ギター演奏において、左手に安定感があり、ミスが少ないことは重要です。
左手の基礎ができていないことで、弦に上手く力が伝えられずに指を故障してしまう奏者も多いです。左手に力みがあれば、右手にも伝わって音が硬くなります。
右手の弾き方は適当でも音は出ますが、左手が雑ではそもそも音が出ません。技術的な優先度は右手よりも左手の方が高いです。左手に不安がない状態にしてから右手を整えると上達がスムーズです。
筆者は男性ですが、手がかなり小さいです。女性の平均とほぼ同じです。
初心者の段階で習っていた先生に左手の基礎を徹底的に叩き込まれました。ギターを開始し、フォームが固まるまでの2〜3年は手の小ささで悩みましたが、基本が身に付いてからは左手に関してあまり悩んだことがありません。
この記事では、左手の基本フォームとミスしないコツを解説します。
この記事で紹介する左手の基本をしっかりと身に付けていれば、曲の中で登場する押さえにもすぐに対応できます。左手の基本ができていれば、見なくても弾けるため初見演奏も得意になります。
左手の弾き方は「垂直(まっすぐ)」か「斜め」の2種類
左手の基本フォームには、チェロのように指板に対して垂直(まっすぐ)に指を入れる型と、ヴァイオリンのように指板に対して斜めに指を入れる型の2つのフォームがあります。
「垂直(まっすぐ)」のフォーム
「垂直(まっすぐ)」のフォームは指板と指の距離が近い状態を保ちやすいです。垂直のフォームは指を開くのに常に力を使う感覚があります。曲の中での登場頻度は「垂直(まっすぐ)」の方が多いです。低音弦側を押さえる際はこの形になります。
「斜め」のフォーム
「斜め」のフォームは、指を開くのに力が不要です。私はこのフォームを基本として教わりました。(先生によります)スケール(音階)を弾く際や高音弦側のみ押さえる場合はこの形になりやすいです。
この2つのフォームは「オープン・クローズド」や「蟹型・巻き貝型」とも呼ばれています。
個人的には「垂直(まっすぐ)・斜め」か「チェロ型・ヴァイオリン型」が好みの表現です。
「オープン・クローズド」では、指を広げるから「オープン」なのか、拡張をしやすいから「オープン」なのか迷うことがあります。
「斜め」を「ヴァイオリン型」と呼ぶのは、「チェロでも斜めに押さえることがありますよ!」と怒られそうです。
このフォームの呼び方は、早めにギター界で統一した方が良いと思っています。音楽家は独自の名前を付けて話を分かりにくくしがちです。(プロの方から怒られそうですが、交流がないので大丈夫)
ここで書いている「斜め」とは逆向きに、小指側に傾けるような押さえ方も登場します。
曲の中では様々な押さえが登場するため、場面ごとに適切なフォームは異なります。そのため、左手の押さえ方はシームレスに変化します。
フォームの形に固執する必要は無く、どちらも出来るようになる必要があります。
初心者のうちは、見た目の美しさにこだわると上達が早いです。
上手くなったら、見た目よりも脱力を優先しましょう。
基本のフォームが崩れるよくあるパターン
「斜め」のフォームがうまく取れない人は以下のパターンでフォームが崩れやすいです。
- 小指側の手のひらと指板との距離が遠い(上の画像も少し離れています)
- 小指が伸びてしまう
- 人差し指が寝てしまう
小指の関節が曲がってアーチができると、手のひらとネックは自然と近づきます。
斜めのフォームを作った際、小指が斜めになりにくい人もいます。指を開く押えがあるので、フォームの練習としては小指も斜めにできる方が良いです。
垂直(まっすぐ)のフォームがうまく取れない人は、中指と薬指が接近しがちです。
私は大学の講義中、指にずっと消しゴムを挟んでいました。
ふざけているようですが、わりと効果があります。フォークボールを投げたい野球少年の気持ちです。
大きい消しゴムを好んで使っています。(買い替えが面倒なので)
左手の親指は中指の後ろ位にセット
指板の裏の親指の位置は、だいたい中指の裏あたりです。あまりシビアでなくても良いです。
「高音弦側と低音弦側のどちらを押さえるか」で親指の位置は変化します。
親指は反らせない
画像のように、親指が反ってしまうと左手は力みます。
この状態は本人が力を入れているつもりでも、あまり力が伝わりません。
例えとして、ひじを曲げて上腕に力こぶを作っても、どこにも力を伝えていない状態と同じです。
ギター演奏で左手を脱力し、ミスを減らすためのポイント
弦を強く押さえるのは間違い
ギターの弦を強く押さえるのは間違いです。
クラシックギターの上級者は最小限の力で押さえるので、指先が極端には硬くなりません。
私は先生から「卵2個分の重さがあれば、弦は押さえられる」と教わりました。測ったところ、120gです。
ちなみに、人の片手の重さは体重の約1%です。
体重60kgなら600gです。
手の重さがあれば、弦4本以上は押さえられます。
力を入れてもギターは弾けますが、本気で上達したいなら限界まで力を抜きましょう。
音質が良くなり、故障せず長く練習でき、ミスも減ります。
「どれだけ力を入れないで押さえられるか」が重要なので、私は筋力を鍛える器具は不要と考えています。
ギターが弾けない時間に「指の独立性を磨く」目的としては使えるかもしれませんが、机を指で押せばそれで済む話です。
有名なバドミントン漫画においても、「肉まんを食べることで手が疲れる人間などいないでしょ?」というセリフがあります。(肉まんの重さ=バドミントンのラケットの重さ)
弦を押さえる場所はフレットの近く
弦を押さえる場所は、フレットの近くを心がけます。
これにより、押さえるのに必要な力が減ります。
フレット間の1/3くらいを狙うと良いですが、あまりシビアになる必要はないです。
下記の画像の人差し指のように、フレットに指がかかってしまうと音を消してしまいます。
音に影響がなければ、少し指がフレットにかかってもかまいません。
見た目よりも耳で音を聴くのが重要です。
右手で音を出す瞬間だけ力を強める
ギター演奏では、右手で弦を弾く瞬間だけ、左手で弦を押さえる力を強めます。
音が出た後は、力を抜いて最小限で弦を押さえて問題ありません。
押弦に必要な力が変わることを知らなければ、ずっと同じ力で弦を押えてしまい、無駄に力を使ってしまいます。
なるべくゆっくり動くとミスしない
クラシックギターの左手にはスローハンドという概念があります。
ギターの達人は、左手は急がずにゆっくり無駄なく準備をします。余裕を持って動くため、左手が速く動いているように見えないという現象です。
「スローハンドを目指すべき」ということには完全に賛成です。
ただし、距離のあるポジション移動ではある程度速く動いた方が良いです。
「スローハンド」の概念にとらわれずに、適切な動きを選択しましょう。
指の「弦への着地」を柔らかくする
スローハンドの動きは、全ての状況で使える訳ではありません。
あらゆる面で使える方法は「指の弦への着地を柔らかく慎重に行う」ことです。
これは左手の極意・奥義です。
左手と弦が接する際に衝撃があると、必要以上に力が入ってしまいます。
柔らかく弦に触れてから着地するとミスが減り、力みも生じません。
「柔らかく着地」→「音を出す瞬間だけ力を強める」の順番を意識しましょう。
事前に準備して、無駄のない動きを心がける
左手の指はミスの可能性を減らすために、動かせるうちに準備しておきましょう。
事前に準備することで着地の衝撃も減らすことが出来ます。
左手の押えでは、使っていない自由な指があるはずです。この指は、空中で次に弾く形を作って準備をしておきます。
この「事前に空中で指を準備」を丁寧に行うと、左手の動きがスローハンドに近づきます。
左手の「ポジション」「ポジション移動」「ポジションの貸し」
- 「ポジション」と「ポジション移動」
- 左手の位置のことを「ポジション」と言います。人差し指が1フレットにあるなら、1ポジションです。左手の位置が移動することを「ポジション移動」と呼びます。
初心者はポジション移動を曖昧に処理してしまうことが多いです。
1ポジションから5ポジションに移動する際に、「4.5ポジション」で止まってしまったら、移動量が足りません。これにより左手の感覚を見失ったり、指が届かなかったりします。
左手の指は、今、何ポジションにいるのかを意識しながら動かします。
手が小さい方、指が開かない方は、押さえている位置にポジションが偏りがちです。
ポジションを移動する際は、ふつうは親指も一緒に動かします。
ただし、親指を固定して、フレット上の指だけでポジション移動を行う「ポジションの貸し」を使うことがあります。ポジションの移動が頻繁に発生したり、すぐに元の位置に戻す(グリッサンド等)ような条件です。
その場合、上の画像のように親指が通常の位置とはズレます。これは「たまたま親指を留めていた」となるのではなく、意図的にポジションを貸すと決めて行いましょう
左手の拡張(エクステンション)
左手は、指の拡張(エクステンション)を伴う押さえがあります。
基本のフォームを身に付けていれば、指を開くのが簡単になります。
力を入れて開くのではなく「閉じていた指を伸ばせば拡張が完成する」のが理想です。手が小さければ、どうしても開く意識は必要です。
下に左手の拡張のパターンを張ります。(右手で写真を撮ると、押さえが汚くなっているので、そこはご勘弁を)
「4(小指)」の拡張(エクステンション)
「1(人差し指)と4(小指)」の拡張(エクステンション)
「1(人差し指)」と「2(中指)」の開き
指を伸ばしたのではなく、斜めのフォームで開きの幅を広げている。
「2(中指)」と「3(薬指)」の開き
斜めのフォームで「2(中指)」と「3(薬指)」の開きの幅を広げている。
ギター演奏での左手の重みの方向
クラシックギターを問わず、ギター演奏では左手の重みを使うことで弦を押さえることが楽になります。
指や腕も疲れにくくなり、長時間練習しても故障しにくくなります。
この「腕の重みの使い方」は2種類あります。
- 肘を前に出す(肩関節から腕を前に)
- 肘を下・後ろに引く(肩関節から腕を後ろに)
力を入れすぎると、どちらの方法でもネックが身体に近づいてしまうので注意してください。
- 「肘を前に出す」(写真左、緑の矢印)
- 私は基本として「肘を前に出す腕の重みの使い方」(写真左、緑の矢印)を推奨します。
イメージの仕方は2種類あります。しっくりくる方を使ってください。
①肘が手の下に位置することで、弦・指板に腕の重みが乗る
②肩・肩甲骨からの力が腕を経由して指板に乗る(体幹の力が回り込む)
ギターは「歩く・走る」と同じ方向に身体をひねります。右手は引く方向なので、左手は前に出す方が自然です。
- 「肘を引く」(写真右、青の矢印)
- 腕の重みは「肘を引く」ことでも使えます。重力の方向として、普通はこちらをイメージするかもしれません。
アコースティックギターでは、左手親指でネックを握る都合で「肘を後ろに引く」ことが多いです。
「肘を引く」弱点は、指・手がその場に居着きやすいことです。指を浮かせて、左手を動かす速度が遅くなります。
居着くは武道・武術の用語で、その場に留まってしまい即座に動けないことを表します。
クラシックギターの弦を押さえるのに、それほど大きな力は不要です。そのため、素早く移動・押さえ替えがしやすい「肘を前に出して、腕の重みを指板に乗せる」方法をメインに使いましょう。
腕の使い方は場面によって変わります。左手は理屈よりも「経験・練習量」が重要です。
「左肘が上がる」に注意
脇が開いて左肘が上がるのは、悪いフォームです。ただし、特定の押さえで肘を上げ、手の形を調整することがあります。
過去に音大に通う生徒の演奏を聴いた際、ずっと左肘が上がっていてびっくりしたことがあります。(教授の指導力がまずい)
「クラシックギターの左手」まとめ
この記事で紹介した左手の弾き方を身に付けていれば、難曲の左手で苦労することが減ります。
「極意」も書いていますので、意識して練習し、簡単に上達しましょう。
- 左手の基本フォームは「斜め」と「垂直(まっすぐ)」
- 指は曲げてアーチを作る
- 親指は反らさない(反ると力む)
- 上達したいなら、限界まで脱力する
- 右手で弾く瞬間だけ、左手の力を強める
- 無駄のないゆっくりな動きをする
- 指が弦に着地する瞬間は柔らかく
私がギターを先生に習い始めた頃は、「左手の斜めと垂直(まっすぐ)のフォーム」の練習からレッスンがスタートしていました。そのときは面倒だと思っていましたが、基礎を身に付けて良かったと今は実感しています。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。