楽器

益田正洋氏のクラシックギター銘器5本の弾き比べを聴きました。

プロギタリストの益田正洋氏がYoutube上で銘器と呼ばれるギター5本の弾き比べをしていました。
(公開レッスンはお聴きしておりますが、直接レッスンを受けていないため先生でなく氏と表記)

当初はあくまで私個人で楽しもうと考えていました。
しかし、詰まっている情報量の多さに圧倒されまして、記事を書いております。
私はここに登場している楽器(製作家としてでなく、個体そのもの)は全て弾いています。
そのため、それなりに参考になるかと思います。

ぜひ皆様も可能な限り良い再生環境で聴いて頂ければと思います。

私は普段のリスニングではDTM用途のモニタースピーカー(パワードスピーカー)を使っています。
分析するような聴き方をする場合、ヘッドホンの方が違いが良く分かります。
私はソニーの青帯と呼ばれるヘッドホンを使っています。
ソニーのスタジオ用ヘッドホンでは、日本では赤帯がメジャーです。
しかし、観賞用に使うものではないので、安い青帯の方で良いと考えています。
青帯は宇多田ヒカルさんも使用しています。

益田正洋氏の演奏について

今更私が語るまでもなく、大変素晴らしい演奏家です。

情熱的で推進力があり、楽器の魅力・音色を最大限に表現しています。
身体の使い方も非常に効率的で、体幹や芯の強さを感じます。

素人がこの「感情・エネルギー」だけを真似しても、絶対にこの演奏にはなりません。

技術的に基礎が出来ているからこそ、タッチの力の伝達効率が良いです。
「感情」だけ真似したら、力んで弾けないと思います。
熱量を求めても音楽的に聴こえるのは、西洋音楽の語法が深く根付いている証拠でしょう。

マヌエル・ベラスケス Manuel Velazquez(1952)

「ベラスケスはこうやって弾く」という最上のお手本となる演奏です。
この楽器でここまでやるのは相当大変かもしれません

私はベラスケスの音色は「軽い」と思って敬遠していたのですが、この動画の演奏を聴いてむしろ「軽いのが良い」と思わされました。

心地よい音色のクリスピーさが有りながら、全ての音が良く聴こえてきます。
音色にアタック感を持たせても、音は非常にふくよかで暖かいです。
自分では全くこのようには弾けませんでした。

サステインは短いのですが、音色の軽さと同じくむしろそれが良いです。
「減衰するから美しい」と思わされます。
5~6弦の音色は膨らみがある分、アタック感に欠けます。

J.L.ロマニリョス1世 J.L.Romanillos (1975)

益田正洋氏が自身で所有している製作家ということもあり、こちらも素晴らしい演奏です。
(追記、左手ばかり見ていましたが、右手は弾きにくそうです)
上記のベラスケスとロマニリョスは、楽器としての骨格は似ているように思います。
(弾いた感想)

こちらもギターらしさのあるアタック感が心地良いです。
ベラスケスより音圧があり、その分ステージ向けと思います。
自宅で再生して聴くには、ベラスケスの方がまろやかで優しいかもしれません。

ベラスケスが木質的でふくよかであるのに比べると、ロマニリョスはよりクリスタルさがあり、そこに音楽的な深みが上乗せされてます。
このロマニリョス特有の深みは毎回付与されるので、音楽的な幅を求める人は「よりプレーンな方が良い」と感じるようです。
このロマニリョスは割と木質的でプレーンな方だと思っていましたが、ベラスケスと聴き比べることで「何かが足されている」のを感じます。

ベラスケスに比べて重さのある低音は、クラシック音楽向けと感じます。

このロマニリョスは、私が最近手放したベラスケスと近い楽器だと思っています。
マヌエル・ベラスケス Manuel Velazquez El Clasico 松・ハカランダ(CSA) 1963年製 1963年【楽器検索|Jギター】

イグナシオ・フレタ Ignacio Fleta e hijos(1966)

ロマニリョスから比べ、フレタは更に重厚で弾力のある音色です。
このラインナップの中で聴くと、フレタの音色は大味に聴こえるように感じます。
演奏に関しては、他の楽器よりはやや弾きにくそうに見えます。

この楽器も音圧がありますが、ロマニリョスに比べると低い帯域になっています。
流石、「低音がバリトン」と言われる楽器です。
こちらも録音よりはホールの方が朗々とした様が分かるのではないでしょうか。

チェロとヴァイオリンを比べて、ヴァイオリンの方が情報量が多く聴こえるのと同じように、録音でフレタがやや大雑把に聴こえるのは仕方ないと思います。
マイクの種類やセッティングにより左右される部分も非常に大きいです。
この動画にはマイクが映っていないので、距離を離してアンビエントも含めて1本で取っているのでしょうか。
フレタの名誉のために書きますが、6弦の音に関してはマイクが捉えきれていない要素が多い気がします。
(距離とマイクの高さ?)

ロベール・ブーシェ Robert Bouchet(1973)

この弾き比べの中では、「ベラスケスとロマニリョス」「フレタとエステソ(スペイン)」は同じ要素を持つ楽器に分けられます。
今回の5本から範囲を広げたとしても、ブーシェはどこにもカテゴリー出来ないというのを録音を聴いて感じました。
(フリアン・ゴメス・ラミレスのような縦の繋がりは別ですが)

爽やかで瑞々しいギター自体の音の魅力もあるのですが、ブーシェの存在が音楽そのものであるように聴こえます。
和声の移り変わりが明瞭で美しいです。
4弦はやや詰まり気味かもしれません。

他の4本の楽器と比べ、サステインが長いです。
録音上のギター音楽として聴くと、充実し過ぎ・豊か過ぎにも聴こえます。
(じゃじゃ馬なところがある)
構造・素材の極端な変化を使わずに現代的な性能を求めたのがロベール・ブーシェなのだと感じました。

6弦の音のエッジが非常に美しく特徴的で、この点においてブーシェが好きと思っている方も多いのではと思います。

ドミンゴ・エステソ Domingo Esteso(1935)

録音の印象と、自分でこの楽器を弾いた際の印象が大きく違いました。
(大人しめなお嬢様と思っていました)
私が弾きこなせていないか、本当に別の楽器かもしれません。

クラシックギターの王道であるマドリッド派の音色の魅力が感じられます。
音楽が濃く、低音はドスが効いた泥臭さがあります。
ベラスケスに比べると粒立ちが良くシャープでアタック感のある音色です。
ドミンゴ・エステソはサントス・エルナンデスに比べるとクラシカルなイメージだったのですが、この録音を聴く限りではやはりスペイン・マドリッド色を感じます。

音色に幅があって情報量が多いにもかかわらず、各声部が良く聴こえてくると感じました。
カノンコードの途中までのような低音も気持ちが良いです。
私が所有しているホセ・ヤコピにもそういった部分があり、特濃なのに全ての声部が意思を持って聴こえる楽器は最高峰と思います。

他の楽器に比べると、冒頭のビブラートの幅が大きいように聴こえます。
理由は以下のどれかだと思います。

  • 弦長がやや短いか
  • 鋭敏に反応するか
  • 気持ちが入りやすい楽器か

4弦で主旋律を弾く際は、フレタと良く似ています。
5~6弦で主旋律を弾いたときの魅力は、フレタと異なり録音に非常に良く現れています。
楽器全体が震えるようで、ベラスケスの整った低音との違いが面白いです。

フォトジェニックというか、録音ジェニックな楽器だと思いました。

益田正洋氏の銘器5本弾き比べ、まとめ

この中でベストを選ぶとしたら「ドミンゴ・エステソ」次点は「マヌエル・ベラスケス」だと思います。
エステソは「音の魅力」「音色のパレット」「声部の聴こえ方」等、録音に現れる要素において完璧な楽器だと感じました。
ベラスケスは音色による味付けの面白さが光ります。
音圧やサステイン等、ステージ映えする要素(広い会場向き)は録音では魅力になり難いと感じました。

以下、所感のまとめです。

  • 録音映えしている楽器が良く聴こえた
  • 音色がまとまっている方が聴きやすい
  • 音圧が程々の方が優しく聴こえる
  • アタック感などは情報量として魅力に繋がる
  • 録音により大きく変わりそう(マイクの種類、距離、位置)
  • 益田正洋氏が弾きこなしている楽器が良く聴こえる
    若しくは、自分が弾きこなせない楽器を弾きこなしているのが魅力的に聴こえる

スマホのスピーカーで聴いてみましたが、やはり正確に音を聴き取るのは難しいです。
動画にコメントしている方達の意見は、方向性が概ね同じであり、それなり以上の再生環境があるのだなと思いました。

最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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