M.カルカッシのエチュード(教則本)Op.59について。

PR〈景品表示法に基づく表記〉
matteo_carcassi

私はこれまで、エチュードでギターを学ぶことを極力避けてきました。
体系的に(順番に)学ぶよりも、弾いている曲の苦手なことに絞って取り組む方が個人的に得意だったからです。

「エチュードはやらない」と決意していた私ですが、最近はカルカッシの「エチュード(教則本)Op.59」に取り組んでいます。
最も有名な「25のエチュード Op.60」とは別物です。
(こちらは、途中で挫折)

「エチュード(教則本)Op.59」を弾く中で、音楽面と技術面の両方において着実な成長を感じています。
初心者を含め、心から全ての人に勧めたい練習曲としてM.カルカッシの「エチュード(教則本)Op.59」の魅力・効能を語ります。
(プロギタリストの福田進一氏も、迷ったらこのエチュードに立ち返ると何かで読みました)

この記事でわかること

独学 or 先生に習う?

カルカッシのエチュードOp.59の魅力を語る前に、
このエチュード(教則本)は「独学で進められるのか?」「先生に習わないと意味がないのか?」という点について書きます。

このエチュードの効果を100%得るには、優秀な先生を探して習った方が良いです。
独学では、得られる学びは2〜3割に減るでしょう。

2〜3割は少なく感じるかもしれませんが、独学で得られるものとしてはかなり大きな経験値になるでしょう。
また、この記事に書いていることを意識することで学習の効果を3〜4割にアップできるのではと思います。
いつか先生に習う時までの下準備になると考えれば、非常に有意義な練習だと思います。
先生選びの際も「この記事に記載のポイントを指導できるかどうか」が良いチェックポイントになるでしょう。

古典の表現のバリエーションの豊かさを学べる

M.カルカッシのエチュードOp.59を弾く中で、楽譜通りに音を出すだけでは楽曲本来の表情を引き出せません。
音を正確に弾いて演奏記号を守るだけでは、7~8割程度の完成度にしかなりません。
古典の時代に生きたM.カルカッシが意図した楽譜に書かれない文脈・作法を意識して弾く必要があります。

私が受けているレッスンでは「客観的に書かれていることを読む」→「読み取った事実を元に表情や方向性を持って弾く」という流れのアプローチをしましょうと教わりました。
私もやっているつもりでしたが、出来ていません。
「仏作って魂入れず」になっていました。
やはり、留学経験のある先生の方がこの点は強いと思っています。

「Op.59-33 ロンド」を例にします。(最近やったので)

Op.59ー33 ロンド

Op.59ー33 ロンドのテーマ

ロンドの主題は、客観的には「3度や5度の跳躍で上昇する旋律」です。
この事実を元に、「ややスタッカート気味に軽さを持って明るく」か、「伸びやかに歌ってレガートに上昇していく」のどちらかを表情として選びます。
私は当初、前者の「スタッカートで明るく」を選んでいました。
しかし、以下の理由を考慮すると、後者の「伸びやかにレガートに歌う」の方がより適切であるように思います。

  1. 冒頭がピアノで始まる
  2. 1小節目スタッカートでは、2小節目のグリッサンドの表情と違ったものになる
  3. ロンドの挿入部(ABACA…のB、Cの部分)の表情との対比
Op.59ー33 ロンド

Op.59ー33 ロンドの挿入部B

挿入部Bは、単独の楽器(ヴァイオリン等)アウフタクトから上昇の音型で突っ込み、後打ちでオーケストラ全体が和音を弾くというエネルギッシュなパートです。

Op.59ー33 ロンド

Op.59ー33 ロンドの挿入部C

挿入部Cもアウフタクトから旋律が入りますが、同音の連打であり、2拍目に倚音が置かれ、スラーで解決するパートです。
この倚音の前の部分をスタッカートするとおどけたような軽い表情が付きます。

従来のギターの名曲は耳慣れており、手垢の付いた既にイメージのある状態から弾き始めます。
それに対し、ゼロから楽譜を読み、表情を考えて音楽を作るという体験は非常に音楽性が鍛えられます。

「楽譜に忠実に or 楽譜に無い表現で」弾く

演奏の際、「楽譜に忠実に弾く」のか「楽譜を読み取ってアーティキュレーションやテンポの緩急等を変更・追加して弾く」のか、という議論があります。
今回取り扱っているM.カルカッシに関しては、後者が正しいと私は考えています。
楽譜に記載されているヒントだけでは、どうやっても作曲者の意図した表情を表現し切れません。

上記の「Op.59-33 ロンド」に関しての話をします。
文章の中で、楽譜に書かれた事実を黄色の下線後付で考えた表情・表現を太線としています。
黄色の下線の部分だけを意識して弾いても、M.カルカッシが想定した音楽になるとは思えません。
F.ソルも含め、古典の楽曲はこうした文脈を読む能力が求められるでしょう。

テンポの妥協を許さない

メジャーなギター曲では、背伸びして難易度の高い曲に挑戦し、右手・左手の都合によりテンポを落とす例がよくあります。
(私は良くありました)

それに対し、M.カルカッシのエチュードOp.59は、定番のギター曲に比べると簡単です。
しかし、簡単であるが故に妥協することが許されません。
「この位の難易度なら、本来のテンポで弾いてください」と楽譜が要求してきます。
(習っている先生が要求してきます)

速度記号や拍子記号を正しく守って弾くと、かなり速いテンポであることも多いです。
正しいテンポで弾くと、もはや簡単な曲とは呼べなくなります。

技術の粗が分かる

上記のように、楽曲が要求する本来のテンポで弾いた場合、カルカッシのエチュードOp.59は難易度が上がります。

難易度が上がるといっても、左手はそれ程難しくありません。
右手の技術的な完成度がはっきりと分かってしまう内容になっています。

1曲1曲の長さは短い中で、実践的な右手のパターンが沢山登場します。
この曲集を弾くことで、基礎的かつ実践的な右手のテクニックは概ね身に付きます。

個人的に、エチュードOp.59を全曲いつでも弾ける状態にしておけば、右手で困ることは少ないと感じました。
(例外的なパターンを除き)

薬指「a」を交えて、同じ指の連続を避ける

M.カルカッシのエチュードOp.59は音楽的にも技術的にも優れた作品です。
そのため、生涯を通じて弾くことになる可能性が高いです。

悪い癖が付くのを防ぐため、右手は同じ指を避けた効率の良い運指を考えるべきです。
また、薬指「a」を積極的に使う運指を付けることをおすすめします。
薬指「a」を鍛える必要性は以下の記事で書いています。

あわせて読みたい
薬指「a」の重要性について。 現在、支持している先生が右手の薬指「a」を頻繁に使うタイプの演奏家です。 かなり複雑なフレーズであっても、1〜3弦までは親指「p」を使わずに処理しています。 ...

以下のような薬指「a」を使うパターンは、私は不慣れです。

24番のギャロップは、アウフタクトからの3音を「iam」で弾きます。
その後の3度の重音は「ma」にしています。

Op.59ー24 ギャロップ

Op.59ー24 ギャロップ

15番のワルツの3小節目は、「apーmーaiーmーaiーm」で弾きます。
(必須ではない)
3/8のワルツですので、結構速いです。

Op.59ー15 ワルツ

Op.59ー15 ワルツ

和声の読み取りの訓練になる

このエチュードを進めるにあたり、私は和声記号を付けるようにしています。
「Ⅰ、Ⅳ、Ⅰ2転、Ⅴ7、Ⅰ」のように記載します。
(トニック、サブドミナント、ドミナント)
また、転調や非和声音の判別(刺繍音、経過音、係留音、倚音、先取音等)を行っています。

この和声や音楽構造については、「知識・うんちくとして知っているだけの人」「楽譜から即座に読み取り、演奏に反映できる人」で天と地の程の差があります。
「知識として知っているだけの人」は、実際の演奏になると音楽へ反映させることが全く出来ません。
過去の私への批判ですが、「知っているつもり」で何もしていない状態には気を付けたいところです。

演奏のための和声分析は難しく感じますが、数曲やってみるとパターンが分かって出来るようになります。
借用和音があると難しいですが、ドッペルドミナントや属調・下属調等への転調までは独学でも分かると思います。

今回の記事は以上となります。
「エチュードOp.59」は、短い曲の中で表情の対比があり、「Op.60 25のエチュード」と比べると音楽的な学びが多いです。
表現が豊かなギタリストを目指す方には、「Op.59」を断然おすすめします。
最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

この記事を貼る・送る際はこちら
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
この記事でわかること