購入した1983年製のアントニオ・マリンが自宅に届きました。
大方のチェックを終えましたのでレビューを投稿致します。
試奏の時点での印象は下記の記事に書いております。
「試奏の印象」アントニオ・マリンを購入致しました。|クラシックギターの世界
この記事は購入直後の「未調整」の状態での印象を書いています。
その後「ナット・サドル取替、糸巻きの交換、フレット打ち替え」をした結果、音はかなり変わっています。
アントニオ・マリンの外観のレビュー
ヘッド周り
モデルBと呼ばれるタイプの形のヘッドです。
木目の豊かなハカランダが突板として貼られています。
改めて見て気がついたのですが、このデザインはロマニリョス等と同じモチーフでしょうか。
晩年の黒いヘッドですと、これに気が付きませんでした。
糸巻き
フステーロの糸巻きが付いています。
巻き心地はあまり良くありません。
ペグの一つ一つで感触が違います。
私はライシェルの巻き心地も嫌いではないので、フステーロも愛せると思います。
デザインは素晴らしいです。
ロジャースはもちろんかっこいいのですが、「ベンツやBMWの車を求めていたらベントレーが来た」位に威厳がありすぎるのです。
庶民的な良さのある糸巻きは安心します。
ネック周り
マリンならではの形が良く弾きやすいネックです。
ヒール周りです。
購入前にギター仲間の友人と「材料2つをくっつけた作りではないか」と話していました。
が、違いました。
4層(ネックも入れると5層)になってます。
裏板
アントニオ・マリンの中ではかなり上位のハカランダです。
ちっちゃい節はあります。
ハカランダ使用の割には結構楽器が軽いです。
1465gでした。
表面板
中々にオーラを感じる表面板です。
写真では写っていないですが、表面板・ネック・ヘッドに細かいキズは多いです。
木の色を活かしたロゼッタです。
これを見ると「マリン!」という感じがして良いのですが、何かイメージソースはあるのでしょうか。
飾り気を押さえつつも、この時代の他のギターよりも現代的なところが「らしい」ですね。
ギターのデザインは、日に焼けたり、経年で変化しても様になるものでなければなりません。
追記:離れてみると、このデザインはブーシェのロゼッタのように見えます。
晩年のモデルBと何故ここまで印象が違うのでしょうか。
木の色ムラかもしれません。
ブーシェオマージュのラベルです。
モデルBはずっとこちらですね。
ブリッジ周りです。
こうしてみると、かなり表面板のグレードが高いと思います。
牛骨?の装飾が張ってあるブリッジです。
これもありそうで無いところが良いです。
市販で完成品として売っているものかもしれません。
アントニオ・マリンの音のレビュー
きめ細やかな爽やかさ
前の試奏時のレビューでは「暖かみ」という表現を多用しましたが、これは少し違いました。
(店内の音で詳細に聴き分けることが出来ず)
【追記】暖かみのある伸びはオーガスチン赤の個性でした。
1990年以降のマリンが持つ「爽やかさ」と言われる要素を極めてきめ細かくした印象があります。
手元に届き、調弦した直後は音が細く感じましたが、しばらく経つと本来の音の太さになってきました。
それでも音は過剰に太くなく、2弦と3弦の差が小さいです。
3弦のカーボン弦は不要と思います。
基本はマリンの音なのですが、忘れた頃にブーシェ的な強さや深みを感じます。
現代的な分、ブーシェのような重さは無いです。
全ての音が伸びる、鳴る
高音から低音まで、全ての音が伸びます。
この音質の良さのまま、この伸びを達成したのは偉業だと思います。
伸びの面では1990年以降のモデルBやモデルEの方が強力だと思います。
鳴らないポジションはほぼ無さそうです。
(音がビリつく箇所はあります)
ポジションマークが無かったのですが、どこでも鳴るので1フレットズレて弾いても(♭が入っても)音の伸びが変わりませんでした。
ブレない・暴れない低音
音が伸びる楽器にありがちな音のブレがこの楽器にはありません。
かなり伸びる音質なのに、落ち着きを保っています。
前の記事に書いたほど、「低音の倍音のブースト」は強烈ではないです。
強く弾くと、ひたすらにブレずに音が伸びます。
弦が新しかったり、楽器が馴染むとまた変わるかもしれません。
調整の余地はありそう
今回の楽器はアントニオ・マリン氏のナット・サドルがそのまま残っていたような気がします。
普段私がやっている調整のやり方とかなり違いました。
ナット・サドルを作り直せば、もう少し音が太く・柔らかくなるのではと企んでいます。
(悪くなったら、元に戻します)
ユーゴ・キュビリエに似ている
最近弾いた楽器ですと、ユーゴ・キュビリエに音や反応が似ています。
元々キュビリエはパコ・マリン等と似ているので、当然かもしれません。
もちろん、ラティスのような音量・音質はありません。
(一瞬、キュビリエも欲しくなったのですが、買う理由が完全に無くなりました)
過去に弾いた・持っていた楽器の中では、ローズウッドのドミニク・フィールドにかなり似た音です。
ドミニク・フィールドはローズウッドだったからか、手元にあるマリンの方が音のピントが合っているように思います。
追記)調整の結果、グラナダ系のギターの特徴は全く無くなりました。
それと同時に、キュビリエも欲しくなってきました。
この楽器でないと駄目?
「80年代のアントニオ・マリン」には、そこまでこだわらなくても良いと思います。
結局、ブーシェではなくアントニオ・マリンです。
音質重視なら、ジャン・ピエール・マゼ等の他のブーシェモデルから探した方が良いです。
マリンの音は少し軽くなります。
ただ、私の場合はこの楽器を待って良かったと思います。
(どっちやねん)
音質と音量・機能性のバランスが絶妙です。
マリンの鳴り方が好きで、音量や伸びを落としても音質が欲しい方には良い選択肢です。
マリンは音の芯は太くないのですが、ブーシェよりも楽器としてのタフさがあります。
強い芯としなりの両方によって、楽器がヘタることは無さそうです。
1983年のマリンは鳴らしにくい
「1983年のマリンは、それ以降のマリンよりも優れている」とは、私は断言できません。
年代の新しいマリンは「シルキーさ」がある倍音によって、鳴らしやすくなっています。
この1983年マリンには、それがありません。
ブーシェのような艶をスペイン人が真似た強靭な音色を持っていて、普通のタッチでは音が開きません。
「楽器を上手く鳴らすタッチ」か「力で鳴らすタッチ」のどちらかが必要です。
良く弾かれている楽器を見て「古いマリンが良い」と言いたくなるのは分かります。
しかし、奏者のタッチによっては自由な音楽表現ができなくなります。
私はタッチと爪を変えて対応しましたが、結局「ナット・サドル・糸巻き・フレット」を替えました。
1983年のマリンは、そんなに簡単な楽器ではないです。
アントニオ・マリンの購入後の印象まとめ
「通常のマリンと骨格やバランスでありながら、音色は気品のある爽やかさがあり、低音までよく伸びる」という感想は試奏時とさほど変わりません。
手元で冷静に弾いてみて、現実的にこの楽器の良さを確かめることが出来ました。
購入して大正解だと思っております。
アントニオ・マリン氏は1933年生まれ、90歳を超える年齢です。
気に入った個体があれば手に入れておくのが良いでしょう。
とあるギターショップでは「天才製作家に残された時間はあと僅か!」と書かれていました。
不謹慎ですが、酷すぎるあおり文句に笑ってしまいました。
この楽器については、私が購入する前にギター仲間のおうどんさんが試奏してレビューを投稿していました。
(まだ楽器が鳴りきっていない状態だったと思います)
ギター試奏 アントニオ・マリン・モンテロ 1983 ブーシェ・マリーン | クラシックギターマニア おうどん
私の試奏時の印象もまとめておりますので、合わせて御覧ください。
「試奏の印象」アントニオ・マリンを購入致しました。|クラシックギターの世界
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。