クラシックギターの弦の中でも標準品とされるプロアルテのノーマルテンションのナイロン弦「EJ45」を張ってみました。
乱暴な言い方をすると、テンションが弱めの最もふつうの弦という認識になるかと思います。
メーカーの解説
プロ・アルテの高音弦は、PC制御レーザーシステムによって、200箇所に及ぶ測定を行っています。これにより弦の品質が保たれ、また演奏中のテンションが均一になるよう、設計されています。
出典:ダダリオ社ホームページより
型番により下記のテンションになっています。
EJ43 | ライトテンション |
---|---|
EJ44 | エクストラハードテンション |
EJ45 | ノーマルテンション |
EJ46 | ハードテンション |
今までの印象
今回張ってみるまでは、この弦は「標準品とは言いながらやや鈍く、全ての楽器に手放しで推奨は出来ない」という印象でした。
私が尊敬する某若手ギタリストはこの弦しか使っていないようで、それを聞いたときは「他の弦に替えたくならないのだろうか」と素直に思いました。
これまでの凝り固まったイメージが正しいのか、本当に万能な弦なのかを検証すべく、今回使ってみた次第です。
以下に張ってみた感想・レビューを書きます。
見た目の印象
箱・パッケージ
クラシックギターの弦の中ではかなり洒落たデザインではないでしょうか。
今回は3セット入ったタイプを買いました。
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開封前
密閉された袋に入っています。
大きく劣化しないでしょうから、買いだめしても良いと思います。
プロアルテの弦も価格改定がありましたが、値段が上がっていないと思しきサイトもまだあります。
この記事を書いた後に、改めて「安い」と思い、まとめ買いしてしまいました(笑)
開封後
弦の端に何弦かを示すシールが貼られています。
このシールを外した後、粘着成分が弦に残ってしまうのが不快です。
ブリッジにこのベタつきが残ってしまう可能性があります。
残念なことに、低音弦はシールを張っていない側の巻きが緩いです。
私は、ブリッジに巻きつけるのは「高音弦はシールが貼られていなかった方」「低音弦はシールが張ってあった方」としています。
低音弦は表面のザラつきによってブリッジの穴がごく僅かずつ削れていくので、多少ベタつきが残っても最終的には取れていくと思っています。
(精神衛生上そう思うようにしています)
高音弦はシールが張っている側が5~6センチの範囲でやや硬くなっています。
こちらをブリッジ側に張ると「硬い部分が音に影響するのでは」と言われるのですが、
「硬い部分は大した長さではないのでブリッジに巻き付いた部分に収まるため、振動には影響しない」が個人的な結論です。
(結局、硬くない方をブリッジ側にします)
ノーマルテンションと言いつつも他のメーカーのローテンションくらいの弦になりますので、高音と低音の全てが僅かに細く感じます。
高音弦は完全な透明ではない印象です。
しなやかさは素材が違わなければ(同じナイロンなら)どれも似たようなものでしょう。
低音弦は細さ程のしなやかさは無いように思いますが、音のイメージからくる思い込みだと考えています。
弦を張ってからの期間と変化
日曜日に弦を全て張り替え、どれくらいの期間で変化していくかを確認しました。
条件として、平日は30分~1時間程度しか弾いていません。
休日は4時間程度弾いています。
以下の4段階の変化を確認しています。
- 人前での演奏に使うベストな状態
- 練習後に長時間放置して弦の伸びが続く状態
- 人前での演奏に使えない(使いたくない)状態
- 練習していても音が悪く耐えられない状態
①人前での演奏に使うベストな状態
高音弦は張ってから4日目くらいでこの位なら使っても良いという状態になりました。
音程の安定ではなく、弦の伸び具合による音色や反応の話です。
本番の演奏で使ったのは張ってから1週間後でしたが、私が使った楽器ならもう1~2日ぐらい伸びた状態の音の方が良かったです。
今回使用した楽器はマヌエル・ベラスケスのエル・クラシコ(工房品)で楽器本体の剛性が強い印象があります。
弦に柔らかさが残った状態ですとそこでロスが起きる印象がありました。
私自身が倍音成分の少ない音、あまり拡散しない基音に寄った音を求める傾向があるため、ある程度安定した後の硬めの弦が好みです。
今回の条件の検証では高音弦は8~10日ぐらいがベストと思います。
練習量や楽器、個人の好みによりこれは変わります。
低音弦は輝きが失われるのがかなり早い印象です。
高音弦と同じ日に張ったら、7日目、人前での演奏の機会があった当日の朝にはかなり大人しくなっていました。
それ程練習していない状態でブライト感は7日しか持たなかったので、
低音弦は本番の2~4日くらい前に張るのが良いと思います。
②練習後に長時間放置して弦の伸びが続く状態
高音弦は張ってから12日位は伸びが続いていました。
低音弦は20日位は伸びがあったと思います。
長期間の出張があったため、楽器を弾けない期間がありましたので参考程度の日数です。
③人前での演奏に使えない(使いたくない)状態
高音弦は、私の場合は2~3ヶ月は使えると思います。
伸びた状態が好きなので、それ以上でもそこまで気になりません。
低音弦は、弦が伸び切る前に輝きが失われますので、張って1週間位で大分おとなしい状態になります。
通常、私は低音弦も3~4ヶ月張りっぱなしにするのですが、このプロアルテは音質はそれ程重くなく量感も大きくないので、長期間張りっぱなしにしたい弦ではありません。
追記
「1週間で大人しくなった」と書きましたが、私の楽器のコンディションが悪い時期だった可能性があります。
20日程の時点でもある程度輝きは残っています。
④練習していても音が悪く耐えられない状態
最長として、高音弦は半年、低音弦は2ヶ月位で張替えすると思います。
寿命は長くないですが、価格も安いので、半月から1ヶ月単位で人前で演奏するような人が頻繁に張り替えて使うにはかなり良いと思います。
音の感想
高音弦
一度溜まってからスパンと出る感覚がごく僅かにあり、これが楽器によっては鳴らしやすさに繋がる印象です。
完全に透明でないナイロンであることにより温かみのある成分の音があり、それが表面板に良く引っかかって音になるイメージがあります。
しなやかさもあり、テンションの低さも相まって操作性が非常に良いです。
アメリカのメーカーですが、それらしさはありません。
品の良い中南米の名器やフランスっぽさを私は感じました。
シルキーなイメージです。
これらがマッチしなければ線の細い印象になってしまうでしょう。
ただ、全く相性が合わないという楽器も中々無いと思います。
音色は極端に太くなく、太い音を出す際は意識して出す必要がありますが、
これによって音色の幅がしっかり確保されています。
強烈な個性はないですが、「この音が無個性・普通だ」と世間からラベリングされているだけで、しっかりと個性を持った弦です。
低音弦
音像と音程感のはっきりした音です。
張ってからのピークの期間は、控えめな金属感(ギラつき)が主張しすぎないながらも音楽的な低音をもたらしてくれます。
重厚さはそれ程でもなく、量感も音像と引き換えにあまりありません。
そのため、ボケてしまった後は音像もぼやけて魅力が半減します。
プロアルテの低音はあまり好きではなかったのですが、楽器との細かい相性の一致を求めないのであればこの低音弦で全くかまわないと思いました。
うるさすぎず、音楽を作りやすい弦です。
名器や音に個性のある楽器であれば非常に良い弦と思います。
オーソドックスなスペイン系の楽器にも合いそうです。
量産の楽器に張ることは推奨しません。
量産品の楽器はそれなりに鳴ってくれますが音に魅力が無いため、その面での味付けを弦によりすべきと思います。
また、弦を張りっぱなしにすることも多いので、その点でプロアルテの低音弦は向いていません。
今回の記事は以上となります。
音楽的でバランスの取れた素晴らしい弦でした。
評判通り、万能だと思います。
相性が合う弦は楽器の音楽性を引き出してくれるものだと思いますし、プロアルテの弦は今後も真っ先に検討する選択肢のひとつと考えています。
私と同じく過小評価していた方は、是非また使ってみて下さい。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。