ギターのナット作成で注意したポイントをまとめる。(ホセ・ヤコピ)

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所有するギター「ホセ・ヤコピ」のナットを作り直しました。

クラシックギターのナット作りにおいて、注意したポイントをまとめます。
(作成の手順ではなく、チェックポイントです)

この記事でわかること

ナット作り直しの理由

私が所有する「ホセ・ヤコピ」に関しては、過去に自らナットを作っていました。
元々、本体の剛性の高さ・鈍さがある楽器です。
極限までテンションを下げようとして、ナットを削って弦高を下げたところ、下げすぎて開放弦の音がビリつくようになってしまいました。

製作家に作業してもらう場合はクレームが発生してはならないため、あまりギリギリを攻められません。
私はギリギリを攻めて失敗しました。
そのため、ナットの下にティッシュ箱の厚紙を切って仕込んでいました。
クラシックギターのナットの高さ調整を行いました。 – クラシックギターの世界

ホセ・ヤコピの場合、この厚紙によるネガティブな影響はそこまで感じていませんでした。
しかし、アントニオ・マリンで同様に厚紙を仕込んだところ、音質や反応の悪化を顕著に感じました。

「ナット下に厚紙を仕込む悪影響」の程度はそれぞれの楽器によるのですが、ちょっとでも音質が良くなるならホセ・ヤコピのナットも作り直そうと思った次第です。

正直めんどくさい

ブログの記事を読んでいると、著者である私がかなりギターにこだわっているかのように映るかと思います。
人よりは少し「ギターにこだわりがある」のは間違いないです。
しかし、「楽器のことを考えすぎずに練習に集中したい」というのも本音です。

「ナットを作り直したい」「めんどくさい」がせめぎ合い、実行を決意しました。
別のギターで使っていたナットが何とか転用できそうだったというのも、重い腰を上げた理由です。

手元にあった他のナットは弦幅41mm、少し太め

手元に余っていたナットは、元々「ホセ・ルビオ」で使っていたものでした。
1弦から6弦までの幅は41mm、ナットの溝に対する太さは約5.4mmです。
ヤコピについているものは弦幅42mm、太さは4.1mmでした。

太さを5.4mm→4.1mmに削り、ヤコピのナットの溝に合わせました。
ナットの底面もルビオの角度に合わせたことでやや斜めになっていたので、ヤコピのナットの溝の底面の角度に合わせて修正しました。

弦幅が細いと弾きにくい

通常のクラシックギターに付いているナットの弦幅は概ね42mmです。
(42.5mmや、海外では43mmも多い)

手持ちで余っていたのナットの弦幅が41mmだった理由は、手が小さい人は「弦幅を狭くすれば弾きやすくなる」という意見を目にして実験していたからです。
39.5mm、40mm等、複数作って試しました。
私の手は女性の平均より少し大きい程度なのですが、41mmのナットは弾きにくいです。
通常の弦幅である42mmが良いと感じました。
(19世紀ギターであればそこまで気にならないのですが)

本当は弦幅42mmが良かったのですが、1から作り直すのが面倒だったので41mmで妥協しました。
(1mmぐらいは許せます)

ここから、今回ナット作成で注意したポイントの説明に入ります。

弦高、以前よりは高め

弦高は以前より高めにしました。
「開放弦がビリつく」のが作り直しの理由ですので、当然です。

最初にヤコピのナットを作った際は、いくら弦高を下げてもテンションが落ちませんでした。
「開放弦がビリつく」程に弦高を下げても、まだ張りが強かったです。
前回のナット作成で失敗してしまったのもテンションが強すぎるのが理由でした。
(どうやっても失敗したはずなので、自分では失敗とは思っていません)

ナットだけではどうにもテンションを下げきれなかったので、以下の調整を行いました。
オリジナルの状態や美観を損なうものもありましたが、行って正解でした。

  • 表面板のラッカー塗装を部分的に紙ヤスリで削る
  • 糸巻きを軽量なものに変更する(ゴトー510AM)
  • サドルを低くする
  • サドルを低くするためにブリッジの穴を埋め、再度開け直す

これらの改造を行ったことで、テンションの緩さを保ちつつ、ナットを以前より高くすることが出来ました。
(上記の調整を行うのも大変めんどうで、1~2年間はヤコピを全く弾かず、塩漬けにしていました。)

追記)この記事を書いた後、すぐに弦高を極力下げました。
ジュリアン・ブリームの録音のような音の弾け方になりました。
ラッカー塗装の楽器は、弦高を極力下げると急に柔らかさが出始めます。
タッチに対する反応もラッカーらしからぬリニアさです。
弦は1年くらい張りっぱなしなので、張り替えた際が楽しみです。

弦の埋まり具合(溝の深さ)

ナットに対する弦の埋まり具合によって、音色は変化します。
埋まり方が深い場合、太く濃い音になりますが、テンションは高くなり、音もこってりし過ぎる場合もあります。
埋まり方が浅い場合、音は痩せる傾向にあり、テンションが低くなります。

弦の埋まり具合は重要な項目なのですが、溝の幅によって溝の深さの影響度は変化すると思われます。
つまり、見た目だけでは「溝に埋まりすぎ」「溝が浅すぎ」の判断はできません。

ヤコピはラッカー塗装でボディ剛性の高さや粘りを感じるため、ナットの溝に対して弦が埋まりすぎないようにしました。
ホセ・ヤコピはスペイン人で、アルゼンチンで製作した人物です。
ギターの構造による振動への効率はあまり良くない気がするのですが、それが音の深さに繋がっているように思います。
鳴らしやすくない楽器なので、弦がナットに埋まりすぎていると弾きにくくなってしまいます。

ナットを削って弦高を下げると、その都度ナットに対する弦の埋まり具合も変わります。
ナットを仕上げるたびに表面をツルツルに磨いて仕上げたのですが、弦高調整に伴い、3回程表面を削り直しました。
まだ弦高を下げる可能性があるため、研磨して艶出しするのは一旦やめました。
(音への影響もあまり無いと思います)

3弦、4弦の曲がりの調整


(ナットはズラしてベストな位置を探ろうと思っていますので、左右に少しはみ出しています)

ホセ・ヤコピのギターに関しては、3弦・4弦がヘッドに干渉して曲がっています。
この曲がりがあることで、テンションの感じ方や音の詰まり具合に大きく影響します。

ナットの3弦・4弦の曲がりの部分の角を削り落とすことで、このギターは反応が劇的に改善し、テンションが緩くなります。
以前ナットを作った際は、この部分に気が付かずに格闘していました。

また、ヘッド側のナット上部も斜めに面取りしました。
ナットと3弦・4弦の抵抗を減らしたかったためです。

ナット下に敷いていた紙を外した感想

敷いていた紙を外したことで、タッチへの反応や音のクリアさは改善しました。
3度を弾いた際の分離もかなり良いです。
しかし、予想していた程には大きな変化はありませんでした。
アントニオ・マリンの場合とは異なります。

私は小さな変化であっても作り直して良かったと思いますが、あまり気にならない人の方が多いと思います。

考えて作業すると疲れる

ナット作成は、牛骨で注文するとギター製作家が5000円程度で請け負ってくれます。
ある程度決まった寸法を狙って作るのであればそれ程時間はかかりません。

しかし、この記事に書いたような音色やタッチへの反応を都度チェックしながら作業を行うと、かなり時間がかかってしまいます。
トータル1日半程で弾ける状態にはなりました。
しかし、楽器も以前の状態を記憶しているため、音が落ち着き、追加の調整が終わるのにもう1週間はかかりそうです。
細かい部分を気にする方は、自分で調整するしかないと考えています。

ホセ・ヤコピのギターに関して、「音色の深さ」を感じる個体があれば徹底的に手をかけて調整することでポテンシャルを引き出すことが出来ると感じました。
300万円クラスの音がしていると思います。

最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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