この記事では650mm以下の弦長を持つショートスケールと呼ばれるクラシックギターの音質や操作性の特徴(メリット、デメリット)をまとめます。
また、ショートスケールでおすすめの製作家も載せています。
私はショートスケールのギターが好きです。
ただし、デメリットもあります。
手が小さい人がショートスケールのギターを使うことで、左手の難易度は下がります。
ただし、指の密度が上がる和音では逆に押さえにくくなることもあります。
ギターの張りが強すぎると感じている人は、ショートスケールのギターを使うことで弦のテンションを低くすることができます。
ただし、右手のタッチが磨かれていれば650mmのギターのテンションで充分なはずです。
ショートスケールのギターを使っていると、標準のスケールのギターとの持ち替えに困ります。
ショートスケールのクラシックギターについて掘り下げます。
ショートスケールのギターの操作性
左手:指板上の長さ(フレット間隔)
ショートスケールは弦長を短くしているので「フレット同士の間隔が短くなり、弾きやすくなる」と言われています。
例として楽曲の中で良く登場する指の開き「6弦3フレットのGと1弦7フレットBの押さえ」で考えてみます。
650mmのギターなら、フレット間の距離は112.7mmです。
(0~7フレットのまで長さー0~3フレットまでの長さ)
弦長が1cm短くなる毎に実用上の長さで約1.7mm短くなります。
その他の押さえでもせいぜい2~3mmの差でこの違いは微々たるものです。
鶴田誠氏のクレーンホームページ「TSULTRA FRET」を参照しました。
フレット間隔が狭くなることを期待してショートスケールを選ぶなら、630mm以下を選ぶべきと思います。
(1cm短くなったとしても、演奏の中で影響があるのは約1.7mm)
「クラシックギターは西欧で生まれているので欧米人向けのサイズだ」と言われますが、日本人でも大柄な方は655mm~のギターが弾きやすいと聞きます。
私の手は女性の平均値と同じ位ですが、650mmは長いと感じます。
(普段、660mmのギターを使っていますが)
平均男性の手のサイズがあるのなら、標準サイズで良さそうです。
(ピアノの鍵盤なら9度、オクターブ+1度が届く位の手です)
以下は私の個人的な意見による適正サイズ表です。
大柄な男性 | 弦長655~664mm |
---|---|
平均的な男性、大柄な女性 | 弦長650mm |
小柄な男性、平均的な女性 | 弦長630~645mm |
小柄な女性 | 弦長620mm以下 |
右手:テンション
1cm弦長を短くするごとに弦のテンションは3%落ちます。
弦のテンションを1つ落とすのと同じような変化です。
(ハードテンション→ノーマルテンション)
注意すべき点は、物理的に数値が同じであっても音質の面では同じにならないということです。
コントラバスやチェロを例にすると、弦の直径(太さ)を大きくしてテンションを上げるなら、あのような長い弦長は必要ありません。
ただ、弦長を短くして弦を太くすると
音のヌケが悪くなり、鈍い音になります。
テンション低下による弾きやすさの違いは非常に大きいです。
1cm変わるだけでも、張りが弱くなり弾きやすくなります。
手が大きい方でも、テンションの低さを求めるならショートスケールは有効です。
ショートスケールのギターは音量が小さいと言われています。
しかし、弦のテンションが低くなることによる押し込みやすさを考慮すると、音量に対してそ大きな影響はないと考えています。
但し、基本を身に付けたタッチが出来ていることが前提です。
弦に指をぶつけたり、引っ掻いたりするような弾き方ではショートスケールで音量を出すことは難しいと思います。
【追記】
この記事を書いた時点では、私は良いタッチを身に付けていませんでした。
良いタッチを会得すると、ギターの反応が柔らかくなります。
650mmで右手に感じるテンションが高すぎるということはないです。
ボディサイズ
弦長が640mm位までですと、650mmと同じボディサイズの場合が多いです。
それ以下の弦長ですと、長さに応じてボディサイズは小さくなっていきます。
弦楽器でヴァイオリンは小さく、チェロが大きいのと同じ理屈です。
しかし、音程が同じなのに楽器が小さくなっていくことを理論的に説明出来ません。
分かり次第追記します。
ギターはボディの形状・サイズ毎に型を作っています。
製作する台数が少ないのに、サイズ毎に違った種類の型を作るのは手間です。
そもそも小さいボディの型を作っていない製作家も多いと思います。
650mm向けの型しか作っていない製作家が630mm以下の楽器を作ると「楽器が鳴らない」ことがあります。
弦長の短い楽器を作るなら、ショートスケールで評判の良い製作家に注文しましょう。
ショートスケールのギターの音の違い
640mm程度ですと標準サイズのギターと比べて大きく音は違いません。
620mm位のギターと標準サイズのギターを比べるとショートスケールの音は19世紀ギターに近づいていくように思います。
ショートスケールの音量
弦長が短くなるとテンションが下がる分音量が小さくなると言われています。
しかし、きちんと作られたショートスケールの楽器であれば、音量が小さくなっても音の抜け、通りの良さは増すので、
トータルして比較した演奏への効果は変わらないと思います。
逆に言えば、ショートスケールの楽器で抜けが悪いものはただ音量が無いだけになってしまいます。
ショートスケールの音色
「弦長が長ければ柔らかいゆったりとした太い音」「弦長が短ければ粒立ちの良いはっきりした音」になる傾向があります。
弦長が短い場合はテンションが低く左手で音色を作りやすいので、技術的な操作によって柔らかい音を出すのも容易です。
ビブラートをかけやすく、音色に意志を反映させやすくなります。
ショートスケールの音程の問題
ショートスケールの楽器は演奏時に音程が悪くなりやすい傾向があります。
「ビブラートをかけやすい」ということは僅かな左手の乱れにも楽器が反応してしまいます。
脱力して弦を押さえていればOKです。
ウルフトーンの位置も変わる
「ヘルムホルツ共鳴の式」という、箱(楽器)が共鳴する周波数を計算する公式があります。
ヘルムホルツ共鳴器 – Wikipedia
ボディサイズの変更によりギターの容積が変わると、ウルフトーン(共鳴する音)の位置や鳴り方のバランスが変わります。
ウルフトーンとは「サステインが短く、ボワンとした鳴り方をする音程」のことです。
ボディの容積が小さくなると、ウルフトーンは高くなります。
計算結果によっては、ウルフトーンが開放弦と被ることもあるかもしれません。
良く使う弦が特殊な鳴りになってしまうと、音楽では使いにくいです。
バランスを気にする方は、ウルフトーンの位置をチェックしましょう。
ショートスケールのおすすめの製作家
加納木魂
名古屋の製作家、加納木魂氏はショートスケール製作の達人です。
600mm程度の弦長のギターまで製作しています。
シルキーでステージで良く存在感を発揮する音です。
かなり短い弦長を求める方は加納木魂氏の楽器がおすすめです。
松井邦義
大人気の製作家で説明不要ですが、松井邦義氏のショートスケールも定評があります。
粒立ちの良い明瞭な音で気品があります。
635mmで新作が作られていますので、実物を確認して購入出来るのもメリットです。
栗山大輔
栗山大輔氏はドミンゴ・エステソモデルで小ぶりな620mmのギターを製作しており、
これが非常に良かったです。
(金 庸太先生のギターを触らせてもらいました)
私は、自分自身を含めて一般的なレベルのアマチュアのプレイヤーには「モダンギターの能力を完全に使い切るのは難しい」と思っています。
トーレス(レオナ)より小さいファンブレーシングのギターがもっと普及して欲しいです。
(ダブルトップと小型トーレスorエステソモデルが店頭で併売される時代が来て欲しいです)
19世紀ギターを作っている製作家
個人で楽しんで演奏出来ればそれで良いという方なら、思い切って19世紀ギターのレプリカモデルを買った方が演奏を楽しめると思います。
19世紀ギターはモダンギターよりも個体差が大きいので、弾いて「つまらない」「モダンギターとの違いが分からない」と思うような楽器は絶対に買わないで下さい。
面白いと思う楽器に2~3本出逢えば、自分の中に基準が出来てくるでしょう。(我慢も大事)
私の意見
上記の内容を振り返って、私はショートスケールの楽器に肯定的です。
本来、640~645mmが標準で良いと思っています。
しかし、わざわざショートスケールで製作家にオーダーしたり、ショートスケールに絞って楽器を探すことはやめようと思っています。
(欲望を我慢)
私は手が小さいので、一度だけ大変有名な製作家のかなり珍しい640mmを使ったことがあります。
「650mmの方が良い音の個体が選べた」と気がついて手放してしまいました。
「650mmの方が良い」ではなく、「650mmの方が沢山楽器があって良いものが選べる」ということです。
ショートスケールは左利き用のギターを買うのと似ていて、今後の選択肢が狭まります。
モダンギターでショートスケールでなければいけない方は、小柄な女性の方(手の大きさが身長換算で150cm以下)くらいではないでしょうか。
ギター以外もそうですが、実物を触らずにカタログスペック(弦長)ばかり気にしていると、大事なことを見落としてしまいます。
気を付けたいところです。
今回の記事は以上となります。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。