マヌエル・ベラスケスのギターの印象について。

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プエルトリコ生まれ、アメリカ在住のギター製作家「マヌエル・ベラスケス」について、この記事で語ります。
マヌエル・ベラスケスは2014年に亡くなっています。

結論として、鳴らし切るのが難しいギターだと感じています。

マヌエル・ベラスケスは、銘器と呼ばれるだけの魅力を秘めています。
しかし、名が知れているからといって、軽い気持ちで買わない方が良い楽器の代表格だと思います。
弾けない人が使ってしまうと、安価な楽器程度の魅力しか伝わりません。
(私もマヌエル・ベラスケスはうまく鳴らせません)

アマチュアの演奏を聴いても、ベラスケスが良いと思ったことはほとんど無いです。
楽器店で試奏しても、良いと思うことは極めて稀です。

名前(ネームバリュー)で持て囃されがちな楽器と感じましたので、この記事を書くことにしました。
ベラスケスの魅力や当たりの個体についても触れます。

この記事でわかること

動画で「マヌエル・ベラスケス」の音を確認

マヌエル・ベラスケスは、大型化する前の50年代〜60年代前半が良いとされています。
そのため、Youtube上から該当する年代のベラスケスの演奏動画を引用します。

マヌエル・ベラスケスの音の印象

私が弾いたことがある50年代のベラスケスは、3〜4本です。
私が弾いたことがあるベラスケスと上に貼った動画の音色の印象は、完全に一致しています。

この動画を元に、ベラスケスの音色の印象を辛口で語ります。
(後半で褒めるので、いったん厳しめにいきます)

フォルテで「チンチンする、細くなる高音」

動画を聴いていただけると分かるのですが、マヌエル・ベラスケスの高音は音量がフォルテになるとチンチンして聴こえます。(下ネタではない)
音が細く、豊かとは言えない印象です。

動画では、通常の音量の範囲は太い印象があるのですが、実際は他の楽器に比べて特別太いとは思いません。

マヌエル・ベラスケスは、高音の粘りを強く感じる楽器です。

軽い音質の低音(私見)

マヌエル・ベラスケスはハウザー1世に準拠した楽器であり、重厚な低音が魅力と言われています。

私個人の印象なのですが、ベラスケスの低音は標準的な重さだと感じます。
巻き弦のテクスチャを感じる瞬間の音は、重く聴こえる場面もあります。

私が所有している年代が古い楽器[ルビオ、ヤコピ、マリン(改造済み)]と比べると、ベラスケスの低音はむしろ軽く聴こえます。
単独で音を取り出した場合に、ベラスケスの低音にはあまり魅力を感じません。

この低音に関して、後で詳しく触れます。

重ねて書きますが、この高音と低音の2つの悪い印象は、私が50年代のベラスケスを弾いた際の印象と一致しています。

マヌエル・ベラスケスの魅力は「究極の普通」

メディアカームの故 酒井晴彦氏と話をしたときに、「ベラスケスの音は普通だよ」と言われたことがあります。
この「普通」というのは、非常に深い言葉です。

直近で友人とベラスケス、ハウザー1世について話をする機会がありました。
その際に挙がった意見は以下の通りです。

  • ハウザー1世自体も、低音はそこまで重くない
  • このタイプの楽器でポテンシャルを秘めた個体は、タッチによって低音の「重い・軽い」がコントロール可能である

このタッチで変化する低音が示す通り、ベラスケスの魅力は演奏者によって如何様にでも味付けが可能な究極のプレーンさにあると考えています。
この特徴は、高音にも共通します。

語弊がある言い方をします。
買って誰でも良い音が出せるクラシカルな音色の高額な銘器に比べると、ベラスケスは演奏者の味付け無しでは凡庸な楽器になってしまいます。
ベラスケスは「適当に弾いた単音1音だけでは、良さが伝わらない」ということです。

ベラスケスは「ベラスケスを鳴らすタッチが求められる」

「味付けができる奏者なら、ベラスケスを弾けるのか?」というと、そうではありません。
表現のアイデアの引き出しだけでなく、タッチの良さが求められます。

上にYoutubeの動画を張りましたが、どの奏者もベラスケスを弾けるタッチではないと感じています。
ここでいうタッチとは、演奏の上手さとは全く別の話です。
録音では音が大きく聴こえますが、生で聴くと「よく通る音」までは到達していないと思われます。

国内の楽器店でプロ奏者が弾いている動画も拝見しまして、演奏はハイレベルでしたが、本来のベラスケスの音は出ておりませんでした。
(楽器店と奏者に配慮して貼り付けておりません)

私の経験です。
タッチが良い友人が50年代のベラスケスを弾いているのを聴きました。
澄み渡った虹色のレーザーのような強靭な音だと感じました。
薄味に聴こえていたはずが、その薄さゆえに音が持っている多くの情報が伝わってくる印象です。

ベラスケスを鳴らすことができるタッチは「強さがあり、豊富な成分を持った芯のある音が出せる」ことが条件です。
(書いておいて、私もベラスケスは弾けないのですが)

「強い=良いタッチ」ではないのですが、ベラスケスの場合はある程度の強さが求められると推測します。
「強く弾ける、演奏技術のある人」でないと弾きこなすことができないでしょう。
しかし、ただ強いだけでは上の動画のように音がチンチンします。
意図せずチンチンしたら、タッチが合っていません。

ここで付け加えておきたいのは、「ベラスケスを弾ける人が、ベラスケスを使うとは限らない」という点です。
響きの豊かさ、音色の個性等を求めて、他の楽器を選んでいるかもしれません。

マヌエル・ベラスケスの当たり個体は?

私が今まで弾いてきた・見てきた中で、ベラスケスが「当たり」と感じたのは、50年代前半の1本と70年頃の1本でした。
(何度も書きますが、私はベラスケスはそこまで弾けません)

知り合いの信頼できる方の経験では、2000年頃の個体にも良いものがあったようです。

私は、巷でよく言うような「50年代と60年代前半が当たり」とは思っていません。

私は過去にベラスケスの工房品であるエル・クラシコを持っていました。
ベラスケス本人のほとんどの作品よりも、このエル・クラシコの方が良かったと感じています。
(ブログを読んでいる方からメッセージを頂きましたが、エル・クラシコにも凄いものがあるようです)

ベラスケスは試奏しないで買うとババを引く可能性があります。

ベラスケスの「良い音」のイメージ

下記の動画では、2014年のベラスケスの遺作のギターを弾いています。
私はこの楽器を弾いたことはないです。

私がイメージするベラスケスの良い音は、概ねこの動画の音の印象です。
もちろん、50年代をガツンと弾いた音とは異なります。

ギタリスト 伊藤兼治氏のタッチも、この楽器に非常にマッチしていると思います。
しっかりしているのに、力任せではありません。

このタイプのベラスケスなら、私のタッチでも弾けるかもしれません。
(動画のタッチが良いので、そう感じてしまうだけかもしれません)

マヌエル・ベラスケスの印象、まとめ

マヌエル・ベラスケスは、演奏者のタッチと表現の引き出しがなければ魅力が分かりにくい楽器です。
弾けない人が使うと、国産の30万円の楽器よりも良さが伝わりません。
例えで言っているのでなく、実際に体験してそう感じています。

「長年、良いと思い込んでベラスケスを使っていたが、結局は別の楽器がメインになった」という話も聴いたことがあります。

この記事の結論は以下の通りです。

  • ベラスケスの魅力は、「普通・プレーンであるが故の表現力・変化の幅」
  • 持っただけで良い音が出る楽器ではない
  • タッチが合わない奏者がベラスケスを買うと、魅力は全くない
  • 魅力を引き出せる奏者がベラスケスを弾くと、唯一無二の世界観
  • 当たりの個体は極めて少なく、年代も一概に言えない

クラシックギターの良い音をこの世に届けるために、ベラスケスは弾ける奏者に弾いて欲しいです。
弾けない奏者が購入して弾いても、音色が魅力的だと思われることはありません。
私も、弾けないと感じたベラスケスは買いません。(我慢)

追記、多様性を大事にしたい

有識者から「むしろチンチンが大事」とのメッセージを頂きました。
「チンチンが好きな人」「音色のパレットのひとつとしてチンチンを求める人」の2パターンあるかと思います。
私はチンチンが好きでない人の方が多いのではと決めつけて記事を書いていました。

ベラスケスの多彩なトーンには、高音のチンチンは必要なようです。
動画で分かるとおり「50年代はチンチンする」とのことです。
一般的に評判が良いとされる年代のベラスケスを扱える人は、「チンチン好き」「チンチンの出し入れをコントロール出来る人」だけなのではと感じました。
私も勉強になりました。

最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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