【勢い任せの演奏】楽器演奏の「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」について

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孔雀

演奏において、「勢い・エネルギー」があるのは良いことです。
しかし、それがいき過ぎて空回りすると「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」の状態になります。

音楽的に「演奏に勢いがある」状態と、中身がない「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」の区別が付かない人も多い印象です。

演奏における悪い状態である「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」をこの記事にて解説します。
この記事の目的は以下のとおりです。

  • どんな演奏が「中身がない」と見なされるか
  • 自分の演奏を客観的に磨くポイント
  • 筆者の過去のコンクールの愚痴(これがメイン)

私は過去にコンクールに連続して出場しており、何度も入賞を逃してきました。
演奏を聴いていた観客の方から「間違いなく入賞ですね」と言われても、審査で良い評価を受けることはほとんどありません。

ガチャガチャした弾き飛ばしの演奏が入賞することが多く、「この演奏が評価されるなら私は永遠に入賞できない」とひどく落ち込みました。
(入賞できなかったのは私自身の「表現の幅」の不足によるところが大きいです)

この記事の半分は「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」の演奏に対する個人的な怨みによってできています。(そのため、エンタメとして読んでいただきたく)

この記事でわかること

楽器演奏の「弾き飛ばし」とは?

楽器演奏において、人前演奏・コンクールなどの緊張下でがむしゃらに熱量を表現しようとした場合、以下のような「弾き飛ばし」が発生します。

  • 音が出ていない(割れている、潰れている)
  • 指の都合でリズムが崩れている
  • 音色や音量が、音楽を無視して変化する
  • メロディや和声の流れを成立させる意思がなくなっている

私としては、いくら元気があっても「荒々しくて音になっていない」は評価対象外ではないかと思います。

どうして「勢い任せ」の演奏が評価されてしまうのか、考察します。

「耳が聴こえない」状態の人も多い

人間は聴覚よりも、視覚重視の生き物です。
耳からよりも、目から入る情報を優先します。

中身のない「弾き飛ばし」の演奏を評価する人は、視覚情報である「演奏時の動きや態度」に気をとられ、正しく音をキャッチできていない状態です。

人間は誰でも同じように2つ耳が付いていますが、情報処理の精度が人によって全く異なります。
これはプロの演奏家であったとしてもピンキリです。

コンクールなどで「評価の怪しい審査員」がいることが事前情報で分かっているのであれば、受けた評価を歯牙にもかけないことが重要です。
全ての人間が「優秀・公平であること」は不可能な話なので、変えられない相手に不満や文句を言うのではなく、そもそも相手にしないことが精神衛生上、良いです。

弾き飛ばしの特徴「目を閉じて聴くと、音楽になっていない」

私が感じる弾き飛ばしの分かりやすいポイントは「目を閉じて聴くと、音楽になっていない」という点です。

オーバーリアクションで一見、魅力的な演奏家だったとしても「音楽はぐちゃぐちゃ」なケースをよく見かけます。

興奮状態で楽器を弾いていると、身体の動きや単音に注意が向いてしまいます。
結果、演奏の本来の目的である「音楽として成立させる・仕上げる」意識がなくなってしまいます。

音楽家として耳が良い演奏者は「弾き飛ばし・崩し」をしたとしても下品なレベルまで音楽が崩壊することは少ないです。
音情報を正確に捉えられるよう耳を鍛えておくことで、弾き飛ばしは減ります。

私の場合、練習では声部が聴き取れますが、レッスンなどで緊張していると「低音が旋律として機能していない」と注意されることがあります。
この事例も、緊張して音楽表現を見落としたという、広い意味での「弾き飛ばし」に該当します。

緊張状態は、脳が生命の危機(逃走・闘争反応)に直面している判断しています。
音よりも視覚や肉体の感覚を優先するのは自然な反応かもしれません。
緊張して鈍っても通用するぐらいに、耳を鍛えておきましょう。

弾き飛ばしは「無個性」

この記事で書いている「弾き飛ばし」は見た目の派手さと「何かやってる感」があるため、主張がある演奏としてコンクール等で評価を受けていることが多いです。

私は弾き飛ばしの演奏に個性があるとは思いません。(ヘイトが凄い)

弾き飛ばしは、音楽的に何らかの表情を加える工夫ではありません。
よって、無意味な弾き飛ばしのフィルターを外して冷静に聴くと、何の特徴もない演奏になります。

弾き飛ばしが目立つ演奏家は、本人視点ではテクニックがあるつもりなのかもしれません。
しかし、そういった「やんちゃな演奏をする人」は掃いて捨てるほどいるため、むしろ無個性だと感じます。

例として、町一番のヤンキーは町の数だけいるため、日本・全世界の単位で見ると珍しくはありません。
弾き飛ばしの演奏も、「荒い音を出すタイプの演奏家」と一括りにされます。

楽器演奏の「崩しすぎ・はったり」とは?

日本人がメロディを無意識・自然に歌わせようとすると「演歌・歌舞伎」のような崩し方になってしまうことがあります。
西洋音楽(クラシック)として「演歌・歌舞伎」の要素はNGです。

演歌・歌舞伎のような「崩し・はったり」であっても、何もないよりは聴いている方が退屈しません。
しかし、「それが正しい」と思いこんでしまうようでは耳に毒です。
演歌・歌舞伎のような演奏を頻繁に聴くことは推奨しません。

私も、過去に習っていた先生から厳重注意を受けています。
エピソードを2つ紹介します。

F.タレガのラグリマの話

私は学生の頃、学生ギターコンクールに出場しました。
ギター経験がない状態から大学生でギターを始めたため、「どうやったら経験者との差が埋まるのか」「ステージで映える演奏ができるのか」を考えていました。

コンクール課題曲はF.タレガのラグリマです。
先生の指導の元、緻密に表現を練り上げていました。

東京の楽器店に行く機会があり、上手な方と居合わせる場面がありました。
そこで、崩しを取り入れた派手なラグリマを聴き、「これが上手な人の演奏か!」と関心しました。

その後のレッスンで、早速崩しを取り入れたラグリマを先生に披露しました。アルペジオをふんだんに取り入れており、推進力に満ち溢れています。

「何の演奏を聴いてきたの?」とのコメントを頂きました。
先生の指導内容は以下のとおりです。

  • 楽譜を逸脱する崩しは、曲本来が持つ魅力とは異なる
  • ラグリマの魅力は、派手さ・迫力ではない
  • 崩しがないと表現ができないのは、演奏者として未熟

個性的な演奏の印象のあるジュリアン・ブリームは、ラグリマでは安易な崩しをほとんど使っていません。
小手先の崩しに頼らずとも演奏に個性が宿るのがブリームの凄さと言えます。

アルペジオを使わないと推進力・迫力を出せない状態には、とりわけ注意した方が良いと思います。
とある演奏家のシャコンヌ(J.S.バッハ)を聴いたところ、あまりにアルペジオが多く、もはや依存症に近いと感じました。(本番でつい出てしまう気持ちは分かります)

バッハのフーガの話

上記の課題曲が「ラグリマ」だったコンクールでは、J.S.バッハの「BWV1000 フーガ」を自由曲に選びました。

このフーガの曲の終わりには、6弦を鳴らしてのカデンツァがあります。
「コンクールで通用する演奏をせねば」と思っていた私は、レッスンの際に鼻息荒く、がむしゃらにこの部分を演奏しました。

習っていた先生からは、「歌舞伎になっているよ」との指摘を受けました。
恐らく、首まで動いていたと思います。

日本人は西洋の文化に馴染みがないため、思考停止で迫力を出そうとするとろくな結果にならないという例です。

「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」に陥らないために

「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」に陥らないためには、音を冷静に聴き、音楽を良く設計することが重要です。

何も準備していない状態で何かをひねり出そうとすると、「演歌・歌舞伎」が発動します。
がむしゃらに弾いても、演奏者に引き出しがなければ「頑張った感・やっている感」に頼らざるを得ません。

あまり考えて練習していないことが、本番の演奏でバレてしまいます。(考えて練習することと「お勉強」の頭の良さは全く別)

音量・テンポ・音色を変えて繰り返し練習し、要素を変えて弾く音楽がどう変化するかを自分の中にストックするようにしましょう。

そもそも基準・感覚がないのでは?

残念な話ですが、「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」という基準・感覚を持っていない人は多いのかもしれません。

私は良い先生に指導を受けたことで、勢いに任せた演奏とそうでない演奏のものさしを持つことができました。
こういった体験がなければ、私も崩した演奏をし続けていたかもしれません。(何人かの先生に習っているので、どこかで注意はされたでしょうが)

プロ演奏家のレベルが高くない業界の方が「弾き飛ばし・崩しすぎ・はったり」の基準を持たない比率は増えるでしょう。
しかし、クラシックギターだけでなく、ピアノやヴァイオリンにおいても空虚な迫力を重視する傾向(人)は存在するように思います。

改めて、曖昧な他人の評価に右往左往するのでなく、工夫の伴った練習によって音楽を磨くことが重要です。

(この記事は、「振り幅の少ない大人しい演奏」を肯定するものではありません)

今回の記事は以上となります。
最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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この記事でわかること