コンクールに出場する際に使用するため、友人からフリッツ・オベールを2ヶ月程お借りしていました。
コントロールしやすく、音の抜けも良く、上品な楽器です。
アマコンはルカ・ワルドナーを使いましたが、その前のいくつかのコンクールではオベールを使用しました。
(アマコンは「ちょっとうるさいくらいの方が良いかな」と思いルカにしています)
私は過去に弦長が640mmのフリッツ・オベールを持っていたこともあります。
友人に快諾頂きましたので、楽器をレビュー・評価したいと思います。
購入の経緯
友人がオベールを購入した楽器店では珍しいことにフリッツ・オベールを2本在庫しておりました。
事前に購入とは別のタイミングで弾き比べをした際に、凄腕アマチュアプレイヤーの方が持っていたオベールと私のエドムント・ブレヒンガーも合わせて比べました。
つまり、フリッツ・オベール3本とエドムント・ブレヒンガーの1本、計4本を比べたことになります。
エドムント・ブレヒンガーはフリッツ・オベールと同じ工房でギターを製作していたこともあり、この2人はハウザー・トーレスモデルの製作家としては世界で最も評価を獲得しています。
私は、弾き比べの前に弦長が640mmオベールを持っていたこともありました。
また、それ以前に別の個体をもう1本弾いたことがありました。
そのため、私の脳内ではフリッツ・オベール5本とエドムント・ブレヒンガー1本の計6本と比べていました。
その結果、過去のものとは違った個性を放つ1本だったので、友人に紹介し購入決定となった次第です。
外観
表面板
楽器店の店主から、これは特別なモデルとして作られた楽器であるという話を伺っていました。
目の詰まった美しい表面板です。
ボディシェイプはハウザー・トーレスモデルになっています。
オーラが凄いです。
裏板・横板
柾目のハカランダが使われています。
紹介する楽器が殆ど柾目のハカランダばかりで麻痺してきたのですが、大変貴重なものです。
フローリアン・デヴィット・ブレヒンガーと木目がよく似ています。
エドムンド・ブレヒンガーと同じ工房だった際に材料を分けたのでしょうか。
ヘッド
ハウザーシェイプのヘッドです。
シンプルなのが最高です。
ヘッドとネックはハウザーモデルの特徴であるVジョイントになっています。
糸巻きは添加のロジャースです!
ペグはスネークウッドでしょうか。
ヒール・ネック
ネックの塗装が元々荒れていました。
木肌は出ていませんし、いつでもリタッチ出来るのですが、直したほうが良いでしょう。
ヒール周りの装飾も大変緻密です。
音について
音質はドイツ系ならではの上品な輝きがある音で、清潔さを主としながらも甘さと色彩感を兼ね備えています。
綺麗な音質なのですが少し硬質で、音色の変化の幅はやや狭めと思います。
音の分離は最上の部類です。
他のフリッツ・オベールとの違いは音が太い(膨らむ)という点です。
これまで見たことがあるフリッツ・オベールは、ドイツ系の高音から低音まで筋張った気品と芯のある音質だったのですが、この個体はそこに肉感、膨らみがある印象です。
この肉感はドイツ系の楽器だけあって、柔らかいにも関わらず遠達性があります。
元々、ハウザー・トーレススタイルで作られている楽器で、完全なハウザーコピーの楽器と比較した場合は、ややトーレスよりの印象です。
つまり、完全なハウザースタイルに比べて、音の太さや音色の甘さ、低音の膨らみを持っています。
(ウルフトーンとまでは言いませんが、そういう傾向です)
特に6弦は、4弦5弦の締まり具合に比べると開いている印象を受けますので、広いホールでは拡散するかなと思っていました。
しかし、全くの杞憂でして、膨らみのある低音がそのままの形状を保ったまま飛んでいました。
一般のプレイヤーでしたら、完全なハウザー1世のコピーよりは膨らみのある楽器の方が使いやすいかもしれません。
友人から借りた理由も、広いホールでの信頼感が抜群だったためです。
私はハウザーとトーレスをモデルにした楽器だけが、シュタウファーが持つ19世紀ギター的な明るさを引き継いでいると思っています。
19世紀ギターの音質を知ってしまうと、タレガ以前の古典の曲をモダンギターで弾くと暗く感じます。
(横板、裏板にメイプルを使用すると明るくなると思いますが、別の問題も生まれます)
ルネサンスからバロック、古典、近代まで、幅広い時代の曲に真の意味で対応できるのがハウザー・トーレスコピーの良さだと思います。
スペインものを弾いても、クラシック曲としての清潔な魅力に変化するので、合わないことはありません。
友人に返すのが躊躇われる程、素晴らしい楽器です。
(貸して頂き有難うございます!)
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。