クラシックギターの初心者でも演奏可能な名曲として、F.タレガのラグリマを解説します。
ただ弾くだけならそれ程難しくない楽曲ですので、音楽的な部分を掘り下げています。
1~4小節
曲の冒頭に登場し、その後も何度も登場する音型(下降を含む)があります。
この部分は技術的に可能ならアポヤンドを使います。
音が上がるのに合わせて、ややクレッシェンドすると良いでしょう。
2拍目ではラとシがぶつかりますので、1拍目→2拍目の拡大量は大きめです。
ポジション移動が少なくて済むように、左手は楽譜の運指を使いましょう。
2小節目のファ♯は付点2分音符の長い音なので、弱すぎないように注意です。
2小節目は属七(ドミナントセブンス)です。
緊張感やエネルギーを持続させましょう。
2回繰り返すので、エコー(2回目を弱く)や音色の変化を使っても良いでしょう。
その際は、音楽として必然を感じるべきです。
(無理やり繰り返しに変化を付けた、はNG)
楽譜が変わる程、崩さない
このパターンを弾く際は、下記のように楽譜が変わる程、崩してはいけません。
全部の音にアルペジオをかけてしまうと、楽譜が変わってしまいます。
(ラグリマでない、別の曲になります)
アルペジオは無くても良いですし、かけたとしても1つか2つまでにしましょう。
5~6小節
5小節目では、美しくピークからの下降を表現します。
フォルテで良いのですが、ギターの音色の美しさを優先しましょう。
少し加速しても良いですが、あくまでほんの少しが良いでしょう。
6小節2拍目、花が咲くように
6小節目の2拍目、蕾が膨らんで花が咲くように弾きます。
ド♯を押さえる音程に注意しましょう。
響きを意識して音を重ねます。
7小節
③弦を使うカンパネラの1拍目は、ギターの音色を熟知したF.タレガの技巧が光る部分です。
溢れる涙がこぼれ落ちるような音と思います。
小さく震えるような僅かなビブラートと音程の調整が必要です。
各声部の音を聴きながら、緊張→緩和を意識してフレーズを閉じましょう。
タレガのギター(トーレス)は凄かった?
この曲でレッスンを受けていて7小節1拍目の話になった際に、先生から「タレガのトーレスは3弦が音楽的に響く楽器だったのでは」と言われたことがあります。
恐らく、現代のソリッドな楽器よりも全体が振動する楽器だったのでしょう。
でなければこの運指を使わなかったと思います。
カーボンでもナイロンでもないガット弦の時代ですので、今よりも音量がなく、クリアでないこもった音を使っていたと思います。
決して派手ではない音ですが、深く豊かな音楽が想像出来ます。
偶像崇拝はNG?
タレガのこの運指はギターを熟知したものですが、現代の楽器と弦ではタレガのイメージした音が出ないかもしれません。
特に3弦がカーボン弦ではこの運指の表現は実現不可能と思います。
楽器と弦の鳴り方により運指は変わります。
私も練習していて、何度かに1回は「こういった音かもしれない」という表現が出来ますが、広いステージで確実にそれを伝えられる気がしません。
実現不可能なものを崇め奉るよりは、ソ♯を②弦、シを④弦で取って弾いた方が良いかもしれません。
その場合も、③弦でソ♯を弾いたときのイメージを残して弾きましょう。
9小節(ホ短調)
長調から短調に変わるこの冒頭が曲の中で最も劇的な(音量の幅のある)弾き方をする部分です。
グリッサンドによりクレッシェンドを表現します。
(グリッサンド後にドは弾き直します)
開放弦のミを弾いた時点で一旦萎んで、3拍目で拡大します。
10小節目
10小節目、3弦と4弦を使ったフレーズが登場します。
この部分も、7小節と同様にタレガの技が冴え渡っています。
この部分は「影」を表現していると思われます。
暗い音で、ポジション移動の引きずるような音を表現として活用します。
決してパワフルに弾く部分ではありません。
11~12小節
5小節で使った下降の音型を短調にして、9小節の和声の動きを2小節に拡大しています。
11小節は2声が切れないように注意しましょう。
12小節では4弦のシと2弦のシを重ねてレガートに弾きます。
13~14小節
13小節は曲の冒頭の音型を短調で弾く箇所です。
短調ならではの切迫した様子があっても良いと思います。
(全てにアルペジオをかけるのは、違う曲になってしまうのでNG)
14小節は、冒頭と異なるスケールの下降パターンに繋がります。
「シ→レ」の跳躍の意外性を意識し、レからドへのスラーを使った強い語りかけを表現します。
15小節
属七の和音から解決で短調の部分を終えます。
長調に戻る際の喜びが際立つように、和声の動きを意識しましょう。
これまでに比べてギクシャクした音型になっていますので、ここで強くリタルダンドをかけると良いでしょう。
等身大の美しさに感動する曲
曲名の「ラグリマ(涙)」の名前の通り、少女の綺麗な涙を表しているような楽曲です。
素朴でありながらも、深い美しさを湛えています。
ブリームの演奏は名演です。
この曲に対する深い理解を感じます。
(ブリーム的な癖はありますが)
7小節目、巻き弦がこすれる音がするので、ブリームも③弦②弦のカンパネラではなく②弦④弦を使っているかもしれません。
「迫力」や「力強さ」とは無縁
私が大学生だった頃、ラグリマがコンクールの課題曲になったことがありました。
ギターを初めて1年ちょっとで、頑張らねばと鼻息が荒くなっていました。
レッスンで気合が入った演奏を披露したところ、先生から「先週の演奏と全然違うけれど、何か録音を聴いた?」と注意されました。
無理やり迫力や力強さを表現する曲ではないということです。
現代の感覚からすると、ラグリマ本来の魅力はかなり薄味に感じるかもしれません。
それに対して強引に曲を派手にしようとすると、不要なアルペジオや必然性のないテンポ・ルバート、曲の意図と異なる強弱を付けることになります。
F.タレガ「ラグリマ」まとめ
クラシック音楽ならではの現代人が失った繊細な美しさの表現を求められる名曲です。
単に弾くだけなら初心者レベルですが、楽曲本来の表現を行うにはかなりの技術が求められます。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。