方向に指を外したのか、力の入り方が多かったのか少なかったのか等そういったミスのフィードバックがあれば(記憶していれば)最も効率良く上達出来ます。
現時点での私の結論では、恐らく「ミスを詳細に記憶すること」と「今に集中すること」の両立は不可能です。
(個人的意見です)
「チェスや将棋のプレイヤーが棋譜を完全に再現出来ること」と「演奏家が演奏の内容を覚えていること」は別の話だと思っています。
演奏家にとっては通り過ぎたミスは全て過去のもので、なおかつそれは運動によってもたらされたものです。
チェスや将棋のように思索の結果によって導き出したものではないので、意図的に集中しなければ細かく覚えていないのは当然ではないでしょうか。
私の結論としては、以下の通りです。
(ここまで明文化しておかないと、「効率の良い練習」と「ミス」の狭間でずっと迷うのではと不安になりました)
- 曲を通して練習をするときは「今」に集中し、ミスはどの箇所で間違ったか大まかに思い出せるくらいにしておく。
- 大まかに記憶したミスの箇所を取り出して部分練習し、ミスの原因を探る。
この練習に切り替えた際はミスの細かい内容に気を配って、改善のためのフィードバックとする。
ミスをすることへの対応
ミスは間違ったことをしたときに教えてくれるもので、成長や技能の習得に重大な役割を果たしています。
また、現時点での己の限界を超えていかなければ成長はありませんので、ミスは挑戦の結果とも言えます。
本番では、ミスをしたら「如何に集中力を途切れさせないか」が重要です。
ミスが他のミスや悪影響を発生させることが問題なので、対策を考えます。
自分の反応や思考の傾向を把握する
ミスをしたら、以下の反応や思考が起きるでしょう。
人によってこれは様々です。
- しまった!と思い、筋肉が硬直する
- 脳内でミスの分析が始まる(押さえの力が足りなかった、弦へのセットがズレた)
- 「沢山練習したのに」等のミスの否定をする
- ミスをしたことによるコンクールや他人の評価(起きていない未来のこと)を気にする
ミスをしたときの対処
①ミスを受け入れる
起きたミスをすぐにそのまま受け入れます。
良し悪しは判断せずに「音がでなかったな」「音がビリついたな」くらいに思うのが良いでしょう。
間違ったことで焦りや怒りを感じた場合は、それも受け入れます。
②演奏をしている「今」に戻る
ミスをしたことはすぐに過去のことになります。
そのため、「今」にすかさず意識を呼び戻します。
意識を呼び戻すためには上記の「ミスを受け入れる」だけという作業が重要です。
以下の行為は避けましょう。
- ミスの原因を振り返る
- ミスの被害による未来の結果を心配する
- 繰り返しで登場する同じ箇所のことを考える
③自分が緊張しやすい筋肉をリラックスさせる
間違ったときには、筋肉の硬直は起きやすいのですが、逆にこれを身体をリラックスさせる合図にします。
上記に書いた分析が始まる前に、身体をしなやかにする作業を始めてしまえば良いでしょう。
そのためにも、自分が硬くなりやすい身体の部位を把握しておきます。
個人的には、フォームを整え直すのも良いと思います。
「整える」や「正しくする」という表現は好きではないのですが、「ニュートラルポジションに戻す」ということです。
④ミスしたときに「何を意識するか」用意しておく
「曲に集中する」「そのまま続ける」等、ミスをしたときの自分への指示を用意しておきます。
これはかなり効果的だと思うのですが、どの指示が自分に合っているかをこれから模索するつもりです。
以下の案を考えています。
- 脳内で旋律を音名で歌う
(普段から音名で歌っておく) - 旋律、和声、リズムの中から特に表現すべき点に注意を向ける
(効果的だが、緊急時の指示としてはやや複雑か) - 左手若しくは右手の感覚に集中する
(逆に視野が狭くなりすぎる可能性もあります) - 緊張しやすい部位と右手、左手をリラックスする
(上の③で述べていた内容で、無難です)
⑤挽回しようとしない
起きてしまったミスを、これから先の演奏で取り返そうとしないことです。
速いパッセージを滑らかに弾いても、美音で歌っても、過去のミスは消えません。
挽回しようとすると、ミスによって起きた出血がより酷くなる可能性が高いです。
動画を撮ることでミスの量を把握しておき「それなりに上手くやる」ことが重要です。
私も良く「こんなはずじゃない」と思ってしまうので「今の実力ならこんなもの」とミスを流せるようにしたいところです。
今回の記事は以上になります。
今後は、演奏の動画を撮ってミスの種類や傾向を分析し「ミスしたときに意識すること」の精査を行う予定です。
ミスの種類によって、緊急指示の内容も異なるかもしれません。
効率的な上達のためのミスの受け止め方も「通し練習では流す、部分練習では分析する」でひとまず結論を出しています。
練習する上で悩みは尽きませんが、考えることをやめないようにします。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。