アントニオ・マリンの糸巻きをゴトーのアルミ製糸巻き510AMに交換しました。
本来、この糸巻きの交換作業は楽器の調整と合わせて製作家に実施頂く予定でした。
しかし、複数の調整を同時に行ってしまうと変化が分からなくなってしまうため、私が仮で交換しました。
糸巻きの取替は自分でやったことが無かったので、一度やってみたかったというのもあります。
糸巻きの交換により、どんな変化があったのかをまとめます。
糸巻きの交換作業
既設のフステーロを外す
元々付いていたフステーロの糸巻きのネジを緩めて外します。
かなりスルッと緩みますので、ネジを締めるトルクには細心の注意を払うべきだと思います。
木の繊維を潰してはいけません。
糸巻きはほとんど隙間なく収まっていました。
ここは音に関わる非常に重要な部分に思います。
サイズが合えば良いと思って、糸巻きを合わせずに穴を開けるのは宜しくないかもしれません。
余談
今は持っていない別の楽器で、製作家に糸巻きを取り付けるヘッドの穴調整を頼んだことがあります。
この際もゴトーの糸巻きを使用したのですが、6つのうち1つだけ動きが僅かに悪かったです。
糸巻きに問題は無かったので、軸と穴が干渉していたのだと思われます。
修理の仕事が雑な場合は糸巻きの動きにも影響が出ますので、修理後の確認も念入りに行いましょう。
ネジ穴間のスパンが合わない
糸巻きは4つのネジにより固定されていました。
ゴトーとフステーロでは、4つあるネジ穴のうち間の2つの位置が合いません。
フステーロに戻して、交換作業は製作家にやってもらうかどうか、迷いました。
人前での演奏を控えており、フステーロの動作にかなり不満があったので、両端の2つだけ固定して使うことにしました。
何かしら問題があるかと思いましたが、今のところ何も起きていません。
(真似しないで下さい)
3度目の変化で落ち着いた
糸巻きを交換して、音の変化が3度ありました。
「糸巻きを交換した直後」と「翌日~翌々日」、「それ以降」です。
楽器は糸巻き交換以前の音の音を記憶していますので、変化に時間がかかると思ったのですが、今回は変化が早かったです。
冬場のエアコンのON・OFFによる気温の変化で木の状態も変わっていたので、すぐに交換した状態が反映されやすかったのだと予想しています。
「糸巻きを交換した直後」は艶とタッチに対する反応の良さが共存していました。
これは、糸巻き交換前後の音のハイブリッドの状態(過渡期)です。
ナット・サドルを調整していてもこのハイブリッドの状態になるのですが、この中間の状態で止まってくれればと思うことも多いです。
「翌日~翌々日」は音がカリカリに痩せてしまいました。
「やはり軽い糸巻きは駄目か!」と思って一瞬焦りましたが、これも変化の途中段階だろうと判断して様子を見ました。
糸巻き交換による音の変化
改めて、最終的な状態でどのようになったのかをまとめます。
アルミ製の軽量糸巻きに変更したことによる音色の変化は以下の通りです。
- 音の表面の毛並みが立った
(程良いザラつきが生まれ、倍音感がある) - タッチに対する鈍さが無くなり、軽くも弾ける
(倍音によるもの?) - 野性的に鳴るようになった
(リュートや19世紀ギター等の古楽器的) - 弦の状態が少々古くても豊かに鳴る
- 低音は軽くなった
(ただし、ボリューム感や豊かさでカバーされる)
糸巻き交換前の状態は、音に艶はあったのですがかなり大人しい状態です。
艶が楽器の音を閉じさせているように感じていました。
「つるつる過ぎて楽器を震わせる引っかかりが無い」ということです。
弦が古くなるととたんに鳴らなくなる印象で、状態によってはあまり弾きたくないと思いながら弾いていました。
糸巻き交換後はかなりタッチに対する反応が良くなり、古楽器のように音の震えが分かるような野性的な音に変化しました。
交換前後で同じ弦を使っていましたが、新しい弦に替えたかのように鳴ってくれます。
糸巻きの軽量化により、モダンギターでここまでの変化を見せてくれるとは思いもしませんでした。
サバレスのコラムのように細い弦を張っただけでは音も細くなりがちですが、それを太く豊かにしたような印象です。
低音の音質はやや軽くなったのですが、リュートの低音のように幅を持って震えながら音が立ち上がるので存在感があります。
「鳴らなくて重い」よりは明らかに良いです。
無くしたアントニオ・マリンらしさが少し復活した
アントニオ・マリンを購入してから、ナット・サドルを調整し、サドルの下に敷いてあった木を外しています。
これらの元の状態がマリンらしさの要因だったのですが、音が暴れることの原因でもありました。
私にとってはあまり好みでない調整だったので、この調整を全て変えました。
(魔改造です)
詳細は下記の記事にまとめております。
アントニオ・マリンの音色の要因について。|クラシックギターの世界
このマリンはブーシェとの出会いから間もない時期ですので、ブーシェ的な艶が僅かにあります。
しかし、この艶があるせいで「あまり鳴らない」とも感じていました。
この点では1990年以降のマリンの方が優秀と思います。
購入しておいて言うのもなんなのですが、私は「マリンはブーシェと出会った直後が良い」とはそれ程思っていません。
暴れが無いアントニオ・マリン
元々アントニオ・マリンが採用していた調整方法は音の暴れや弾きにくさが生じるので、私にとっては軽いドーピングのような方法に感じていました。
(この方法でもむしろ弾きやすいのがマリンという楽器の魅力だと思います)
今回、糸巻きをアルミの軽量なものに替えたことによって、暴れを無くしつつもアントニオ・マリン的な良さを少し取り戻すことが出来ました。
(しかし、この楽器の音を聴いてアントニオ・マリンと分かる人は一人もいないと思います)
重厚なブーシェとは違いますが、機能的かつ音楽的なアントニオ・マリンとしては「これで良いのだ」と納得しています。
「軽量」と「ロスの無さ」のどちらなのか
音色の変化について色々とまとめましたが、これは「重量が軽量」と「糸巻き自体のロスの無さ」のどちらによるものかは分かりません。
元々のフステーロの状態が良くなかったので、「軽量」ではなく「糸巻きの作りの良さ」がプラスに働いた可能性もあります。
単独のパラメータの変化だけで、楽器がどう変わるかを正確に判断するのは困難です。
糸巻き自体の評価について
巻き心地や追従性
巻き心地は非常に良いです。
良いものを作っていると思います。
私が糸巻きに要求するのは「巻き心地」ではなくて、「耳に聴こえる音程の変化と指先の感覚の一致」です。
この点に関して、この糸巻きは充分過ぎるほどに満足出来ます。
ロジャース程滑らかでない(少し重さがある)のも好みです。
また余談です。
シェーラーの糸巻きを初めて触った際は、ドイツ製ということでライシェルの糸巻きのイメージを持っていたため、巻き心地が軽すぎがっかりしました。
シェーラーの糸巻きは大変素晴らしいですが、同じ軽いアクションならロジャースを選びたくなります。
外観
私はこのデザインでも別に問題無いと思っています。
日常の足として使うなら、別に高級車でなくてもかまいません。
しかし、ゴールドメッキの質感の悪さ・膜厚の薄さは駄目です。
過去に購入したヤコピに付けているものと、全く色が違います。
今回、ほとんどの面でこの糸巻きの良さを感じていましたが、ここだけは欠点です。
下が今回のマリンに取り付けたもので、色が薄いです。
想定よりはスマホの写真でも色の差が出ているので、単なるクレームおじさんと思われずに済みそうです。
アルミ製糸巻きの音色の変化まとめ
私は楽器が振動していることが分かる古い楽器のような鳴り方が好きなので、今回の変化は大成功でした。
ブーシェを元にした楽器であっても、軽量な糸巻きでこういった変化があるのは大変驚きです。
この調整から1週間経った今では弦が落ち着いたため、大げさに震える鳴り方では無くなっています。
もし「ロジャースを選んでいたら」というのは、どうしても考えてしまいます。
ロジャースは「艶と芯が出てタッチに対する反応も良くなる」と聞いています。
ブーシェのベクトルに変化させたければロジャースが良いでしょう。
ただ、この楽器(マリン)は艶だけでは音が開かなかった可能性があるので、軽量なゴトーの糸巻きで良かったと思っています。
サウンドハウスでゴールドの在庫があったので、ポイントを考えると今後は以下で購入する予定です。
(サウンドハウスしか在庫がなさそうなので、サウンドハウスで見て下さい)
最後までご覧いただき、誠に有難うございました。