コンクールが終わってから、ギターではなくピアノをメインに弾いています。
理由は以下の通りです。
- 音楽理論を学ぶため
- バッハのオリジナルの鍵盤作品を弾くため
- 耳を鍛えるため
- ギターに比べてピアノがほんとうに簡単なのか、確認するため
- 「年齢(高齢)」が楽器演奏を習得する際の言い訳になるのか、確認するため
この記事では、「ピアノを練習している理由」や「1ヶ月半の練習期間で学んだこと」を紹介します。
ギターは難しくて、ピアノは簡単なのか?
「ギターで弾くと難しいけれど、ピアノなら簡単に弾ける」というセリフをギター弾き同士の会話で耳にすることがあります。
確かに、同じ音数の曲を弾いたらギターよりもピアノで弾く方が簡単でしょう。
しかし、この言葉には「ピアノは難易度が低く、ギターは難易度が高い」という意味が含まれているケースが多いと感じます。
「誰が、どんな意味で言ったか」の塩梅によるので、全ての発言を指しているわけではありません。
「ギターは難しい楽器だから」というのもよく聞く言葉です。
ピアノは幼少期から教育を受けている奏者が多いのに対して、クラシックギターは遅い年齢から楽器を始める人の割合が多いです。
この教育環境の違いによって、ピアノ奏者の方が音感やテクニックの面で成熟しているのは事実と思います。
ギター弾きが相対的に音楽のレベルが低いのを棚に上げて、「ピアノはギターよりも簡単だから」という意味合いの発言をするのはみっともないです。
とはいえ、私も人生のどこかで「ピアノは簡単」と言ったことがある気がします。
(恥の多い生涯を送ってきました)
本当に「ピアノが簡単」なら、練習してすぐに弾けるようにしてしまえばよいのではないでしょうか。
「ピアノ→ギター」の順に楽器を学んだ良い奏者は多くいる印象ですが、「ギター→ピアノ」の例はあまり見かけません。
実験台として、私がピアノを練習して簡単に弾けるようになれば「ギターはピアノよりも難しい」と自信を持って言えるようになり、ギター弾きの名誉を守ることができます。
ピアノは音楽理論を学びやすい楽器
ギターと比べると、ピアノは音楽理論(和声・コード)を学習しやすい楽器だと感じています。
私はギターでやらねばならないこともまだまだ多いです。
ただ、テクニックに関しては一般的な曲を弾く分には困らないと感じており、最上級の難易度の曲を除けばほとんどの曲が演奏可能です。
ごく限られた最上級の曲を弾くための技術を常に維持し続けることに時間を使うよりは、「耳を鍛える・演奏のための和声を学ぶ」方がより演奏を改善できると感じます。
自宅でピアノを学ぶのは、「留学する・音大に行く」よりは時間・お金・心理的ハードルの面で容易です。
本人の意識次第では、ピアノ学習は「留学する・音大に行く」ことに近いメリットを享受できるのではと考えています。
バッハのオリジナル作品が弾きたい
ピアノを弾けるようにすることで、編曲でないバッハのオリジナル作品が弾けるのも楽しみです。
和声分析や演奏の解釈に関する資料もたくさんあるため、学ぶには困りません。
(ブゾーニ編のシャコンヌは、もうバッハの曲ではないですが)
ギターでバッハを弾く際、「どの編曲を使うべきか」が重要な問題となります。
- 原典と同一、もしくは最低限の編曲を行ったもの
- 器楽的な華やかさを出すために和声音を加えたもの
- バロックの様式・語法に基づき、低音などの声部が追加されたもの
- バッハ本人による編曲に近いもの(同一曲に対する複数の版を参照したもの等)
私はギターでバッハの無伴奏ヴァイオリン・チェロ作品を弾くに当たって、音を追加することに賛成の立場です。
楽器が変われば、バッハは音を書き替えます。
ただし、変更した内容に問題があるものは最も印象が悪いです。
「②器楽的な華やかさを出すために和声音を加えたもの」はやり過ぎなければそこまで悪い印象を感じません。
ただし、ギターで演奏可能だからといって、闇雲にオクターブを足したものはバランスが悪いです。
鳴らせる部分で④弦・⑥弦のDをひたすら鳴らす編曲は、竜頭蛇尾になりやすい印象を受けます。
「③バロックの様式・語法に基づき、低音などの声部が追加されたもの」は、まず和声的に正しい音であることが重要です。
その上で、「バッハ本人に近い書き方であるか」が求められます。
「ギター組曲/J.S.バッハ作曲」になることが理想ですが、例えばS.L.ヴァイスのような他のバロック時代の作曲者が編曲したような内容になっていることがほとんどです。
(和声的な内容は正しくても、バッハ本人が書く音にはなっていない)
最近はティルマン・ホップシュトック氏の編曲が使われるのを良く見かけますが、個人的な印象は悪いです。
「弾いても・聴いても」違和感があります。
③と④の発想で編曲されていて、「④バッハ本人が書きそうな音を追加する」に対するチャレンジとしては面白いのですが、和声的に違和感のある部分が散見されます。
ギターでバッハを弾くのであれば、「佐々木忠」「Frank Koonce(フランク・クンス若しくはクーンス)」の両氏による編曲がおすすめです。
この編曲を実用版としつつ、「原典を見ながら自分なりの編曲を作る」のが良いでしょう。
個人的に気になっているのが、バッハ本人の鍵盤作品における「バスのアーティキュレーション」です。
リュート組曲のようなイメージで鍵盤作品のバスも書かれているのでしょうか。
それとも、楽器の特性に応じてバスのアーティキュレーションは変わり、それに伴って音型も変わるのでしょうか。
ピアノでオリジナル作品を弾いて確かめたいと思っています。
演奏していて楽しいのはクラシックギター
ピアノの良い面を褒めましたが、弾いていて楽しいのはやはりクラシックギターです。
ハープ、リュート、ウクレレなどの撥弦楽器の楽しさにのめり込んでいる人は、鍵盤を押すだけの楽器が物足りなく感じるでしょう。
ピアノは音楽を構築できるようになってからが楽しく、ギターは単音を弾いていても楽しめます。
ピアノを1ヶ月半弾いてみた結果
ピアノ弾いて、一ヶ月半ほどが経過しました。
バッハ(クリスティアン・ペツォールト)のメヌエット(BWV Anh. 114)は練習して1週間ほどで弾けるようになりました。
その後、ツェルニーの100番練習曲を順番に20曲ほど弾いていましたが、あまり上達の気配を感じません。
埒が明かないと思い、ベートーヴェンの悲愴第2楽章を弾き始めました。
右手で9度の開きが登場しますが、これは女性の平均に近い私の手のサイズで取れる限界の音程です。
(今後いくら上達しても、10度は届かないでしょう)
手の開きが「A.バリオスの楽曲の左手」と同じではないか、と思いました。
べらぼうに難しかったですが、片手で弾く分には楽譜を読んだその日から何度か通すことが出来ました。
結果、悲愴第2楽章の「A-B-A-C-A」の1ページ目「A」の部分を弾けるようになるまでに、20日程かかってしまいました。
個人的には「10段階中7」ぐらいの難易度に感じていましたが、ピアノのサイトを見たところ「難易度2」でした。
難しすぎて私がピアノをやめる日はそう遠くないでしょう。
(ソルのグランドソナタ1番op.22 アダージョに近い難しさ)
音楽的に満足できる内容には程遠いのですが、1ヶ月ちょっとでベートーヴェンのピアノソナタの一部が弾けるようになるなら、20代前半のうちにピアノを弾けるようにしておけばよかったと後悔しています。
「音程当て」で音感を身に付ける
この内容は、音感がある人には当たり前の内容になっているので、読み飛ばしてください。
夜中に激しく練習するのは、電子ピアノとはいえ鍵盤を叩く振動があるため、控えています。
また、練習しすぎると目が冴えてしまって寝付けないことも多いです。
寝る前は「音程当て」を行い、耳のトレーニングをするようにしています。
適当に鍵盤を叩くか、曲中に登場する和音の音程を聴いて種類を判別する練習です。
(ピアノの方が答え合わせしやすいですが、ギターでも問題なくできます)
私はいつもレッスンで先生から音程を聞かれて、答えに時間を要してしまいます。
この「音程当て」トレーニングを開始してから2日目以降、聴いて音程が分かるようになってきました。
(2日は言い過ぎで、これまでの経験が整理されただけと思いますが)
音程の響きを記憶する
2つの音を鳴らし、音程ごとの響きを記憶する・当てる練習をします。
#・♭なしのハ長調(ピアノの白鍵)上の音階を弾き、響きを確認します。
ピアノであれば、「全音(白鍵の間に黒鍵を挟む)」「半音(白鍵が隣り合う)」の個数によって音程をチェックできます。
(実際には、ピアノであれば半音の個数だけ確認すれば良いです)
ギターのフレットなら、「全音(フレットが1つ飛ばし)」「半音(隣り合うフレット)」で確認します。
以下の音程が2度です。
音程の間が全音であれば長2度、半音であれば短2度です。
長2度→ (ド:レ)(レ:ミ)(ファ:ソ)(ソ:ラ)(ラ:シ)
短2度→ (ミ:ファ)(シ:ド)
2度を転回する(逆に)したものが7度です。
7度の間に半音が2つであれば短7度、半音が1つであれば長7度です。
短7度→ (レ:ド)(ミ:レ)(ソ:ファ)(ラ:ソ)(シ:ラ)
長7度→ (ファ:ミ)(ド:シ)
短2度、長7度はぶつかりが激しく、長7度は導音が解決しようとする印象があるため聴き取りやすいと思います。
以下の音程が3度です。
3度の間が全て全音であれば長3度、半音が1つあれば短3度です。
長3度→ (ド:ミ)(ファ:ラ)(ソ:シ)
短3度→ (レ:ファ)(ミ:ソ)(ラ:ド)(シ:レ)
「Ⅰ・Ⅳ・Ⅴ」の和音のバスである「ド・ファ・ラ」から取る3度は長音程です。
3度を転回する(逆に)したものが6度です。
6度の間に半音が2つであれば短6度、半音が1つであれば長6度です。
短6度→ (ミ:ド)(ラ:ファ)(シ:ソ)
長6度→ (ファ:レ)(ソ:ミ)(ド:ラ)(レ:シ)
「ドミソ」→「ミソド」のような和音の転回形で「ミ:ド」等の6度ができます。
3度・6度は慣れるまで「短・長」のどちらか聴き取りにくいです。
短音程が「鋭い・冷たい・静か」、長音程が「柔らかい・暖かい・動きのある」印象です。
順番が逆になりますが、5度から書きます。
(和音で頻出の5度が記憶に残っているため)
以下の音程が5度です。
音程の間に半音が1つであれば完全5度、半音が2つであれば減5度です。
完全5度→ (ド:ソ)(レ:ラ)(ミ:シ)(ファ:ド)(ソ:レ)(ラ:ミ)
減5度→ (シ:ファ)
以下の音程が4度です。
音程の間に半音が1つであれば完全4度、全て全音(半音なし)であれば増4度です。
完全4度→ (ド:ファ)(レ:ソ)(ミ:ラ)(ソ:ド)(ラ:レ)(シ:ミ)
増4度→ (ファ:シ)
減5度と増4度は楽譜上の役割は違いますが、同じ音程(三全音・トライトーン・トリトヌス)です。
非常に特徴的・分かりやすい音程で、演奏する際にも意味を持って弾く必要があります。
響きを覚えなくてはいけないのは、「2〜7度」の6パターン✕「長・短」「完全・増・減」の2パターン=12通りです。
ただし、以下の特徴を踏まえると覚えておくことは実はそんなに多くないでしょう。
- 3度・6度で転回した組み合わせは「長と短の音程が逆になる」
- 4度・5度は展開しても「完全音程は完全のまま」
- 2度は「ミ:ファ」「シ:ド」だけが短2度
- 7度は「ファ:ミ」「ド:シ」だけが長7度
- 5度は「シ:ファ」が減5度、かつ聴いて分かりやすい
- 4度は「ファ:シ」が増4度、かつ聴いて分かりやすい
この音当ての訓練によって和音を構成している音程が分かると、和音の種類や響きが分かります。
実際の演奏では、以下の要素で和音の響きを聴きます。
- 「安定した・空虚な4度や5度」のみか
- 「明るい・暗い」に影響する3度・6度があるか
- 緊張感のある増4度・減5度があるか
- 長・短の7度(2度)でぶつかる音程があるか
完全音程の4度・5度だけであれば、「安定」「すっきり」「空虚」に聴こえます。
他の音程が加わることで表情が出てきて、緊張感も増します。
上記の音程当ての訓練は、文章でゴチャゴチャ書いているほどハードルは高くないのでぜひやってみてください。
私を指導している先生が少しイライラしているように見える理由がわかった気がします。
「ピアノを練習している理由」と「学んだこと」のまとめ
今回の記事のまとめです。
- ギター奏者が思っているほど、ピアノは簡単ではない
- 音数が少ない曲を弾くなら、ピアノよりギターの方が楽しい
- ピアノは音楽を学ぶ資料が豊富にある
- ピアノでは、指の開きや鍵盤によって視覚・感覚的に音程を把握しやすい
- ピアノ演奏も、音感トレーニングも、本気で取り組めば上達する
ピアノで音楽理論を学び、バッハを弾くことで、ギター演奏においてももっと彫りの深い演奏が出来たら良いなと思っています。
今回の記事は以上となります。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。