リュートと8弦ギター、10弦ギターに対する個人的な考え方まとめ。

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夜中にあるギターが欲しい衝動に駆られました。
(黒い衝動)

海外サイトでそれなりの期間売られている8弦ギターです。
日本円でおよそ140万円、裏・横板がメープルです。
(販売ページを見たことがある方はすぐにピンと来るかと思います。)
海外の相場を踏まえると、値付けがやや高額な値付けです。
そのため、それなりの期間が経過しても売れていないのかもしれません。
しかし、制作家のネームバリュー、8弦でメイプルという希少性を考えれば過剰に高いとは思いません。

「買うべきか、買わざるべきか」悩んだので、多弦ギターについて整理しました。
もし、買った方がいましたら是非ご連絡下さい。

この記事でわかること

8弦ギターについて

10弦ギター程メジャーではないですが、根強い支持者がいるのが8弦ギターです。
私も安価な値段なものをお試しで使ったことがあります。
(買った値段と同額くらいで手放しました)

まず、8弦ギターの調弦の種類を解説します。
8弦ギター使いは調弦を都度変えます。
特定の使い方に固執するわけではないと思います。

⑦弦=C or D ⑧弦=A

ロマン派の演奏家であるメルツやコストを弾く際はこの調弦にすると思います。
また、バッハ等のバロック音楽を弾く際もこの調弦を使うかと思います。

押さえにくい8弦に最低音を持たせています。
7弦、8弦はどちらもたまに押さえる使い方をします。

6弦と1弦では指が開く場合でも、7弦で弾けば左手の拡張が少なくなります。
(同じ音であってもポジションが上がる)

⑦弦=B、8弦=G or G♯

7弦、8弦を2弦、3弦の2オクターブ下にするチューニングです。
弦同士の音のインターバルが他の弦と同じく4度になっています。
6弦以下に移っても、自然な運指でスケールを弾くことが出来ます。
これは7弦と8弦を頻繁に押さえる使い方です。

この調弦にも弱点はあります。
押さえていない限り、開放弦以外の7弦8弦の音が使えない点です。
7ポジション以上を弾く際は、押さえられる低音の音は限定されるでしょう。
7弦、8弦の開放弦の音も、使用頻度が低めな音に設定されています。

①弦=A、⑧弦=B

上で紹介した7弦=B、8弦=Gのパターンでのデメリットを解消したのがこの調弦です。

1弦を通常のギターの1弦の5フレットのラ(A)に調弦します。
「そんなに低い音はいらないので、ローポジションだけで多くの音を処理したい」というアイデアです。

こちらも非常に合理的なアイデアだと思います。
8弦使いは発想が豊かな人が多いです。

私が8弦を使うなら

もし私が8弦ギターを使うとしたら以下の調弦にします。

  • 7弦=A~D(6弦より低い音)
  • 8弦=F~G♯(6弦と5弦の間の音)

7弦は曲に登場する最低音を持たせつつ、頻繁に押さえます。
8弦は5弦と6弦の間の音に調弦して、ほぼ押さえません。

6弦でファ(F)やソ(G)と1弦の5フレット以上の音を押さえるような拡張が厳しい場面を、8弦の開放弦で処理出来るようします。

7弦か8弦のどちらかにFやCの音(♯を含む)が設定されると、通常のギターでは鳴らない倍音も期待出来ます。

8弦ギターの用途

8弦ギターの用途は、概ね以下のカテゴリーに分けられると思います。

  • メルツやコストの楽曲を弾く
  • 音域を妥協しているギター曲を探し、低音域を拡大して弾く
  • ピアノ曲をギターに編曲して弾く
  • バロックリュートのレパートリーを弾く

ロマン派の低音の使い方に関しては・・・

個人的には、オクターブの動きが多いロマン派の低音の使い方にはあまり魅力を感じていません。
J.K.メルツで言うところの、5弦のラ(A)を弾いた後に10弦のラ(A)を弾くような使い方です。
この部分は、8弦ギター弾きの知人からは「オクターブ下の低音があることで音楽は全く違います」と反論を頂いております。
(本当にすみません)

I.アルベニスのピアノ曲の編曲に関しても、メルツのように低音がオクターブで動くような場合が多いです。
ギターにおける重要なレパートリーのピアノ編曲を弾く場合は、私は6弦ギターで良いかなと思っています。

音型の再現に低音を使いたい

多弦ギターの低音域を使うなら、6弦では出来ない音型の再現に使いたいというのが私の本音です。

私にとっての多弦ギターのメインの用途は、バロックリュート等の曲の原典のメロディラインを再現することです。
8弦ギターを使っていた際、S.L.ヴァイスのファンタジーの低音が全て再現出来たのは感動しました。

10弦、11弦ギターもある

バロックリュートの音楽を弾きたいのであれば、10弦、11弦ギターという選択肢も出てきます。

10弦ギターは以下の2つの調弦が存在します。
(大きく分けて)

  • イエペス式調弦
    通常のギターにない音であるC、B♭、G♯、F♯を開放弦に設定し、通常は鳴らない倍音を得るためにある。
    倍音を得つつも、状況に応じて都合良く開放弦を利用する。
  • リュート式調弦
    7弦=D、8弦=C、9弦=B、10弦=Aのように音階を設定する。

バロック音楽を弾くのであれば、リュート調弦を使用することになります。

弦が増えると楽器が重くなる

全ての多弦ギターに共通なのですが、8弦、10弦、11弦と数が増えていくにつれ、楽器が重くなります。
製作家次第ですが、楽器が重くなると6弦ギターに比べて立体感に欠けるフラットな音になってしまいます。
この変化は重い支持具を使ったときの変化と同じです。
弦が増えるのはメリットばかりではありません。

バロックリュートの存在

バロックリュートの楽曲を弾くとなると、当然オリジナルのリュートを無視することは出来ません。
ギターと比べた際のメリット・デメリットをまとめます。

レパートリー豊富、編曲いらず、作曲者の運指

バロックリュートを使うのであれば、そのものの楽器のために書かれたレパートリーが豊富に広がっています。
ギターでよく知られるヴァイスやド・ヴィゼーだけでなく、ガロやゴーティエ、ムートン等の作曲家が存在します。

それらが書かれた時期はバロック前後に限られるため、年代は狭いです。
ただし、バロック時代は音楽が貴族や王のために存在した時代です。
古典以降の庶民に音楽が普及した時代とは異なり、個々の音楽の内容が非常に複雑なものとなっています。
(貴族は音楽のリテラシーが高い)

タブラチュアを読む難しさや、古い楽譜の誤植をどう処理するか等の困難はありますが、魅力的なオリジナル作品群には涎が出ます。

リュート属特有の音質

リュートはリュート属特有の優雅な音質を持っています。
音量はそれ程大きくないかもしれませんが、声部が良く分離して遠くまで到達します。

多弦ギターの低音は、太い弦により達成されています。
個人的には、多弦ギターの低音はバロックリュートの低音の再現にはあまり合わないと感じています。
(多弦ギター弾きに怒られます)
バッハのチェロ組曲等、ギターに近い音域のチェロを想定した楽曲はあまり違和感が無いと思っています。

調弦が大変

リュートはギア式でない木ペグが採用されていますので、ギターに比べると調弦は大変です。
(慣れだと思いますが)
バロックリュートは11コース若しくは13コースの楽器となるので、弦が増える分調弦の時間もかかります。

構えにくい

足に当たる都合の良い部分が凹んでいるギターに比べて、リュートは非常に構えにくいです。
ギターしか弾いたことが無い方がリュートを触ってみると、かなりストレスを感じるかもしれません。

似て非なる奏法

リュート属とギターでは、大きく奏法が異なります。
また、低音弦の数も増えますので、バロックリュート特有の親指の使い方が必要になります。

私は8弦ギターを持っていた際に多弦ギター及びリュート系の親指の使い方を教えてもらったので、「案外弾けるかもしれない!」と思っています。

フラメンコギターのように弦を弾く癖がある人は、リュートを弾くのは難しいかもしれません。

19世紀ギターもあり

バロックリュートは非常に魅力的ですが、ギター奏者がバロックリュートを弾くのは困難も多いです。
そこで候補に上がるのが、多弦の19世紀ギターです。
軽量でオーセンティックな作りであれば、リュートよりの音色に近づく場合があります。
ギター属の弾き方はそのままに、優雅な音色を楽しむことが出来ます。

メルツやコストの時代の響きを再現可能

10弦や8弦の19世紀ギターは、メルツやコストが使用した楽器に非常に近いものとなります。

ギターにとっても重要なレパートリーである古典からロマン派の音楽に魅力を感じている方は、是非検討すべきです。

オーダーが必要

多弦の19世紀ギターは、国内にはほとんど出回っていないと思います。

アマチュアギター弾きが古典やバロック音楽を楽しむには、19世紀ギターは大変良い案に思いますが、参入のハードルは高いです。

リュートのボウルバックとは違う音

19世紀ギターは非常に優雅な音が出ますが、それでもリュートそのもののボウルバックとは違う音です。

私はかなりリュート系の音に近い19世紀ギターを弾いています。
しかし、オリジナルのリュートと比べると誰でも違いが分かります。

話を元に戻して・・・

今回の8弦ギターは見送ることにしました。
私にとって多弦ギターはバロックのレパートリーのためにあり、モダンよりは優雅な音が欲しいと思ったためです。
機能性抜群の製作家ですので、実物を弾いていたら買っていたかもしれません。
(多弦ギターの場合、6弦以上に機能面の確認が必要)

バロック音楽を弾きたいという欲求は強いので、「8弦ギター」「バロックリュート」「10弦の19世紀ギター」のどれかはそのうち買うことになると思います。
今のところ、バロックリュートの出物があれば購入するかもしれません。
(良いものがあれば是非教えて下さい)

改めてメリット・デメリットをまとめます。

多弦のモダンギター

  • 通常の6弦ギターの音を持ちつつ、音域を拡大できる
  • バロック曲だけでなく、ピアノ曲の編曲にも適応
  • 楽器を持ち替えても奏法の違和感が無い
  • 難所を楽に弾けるかも
  • 機能的な楽器なら、コンクール等でも有利かもしれない
    (活躍できるチャンスが増えるのは大事)

多弦の19世紀ギター

  • ギター属の範囲での優雅な音色
    (ロマン・古典以前の音楽に合う)
  • メルツやコスト、ソルに合う
  • ギターの奏法のまま使える
  • 楽器を手に入れるにはオーダーが必要

バロックリュート

  • 膨大かつ質の高いオリジナル曲をそのまま弾ける
  • 調弦や奏法の変更が大変
  • 分離が良く、優雅な音色

今回は私の趣味の記事でした。
バロック時代の曲が好きなのであれば、「6弦ギターで弾くのか」「多弦ギターやバロックリュートを使うのか」は一度考えてみるべき問題と思います。

最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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