2020年度のアマチュアギターコンクールのテープ審査の課題曲がF.ソルのワルツ ホ長調(Op.32-2)でした。
この曲は多くのコンクールで課題曲として取り上げられています。
個人的に、当初は苦手意識もあったのですが、掘り下げる程に魅力のある曲だということが分かり、今後もレパートリーとして維持したいと思っています。
今回、この曲を録音するに当たって考えたことを解説いたします。
録音をした時点で、この曲でどなたかにレッスンを受けたわけではないので、何か大きなことを見落としているかもしれません。
その際はコメント等で教えていただけると有り難いです。
また、何か気づきがあれば都度記事を修正するつもりです。
前半、ホ長調
冒頭、1-4小節
テンポ
まず、考えなくてはいけないのはテンポだと思います。
アマコンの指定楽譜にはAllegrettoの表記があったのですが、オリジナルにはワルツとしか表記がありません。
ワルツとして軽やかに弾かねばならないので、ある程度の速度は必要と思います。
ただ、1-4小節のバスラインを弾いてみると、個人的にはちょっと物憂げな表情に聴こえました。
あまりにテンポが速すぎると、このバスラインの表情が崩れてしまう気がします。
ワルツの軽やかさとバスのアンニュイさのバランスを取って弾くべきと思います。
弾き方
アウフタクトから、1小節目に重みをかけていきます。
アウフタクトが強くなってしまうと、古典派の弾き方から逸れてしまいます。
音価を短く、切って弾いても良いのですが、曲全体を通して同様の弾き方をするので、上品さが保たれる範囲でやるべきと思います。
(右手でプランティングをすると自然に音が切れるので、それくらいの切れ方で私は良いと思いました)
知人に録音を聴いてもらったところ、アウフタクトの捉え方の甘さを指摘いただきました。
楽譜として、単なる3拍目と曖昧な部分もあり、どこまで表現するかについては非常に悩みました。
当然ですが、和音の響き(協和音、不協和音)によって弾き方を変えねばなりません。
1小節目1拍目はふんわり、優しく広がるように、
(明るい曲ではありますが、パララッと元気が良すぎると他との対比が付けにくい気がします。個人の好みです)
2小節目3小節目の1拍目は角が立っているような、苦しいような、突っ張って意地になっているような表情を狙って弾きました。
2小節目、3小節目のアポジャトゥーラ、不協和音の解決も重要です。
また、2小節単位でフレーズが構成されているので、ワルツとしての循環、パルスを意識します。
日本人的な、直線的なイチニーサン、イチニーサンのワルツでなく、循環というところが肝です。
緊張すると、この音楽的な循環、波が消えてしまうのが悩みです。
5-8小節
アルペジオ
5小節目1拍目のアルペジオは、2音がバラけがちです。
右手をプランティングしてiとpがバラけないようにゆっくり練習するしかありません。
ipとmの間を大げさに空けるとか、そういった方法も良いと思います。
右手に気を取られるのですが、私の場合は④弦のEを押さえている左手の2の指を離すときに、どうしても④弦開放弦の音が鳴ってしまいます。
(あまり耳が良くないので、後から「鳴っている!」とは思うのですが、速いパッセージを弾いている最中に鳴った瞬間には気が付きません)
私の場合、アルペジオをした後すぐに右手のpを4弦に置き直して消音していました。
これによって難易度も上がりました。
その後の和音は不協和音の連続とアポジャトゥーラになっています。
装飾のある旋律
6小節目の旋律は軽やかに、オンザビート、拍通りに弾かねばなりません。
youtube等で演奏を聴いていると、装飾音の存在感が大きい(長い)場合もありました。
速いパッセージなので、装飾音はもたつきを感じさせずに弾かねばなりません。
拍感を強調するための装飾音符ではないかと思います。
最後の和音は3声が全て聴こえるように弾きましょう。
(③弦の音が聴こえなくて何度録音し直したかわかりません)
9-16小節
魔笛的なスラー
9小節、13小節目に「魔笛の主題による変奏曲」にも登場するような、2弦のスラーが出てきます。
表現は、完全に魔笛と一緒では無いような気がします。
後半との表情の対比で、比較的元気良くピヨピヨ弾いて良いのではと思いました。
拍感を強調して、技巧的なスラーを活かします。
勿論、①弦の音を邪魔するような音量ではいけません。
順次進行の上昇の音形ですので、伸びやかにクレッシェンドします。
14小節目は二重倚音に繋がるので、音量に加えてビブラートをかけて更に強調します。
10-12小節、14-16小節は、ソルが得意な繰り返しの変更です。
10-12小節はアウフタクトから和音に突っ込んで行く様子、
15小節は終止に向けて1拍目のスラーでブレーキがかかる様子に見えます。
後半、ホ短調
後半はホ短調に転調します。
前半を聴いた後の印象ですと、昼の明るいワルツに対して夜会のワルツのように感じます。
(昼間からワルツを踊るかどうかは知りません!)
17-24小節
この曲の中で、最も力強い部分に感じます。
付点のリズムがちょっと粗野な気がして、ハリーポッターの子鬼(ゴブリン)のようなキャラクターが闇夜で踊っているのを想像しました。
録音の際は、シに跳躍したところでやや荒々しくビブラートをかけて弾きました。
力強い分、長調の前半と対比してテンポを落としたい気持ちは良く分かるのですが、
33小節の32分音符のスラーの箇所は軽快さが求められる部分でして、
そちらと同じテンポで弾かなければならないことを考えると、
私は前半の長調の部分とテンポをあまり変えずに録音しました。
19小節は1拍ごとにアーティキュレートして表情を付けるのが面白いと思います。
19小節3拍目のスラーは確かに綺麗と思いますが、少し難しいです。
アマチュアギターコンクールの指定楽譜からはこのスラーは外れていました。
録音なら付ける、コンサートの一部として人前で弾くなら外す、位で良いのではと思います。
私は多分スラーを付けて弾くと思います。(場合により変更するのが面倒なので)
20小節のブリッジの部分では、36小節と比べて直接ラとシをぶつけている(時間差でない)ので、ソル自身も短調の前半部分に「毒のある、強い」要素を意図していたのではと思います。
25-32小節
「Etouffez」
物議を醸す「Etouffez」の部分です。
下記に中村俊三先生のブログを引用いたします。
「エトゥフェ」 て何のこと?
上から5段目の最後の小節のところに「etouffez.(エトゥフェ)」と書いてあります。この「etouffez.」というのはフランス語で、辞書などを引くと、「窒息する」とか「息苦しい」といったような意味ですが、ソルは教則本の中で「エトゥフェのためには・・・・・ 通常よりは力を抜き加減に、しかしハーモニックスを出す時ほどは軽くせず押さえる ~渡辺臣訳」と言っています。
中途半端に押さえて弾け、と言うのだが・・・・
要するに弦を中途半端に押さえてミュート音を出すということですが、実際にやってみると、これがなかなか難しい。ハーモニックスが鳴ってしまったり、ノイズ(いわゆるビリつき音)が出てしまったりで、なかなかそれらしい音が出ません。一般的には右手をブリッジに添えて弾く「ピッチカート奏法」で代用したりしますが、ただし困ったことには、ソルは教則本の中で「etouffez.には決して右手は使わない」と言っています。
このワルツでも、どの範囲まで「etouffez.」で、どこから通常の弾き方なのかがはっきりしません。おそらく「シ」をオクターブで弾いているところについて言っていると考えられますが、それが1回目だけなのか、2回ともなのかは判別する根拠がありません。弾く人の判断にまかせるしかないでしょう。
また、曲によってはこの「etouffez.」が長い範囲に及ぶ場合もあり(当然開放弦もある)、実際に教則本に書いてある通りに弾くのはたいへん困難です。ただ少なくとも「ミュート的」な音を要求しているのは間違いないでしょう。因みにコンクールの時には、この「etouffez.」の弾き方については審査の対象としないということになりました。
私が録音をした際は、この「弦を中途半端に押さえる」ということは忘れていました。
また、「etouffezは弱々しい弾き方でないよ」というのは聞いたことがありました。
(曖昧ですが)
今回私が採用した弾き方は、
左手の指をフレットの上に被せてミュートし、メゾフォルテまたはフォルテ程度の音量で弾く
という方法です。
左手をブリッジ側に傾けることでミュートが簡単になります。
2弦のスラーをする部分は「Etouffez」はかかっていないでしょうから、
25小節目は「Etouffez」(メゾフォルテ程度)で弾き、
29小節目は通常の弾き方でピアノで弾く
と私は捉えました。
26小節のピアノの表記も続いていると考えています。
誰かに指摘されるようなことがあれば「ちゃんと分かるように書かなかったソルが悪い」と開き直る予定です。
②弦のスラー、再び
長調の前半と同様、②弦のスラーが再び登場します。
pの表記があることもあり、私はあまり拍感を強調せず静かに弾きました。
踊りの場面の間で「満月の中、館の屋根の上を黒猫が走る」ようなイメージです。
スラーの音量が意外と出てしまうので、旋律とバランスを撮ってピアノで弾くのが大変です。
(テープ審査で録音した際は、1弦の音の方が小さくなってしまったのですが、妥協してそのままにしてしまいました)
このフレーズの後、間を空けずに(休符無しで)シのオクターブに戻ります。
こういった部分は、どれくらい空けるのが良いのでしょうか。
フレーズはここで終わっていますので、楽譜上の表記よりも時間を取っても良いと思うのですが、コンクール的には楽譜のリズムを守っているように聴こえる範囲で間を取る必要があります。
30小節はまたダンスの場面に戻るよ、という提示だと思うので、フォルテで弾きました。
音色を変えるのも良いでしょう。
(ちょっと大げさなくらいが良いかなと思います)
33-40小節
25小節が子鬼の踊りだとすれば、33小節は魔女の踊りと思って弾きました。
「付点と実音の力強さ」と「スラーとハーモニクスの不思議な軽快さ」の対比です。
2弦の消音
1拍目の32分音符のスラーの前にアウフタクトがありますので、
1拍目を弾く際は、①弦をアポヤンドして②弦を消音します。
これは17小節も同じです。
ただ、アポヤンドすることによってリズムが乱れたり、メロディが遅れたりしてはなりません。
テープ審査の録音の際は、これは難しくて諦めました。今後の課題です。
32分音符のスラー
このスラーも難しいです。
完成度の低い部分を、耳で聴いて直すのがベストです。
音価が詰まってしまったり、はっきりと音が出ていない箇所を聴きとることから始めます。
自分でこういう作業が出来ると、先生に頼らなくても上達出来ます。
余談になりますが、私は下降のスラー(引っ張る方)の音質が汚く、悩んでおります。
ごく稀にスラーの音がとても綺麗な方もいて、自分の耳の悪さを感じます。
弾き方
33小節からの32分音符からハーモニクスを含む旋律を、惰性で弾いてしまう人が多いように感じます。
(自分もそうでした)
楽典に書いてある通り、長い音価の音が強くなりますので、
32分音符のスラーのエネルギーが2拍目にかかって、更に3拍目のハーモニクスでオクターブ上昇するように弾きます。
タリラリラッ、ピー↑のイメージで私は弾きました。
ハーモニクスがおまけのようになってはいけません。
セーニョ(繰り返し)
セーニョで冒頭に戻ります。
短調の部分を聴いたあと、長調のテーマの部分に戻ると不思議な気持ちになります。
単純に「元のテーマに戻ってきた、ホッとした気持ち」が正しいと思うのですが、
この曲の場合は「夜中に酔っ払って変な動きをしていた人たちが、翌日は普段どおりの踊りに戻る違和感」を感じました。
(私だけですね)
一度目と同じ弾き方をしてあげることで、本来の魅力を引き出せそうです。
対比で真面目に弾こうとすると平坦になってしまいそうなので、正統派に曲の魅力を引き出すリピートが良いと思います。
今回の記事は以上となります。
録音した感覚を覚えているうちに、出来ればyoutubeに演奏をUPしたいと思っています。
首のシワに年齢を感じるようになったので(他の部分もそうですが)、投稿を躊躇するかもしれません。
(おっさん化が著しいのです)
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。