楽器

「ユーゴ・キュビリエ」をレビューする。

Hugo Cuvilliez

フランスの製作家「ユーゴ・キュビリエ」のギターを購入しました。

当初はショートスケール(630mm)で製作家へオーダーすることを考えていましたが、中古を購入しました。
諸々のオーダーに関する情報を拝見していると、中古で正解だったかもと思っています。
この製作家のギターは複数見たことがありますが、その中でも印象が良い個体です。

「ユーゴ・キュビリエ」の外観

正面

ヘッドの形状やロゼッタなど、どこをとってもフランスらしいのギターの外観をしています。
画像では木が黄色に見えますが、実際は白色に見えます。
全体のバランスが良く、洗練されている印象です。

伝統的な確立されたギターのデザインを除けば、最も好みかもしれません。

Hugo Cuvilliez

フレットは19フレットまでです。
この楽器はレイズドフィンガーボードではありません。

Hugo Cuvilliez

ロゼッタはマトリョーシカのように四角を重ねた形と色が濃い格子柄が交互に並んでいます。
近くで見ても、遠くで見ても2度楽しめるデザインです。

Hugo Cuvilliez

ブリッジはダブルホールになっています。
このダブルホールも、音のバランスを考慮しての選択であることが分かります。

Hugo Cuvilliez

ヘッド周り

潔さと丸みを兼ね備えたヘッドの形状です。
突板は裏・横板と同じマダガスカルローズウッドと思います。
新し過ぎないモダンさが良いです。

Hugo Cuvilliez

糸巻きはアレッシーです。
1、2、3弦の全てにがたつき(遊び)があり、4、5、6弦の側にはそういった症状はありません。
高音弦側だけ、ぶつけたのかもしれません。
低音弦側の巻き心地は非常に良いです。
ゴトーの糸巻きもある程度の抵抗があって良いと感じましたが、アレッシーはその上でトルクが一定に保たれている印象です。
この使用感がアレッシーの標準であるなら、ゴトーよりもアレッシーの方が使用感は上です。

Hugo Cuvilliez

裏板

綺麗なマダガスカルローズウッドが使用されております。
製作家のこだわりを感じます。

Hugo Cuvilliez

弦の選択とタッチで音量・音質が変わるギター

「ユーゴ・キュビリエ」は、製作家の意図としてはカーボン弦を張ることを想定していると思います。

カーボン弦を張った状態では、一般的なギターに比べて音量は50〜60%以上大きく感じます。
(数値に根拠はありません)
爆音と言って差し支えないと思います。
ただし、カーボン弦ではラティスブレーシングを強く意識させる鋭く金属的な音になります。
ステージで他人弾くのを聴いている分にはまだ良いのですが、自分で弾くにはキツい印象です。

ナイロン弦を張ると、一般的なギターに比べて30〜40%程音量の大きいギターです。
この状態では音質にあまり違和感はありません。
特別に「音が良い」とは言えません。
ですが、伝統的な構造であったとしても、この楽器よりも音質が悪い楽器はたくさんあります。

また、奏者のタッチによっても音質は変わると思います。
私のタッチはあまり角が立たない方なので、人によっては説明しなければラティスブレーシングとは分からないかもしれません。

「ユーゴ・キュビリエ」の音量・音質

「ユーゴ・キュビリエ」の音量・音質に関しての感想をまとめます。

オーケストラ的な表現を満たせる音量

ナイロン弦を張った状態でも、他のファンブレースのギターに比べると音量は大きいです。
極端に音量が大きい訳ではないのですが、このちょっとの音量の差が効果的に働く場面があります。

F.ソルのグランソロを練習していましたが、オーケストラの特定のパートのみが演奏するフレーズとトゥッティ(全パートの参加)の弾き分けがとてもやりやすいです。
これまでの伝統的なギターであれば、トゥッティの表現においては、フォルテを使う場面の前の音量を意図的に押さえて差を作ったり、フォルテでも音質を悪化させない等の工夫が必要でした。

楽器の音量に頼って楽をしていると思うかもしれません。
ですが、「大音量の楽器で音量差を作る感覚」を覚えてから、伝統的な楽器でもその表情を再現できるようにすると面白いです。

角が立っていて、分離が良い

「ユーゴ・キュビリエ」の音質は角が立っており、非常に明瞭です。

弦がかなり古くなっても、それを感じさせません。
音程が安定するように、本番のかなり前から弦を張り替えても問題なさそうです。
(追記:今のところ、2ヶ月くらいは問題なさそうですが、弦が新しいに越したことはないです。)

音の粒立ちがとても良いので、音の分離も極めて良いです。
私が持っているホセ・ヤコピは古名器としての音の存在感で音が分離しますが、
「ユーゴ・キュビリエ」に関してはそれと異なり、音質の明瞭さと楽器の機能で音が分離します。

霞(かすみ)のあるフランス的な音

大きな音量やアタックの強い弾弦では、静電気・衝撃波を思わせる霞のような倍音が付帯します。
これは好き嫌いが分かれるかもしれません。

私が弾くと、この音はあまり鳴っていない気がします。

過去に持っていたアントニオ・マリン(エスペシャル)では常にタッチに気を使いながら弾いていました。
「ユーゴ・キュビリエ」の場合は特に気を使っている訳ではないので、演奏においてストレスはないです。
(無意識に何かやっている可能性がありますが)

高音のサステインが長い

音の粒立ちが良く、明るい倍音が耳を惹きつけるので、高音のサステインが長く感じます。
これも音が分離して聴こえる理由かもしれません。

擦弦楽器や息で演奏する管楽器を表現しているフレーズはとても弾きやすいです。

低音は大きいが、抜ける・飛ぶ音質ではない

低音はファンブレースの楽器とは異なる印象です。

音色として6弦よりも5弦が大きく感じるのは伝統的な楽器と同じなのですが、6弦の音量が単純に大きい印象です。
音の粒立ちが良いせいかもしれません。
この特徴によって、バロック音楽等の低音が重要な楽曲の表現がだいぶ楽になります。
追記:コンクールのテープ審査の録音の講評においても、6弦の音量が大きいというコメントを貰いました。

とても音量のある低音なのですが、手元で炸裂している印象で、ハウザーのような飛ぶ低音ではありません。
膨らむタイプの音質の名器も沢山ありますので、あまり気にしなくても良いと思っています。
他の杉のラティスと比較すると、多少は飛ぶ気もします。

ナイロンでは3弦がややこもる

「ユーゴ・キュビリエ」は、高音弦を全てナイロン弦にすると、3弦が少し鈍く感じます。
楽器の素性を考慮すると、3弦の1本くらいはカーボン弦を入れて良いと思っています。

ただし、カーボン弦が入ることで他の1弦、2弦の音質にも影響が出るため、この判断は極めて慎重に行うつもりです。
全てカーボン弦を張った「ユーゴ・キュビリエ」の音はかなり耳に刺さる音(特に1弦)で、それがこのギターの世間的な音質のイメージを悪くしていると思います。

私はこれまで「この楽器は音が細いのでは」という印象を持っていましたが、ナイロン弦であれば特に音が細いということは無さそうです。

「ユーゴ・キュビリエ」の機能・操作性

「ユーゴ・キュビリエ」の機能性・操作性についての感想をまとめます。

弦高は低い

「ユーゴ・キュビリエ」はオリジナルの弦高がかなり低めに設定されています。
自分でナット・サドルを作った際に、弦高の違いを感じました。

弦高の低さは、細いカーボン弦を張った場合はあまり音がびりつかないことが理由かもしれません。
カーボン弦であれば、いくらでも弦を押し込める感覚です。

とはいえ、ナイロン弦でもソロで弾く分には弦高に対して問題は生じません。

音色は作りやすい

杉のラティスブレーシング程ではないにせよ、「ユーゴ・キュビリエ」もラティスブレーシング特有のタッチへのルーズさを持っています。

このタッチへの程よいルーズさによって右手が神経質にならず、音色を作りやすい感覚があります。

過去にいくつか音量の大きい楽器を所有していましたが、音色の作りやすさと音量が両立されている楽器は初めてです。

音が鳴りすぎる・出過ぎることはない

ファンブレースでない「新構造の大音量の楽器」は「音が出過ぎる」「p〜mpのコントロールがしにくい」点が指摘されることがあります。
「ユーゴ・キュビリエ」に関しては、その点は問題なさそうです。

自分でこの楽器用にナット・サドルを作ってみて分かったのですが、バランスを考えて作られています。

ナット幅は少し広い、ボディも厚め

「ユーゴ・キュビリエ」はボディが厚めで、ナット幅も広い印象です。
フレタやラミレスのようなサイズ感かもしれません。

私には大きく感じますが、日本の男性の平均以上であれば問題ないと思います。

耐久性は?

ラティスブレーシングのギターは表面板の薄さによる寿命・耐久性の低下を心配する声もあります。
かくいう私もハウザー好きなので、「表面板はある程度厚みがあった方が良いのでは」と思うタイプです。

この点に関しては、カーボンを使ったのブレーシングによって剛性は確保されているのではないかと思います。
また、ザビエル・ジャラ氏やフローリアン・ラルース氏といったハードパンチャーが使用しているので、弾き潰す心配は無用と考えています。

筆者のナット・サドル調整はマッチせず

これまでに所有した楽器は、自分でナット・サドルを調整・作成し、その全てが良い方向に変化していました。
(19世紀ギターを含む)

しかし、ラティスブレーシングのこの楽器に関しては、調整が上手くいきませんでした。
元々楽器が持っていた粒立ちの良さや倍音が失われ、鈍さが強調されてしまいました。

私は「ナット・サドルで楽器の音の3割は決まる」と思っています。
「ユーゴ・キュビリエ」のナット・サドルに関して、これまでの名器とは違った方向性で製作家の個性・霊感があるように思いました。
この楽器は特にナットが重要だと感じています。

私が行っている調整とは真逆のコンセプトなので、非常に発見のあった楽器でした。
(ナットは恐らくきつめ、弦高は下げるが、ダブルホールでテンションを確保する)

時代が産んだ名器?

「ユーゴ・キュビリエ」はギター史に載っている名器と比べると音質が良い訳ではないです。
ノイズが溢れた現代の演奏環境に適応した楽器だと思っています。
ラティスの耳に刺さる倍音をフランス的な音に変換したという点は非常に素晴らしいです。
ギターの進化を考えると、大音量を求めたことによる音質の悪さを改善した楽器が登場するのは必然の流れと思います。
メディア・カームの故・酒井晴彦氏も、新しく登場した奏者が新構造の楽器を使うのを興味深く聴いておりました。

日本国内でこういった楽器を十分に比較して購入するのは難しい状況です。
目に触れる機会も少ないため、ラティスブレーシングに関しては、実際の音質以上に思い込み・偏見を持たれている気もします。
(とはいえ、杉で極めて音が悪いものもありますが)

音量は充分ですので、ハナバッハ等の音質が良く落ち着いた太めの弦を張ってみる予定です。
海外奏者に使われる理由が良く分かる楽器でした。

追記)私自身の感覚で本音を書いたのですが、結果としてラティスの楽器にカーボン弦を張ることを批判している内容になっていました。
筆者のギターの好みは、古い楽器にだいぶ偏っています。
あくまで一つの意見として捉えて下さい。

この記事は以上となります。
最後までご覧いただき、誠に有難うございました。

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