ギタリスト樋浦靖晃先生と奥様の伴子さんが企画されているイベント「第3回じじいサマースクール」に参加致しました。
とても楽しい時間を過ごすことが出来ましたので、もし次回の参加を検討の方がいらっしゃいましたら参考になれば幸いです。
じじいサマースクールとは
「じじいサマースクール」とは、現代ギター社により毎年開催されているイベント「GGサマースクール」が2015年以降開催されていないため、金庸太先生の企画により発足したイベント(2泊3日の合宿)です。
なお、2017年以降、現代ギター社ではサマースクールに代わってマスタークラスを例年開催しております。
私は2018年の第2回じじいサマースクールに参加させて頂き、大変充実した時間でしたので、今回も参加を決めました。
じじいサマースクールの場所
開催場所は以下の宿泊施設でした。
北陸新幹線で軽井沢駅まで、そこから更にしなの鉄道で小諸駅まで移動しました。
私は初めての軽井沢~小諸だったのですが、緑豊かで風光明媚な場所でした。
日常と異なる場所に来たことにより合宿への期待感は否が応でも高まりました。
じじいサマースクールの内容
2泊3日の合宿で下記の内容を実施します。
(1)公開レッスン
1コマ45分の公開レッスンが3人の講師により行われます。
受講者一人につき基本は2回レッスンを受けることができます。
今回、金先生は多忙により参加出来ませんでしたので、以下の3名のギタリストが講師を務めました。
- 樋浦靖晃先生
- 上野芽実先生
- ザビエル・ジャラ先生
(2)講師陣によるコンサート
3名の講師により、1時間程のミニコンサートが行われます。
講師の方々は1日中マスタークラスを行っており、ほとんど取れない練習時間の中、極めて質の高い演奏を披露していました。
改めて演奏家の皆さまの能力の高さを感じることが出来ました。
(3)参加者による発表会
サマースクールの最後に参加者による発表会が行われました。
また、宿泊したホテルの入口スペースにて同じく参加者によるロビーコンサートも行われています。
わざわざこんな合宿に参加するくらいの皆さま(失礼)ですから、熱心にギターに取り組んでいる方々ばかりで大変聴き応えがありました。
中にはプロ志望の方や音大に在籍中の方もおります。
幅広いレベルの方が参加しており、初心者の方の心のこもった発表を聴いて、演奏の良し悪しは曲の難易度や技術で決まるものではないと再確認しました。
演奏順を決めるじゃんけん(最初と最後と上手い人の後は弾きたくない)
(4)ワイナリー訪問
これは昨年は無かったイベントなのですが、ワイナリーを訪問しワインの試飲と昼食を楽しみました。
普段私はお酒は全く飲まないのですが、ワイナリーで飲むワインは絶品でがぶがぶ飲んでしまいました。
レストラン「ラ・コモーロ」でのお食事含め大満足です。
各講師のレッスン、演奏について
樋浦靖晃先生
演奏
以下の曲を演奏しておりました。
どれも樋浦先生の18番と思います。
- ギターのためのトッカータ/伊福部昭
- 静けさ/F.ソル
- カヴァティーナ/S.マイヤース
ザビエルと同じ楽器、ユーゴ・キュビリエを使用した演奏でした。
音量のある楽器ですが、余裕のある最大音量を確保しつつ繊細に音楽を作っておりました。
樋浦先生節の発揮された、演奏に筋が通っていて、なおかつはっきりとしたメッセージが伝わる演奏でした。
レッスン
私は樋浦先生のレッスンは受講出来なかったのですが、いくつかレッスンを聴講させていただきました。
受講者及び受講曲に合わせて、先生の豊富な引き出しから解説、指摘がされており、演奏にすぐに反映できるものが多かったように思います。
主催者としての樋浦先生のお人柄を感じるレッスンでした。
上野芽実先生
演奏
2018年にリリースされたCD「アントレ」に収録されている曲のうち、以下の3曲を弾いておりました。
- 朱色の塔/I.アルベニス
- アルハンブラの思い出/F.タレが
- 序奏とロンド/D.アグアド
それぞれの曲に合わせてかなり幅の広い表現をしているのですが、演奏はどこまでも上品さが貫かれています。
また、テンポがぶれない、流れないので音楽が大きく感じました。
喜びや驚き、悲しみなどの沢山の鮮やかな感情に溢れていながら、いつまでも聴いていたいと思わせる品のある演奏でした。
レッスン
一人ひとりと誠実に向き合って、演奏に必要な要素を見抜き、的確な内容を指導しておりました。
演奏も表情豊かでしたが、レッスンも受講者、曲に合わせて全く違ったものになっていて、どちらも上野先生の個性が発揮されたパフォーマンスだと感じました。
レッスンを聴講していて、楽曲の理想とするイメージと、その実現へ向けて正確に導く優れた耳と観察眼をお持ちであることがわかります。
上野先生が師事してきた先生方の影響も何となく感じました。
ザビエル・ジャラ先生
演奏
以下の曲を弾いておりました。
- 組曲ニ長調よりプレリュード/M.M.ポンセ
- フォリアの主題による変奏曲とフーガ/M.M.ポンセ
表現の限界を極限まで追求した演奏でした。
この曲でここまで攻められるのか!と思った瞬間がいくつもありました。
それは、技術的に不足があれば陳腐なものに成り下がってしまうと思うのですが、ザビエルは一切の破綻がありません。
ザビエルは演奏により自分自身ではなく音楽そのものの伝えようとしており、その音楽への献身が聴く人に大きなものを感じさせる独特の感覚を呼び起こすことが出来るのかもしれません。
聴いていて鳥肌が止まりませんでした。
レッスン
今回、ザビエルのレッスンを受講、聴講していて演奏の秘密の一旦を垣間見たような気がしました。
- 音楽表現
受講者が「表現しているつもり」の箇所であっても、「ここまで表現出来るよ!」という指摘が非常に多かったように思います。
(その限界に迫った表現を品格を保ったまま行うのが難しいのですが)
- 技術面
「右手」
(1)手の付け根の関節から動かして弦に圧力を加える
(2)弦が指を避けることで音が出る
(3)弾いた指は隣の弦(1弦なら2弦)のぎりぎりを通る
(4)弾いた後は脱力により指は定位置に戻る
「左手」
押さえ替えやエクステンションの際に腕から動かす、という指摘が個人的には収穫でした。
無駄な動きを減らそうという練習をし始めた人は、必要な動きまで無くしてしまったり、指先だけで動かそうとしてしまいがちです。
「積極的に小さな腕の動きを取り入れること」「左手の型のひとつとして腕を動かさないこと」の区別をして練習に取り入れようと思いました。
世界の最先端を走るプレイヤーとして、音楽表現及び技術の両面で大変実用的なレッスンであったように思います。
個人的な感想
初めてザビエルの演奏を聴き、レッスンを受けたのは2015年です。
どちらも衝撃的な体験で、自分がどれだけ生半可な姿勢で音楽と接していたかを突きつけられる思いでした。
それ以降、軽率で浅い感性に頼るのをやめ、出来る限り考え抜いて演奏しようと決意した結果、演奏だけでなく、自分の人生そのものが少し変わった気がしました。
今回の合宿に参加した理由も、自分に大きな変化をもたらしてくれたザビエルの音楽にまた触れることが出来れば、と考えたからです。
結果、ザビエルだけでなく樋浦先生、上野先生、参加者の皆さまと関わることが出来、
「ギターとどう向き合うのか」について明確な指針を持つことが出来ました。
優れた演奏は「音楽にどれだけ真摯に身を捧げているか」がそのまま演奏ににじみ出ているように思います。
精神論ではなく、音楽への姿勢が「どれだけ楽曲を掘り下げたか」に繋がっているように感じました。
3日間、参加者の皆さんと一緒に過ごしていて、少なくない方の人生を変えた合宿だったのでは、と勝手に思っています。
以下は最終日の寝不足による疲労がピークに達した写真です。(ザビエル先生は早寝早起き)
背景の浅間山はいつもと変わらぬ姿です。
著者は、隣の伴子さんに押されつつ、「高校生の女の子に迷惑をかけたらイカン!」と必死に踏んばっておりました。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。