当方、暇を持て余しておりますので、結構な時間youtubeを見ております。
(練習しましょう)
元陸上選手の為末大氏が自身のチャンネルでアップしている動画の中で
Xiborg代表取締役遠藤 謙氏の講義(トーク形式)がありました。
その中で「筋肉のバネの正体」や「運動に関する学習」を語っています。
運動のメカニズムに迫るために学術的な内容が多く、
大学の講義の短縮版のような形になっております。
正直、難しい話が多いのですが、2つの動画について
「細かい話はいらん、ギターに役立つことを教えろ」
という方のために情報をまとめたいと思います。
「筋肉のバネがある」とは何か
筋肉自体がバネ
まず、筋肉そのものがバネのようなものです。
力をある点において働かせようと思ったときに、筋肉がバネであることによる
時間的なラグが生じます。
3つの筋肉の特徴
①筋肉は力を発揮しやすい丁度いい長さが存在する。
筋肉は、腕を伸ばしきっている状態や曲げすぎた状態では最大の力は出ません。
力を出すにおいて適度な状態が存在します。
為末大氏は腕ひしぎされたときに力が入りにくいという話をしていました。
②止まっているorゆっくりで力が最大になる
速度が大きいと力が落ちる
筋肉は、ゆっくりor固まっている状態の方が大きい力がでます。
腕相撲を例として、腕は力を入れた状態で硬めて(速度がゼロ、力最大の状態)
身体を動かすことで腕を倒すと強い力を生じさせたまま動きを作れる
という説明をしていました。
③速度が速い方がエネルギー使用量が大きい
筋肉は、速く動いていない方が、エネルギー効率が良いです。
筋肉の特徴を踏まえ「筋肉がバネのように動く」とは
上記の筋肉の特徴を踏まえ、最も筋肉が効率的に機能している状態を人は
「筋肉がバネのよう」と呼んでいるようです。
為末大氏が言うバネがある人とは、下記の通りです。
「普段はリラックスした状態なのに、必要なタイミングでカチッと力を入れられる」
具体的に言いますと
一番大きな力を出せる筋肉の長さの姿勢・形で、
筋肉が競技に合わせた遅い速度で動く瞬間があり、
少ないエネルギーで大きな力を発揮している状態を
「筋肉がバネのよう」と説明しています。
陸上競技の走っている状態で例えると、
足が地面と接地した状態で、力を発揮しやすい理想の形(筋肉の長さ)で
ゆっくり動く様子(地面に突く前に筋肉が固められたロスの無い状態)です。
また「足を固める」と言っても完全に固めるわけでなく、
競技に合わせて力を生むために適度なゆっくりさである必要があり、
地面から離れて速く動かしたいときには弛緩する必要があるようです。
筋肉が力を発揮するのは、対数関数(2次関数と言っていましたが、間違いかと)
のように時間がかかるので、
予め地面に足が接地するタイミングを予測し、事前に力を入れ始め
(筋肉が固く、ゆっくりになり)
地面に力を加えた後にそれを抜くことが必要です。
ギターにどう活かすか
フォーム、姿勢の重要性
筋肉が力を発揮するには、丁度よい長さ(状態、フォーム)である必要がある、
というのはそもそも直感的に分かる話と思います。
右手のプランティング、左手の押弦
今回の話で面白いのは「筋肉の速度が上がると力が落ち、エネルギーも多く消費する 」
という部分です。
これにより、撥弦でプランティングせずに空中から弦を叩いていると
「どうして弦の抵抗を感じ、筋肉が緊張し疲れてしまうのか」が
理論として証明されたように思います。
右手のプランティングだけでなく、左手の押弦も「筋肉がゆっくり」の方が
力を発揮しやすいことが分かります。
また、今まで私がギターにおいて「力んだ状態」と呼んでいた状態は、
「力が最大、速度がゆっくりorゼロ」の状態で、
腕相撲では活用すべき状態ということが分かりました。
ギターにおいても、撥弦と押弦の瞬間は「速度がゆっくりで力が大きい状態」を
使うべきかもしれません。
脱力と指の速度
指を元の状態に戻したり、速く動かすには、弦を押さえる・弾く瞬間の
「速度がゆっくりで力が大きい状態」から
「速度が速く、力が小さい状態」に切り替える必要があります。
その際は、やはり脱力・弛緩が必要という結論になります。
すぐ上達する人とそうでない人の違い
身体を動かすときの2つの制御
フィードバック制御
身体を動かし、それが理想の状態とどれだけ離れているかを感じ取り、
修正する制御です。
前述の通り、筋肉はバネなので、イメージ通りに身体は動きません。
この制御の例として、フィギュアスケートの回転を行った場合、
「思ったより前のめりになってしまった→それを感じ取って直す」
ことのような制御です。
フィードバック制御は時間がかかります。
僅かですが、スポーツや音楽にとっては大きなロスです。
- 筋肉の反射→0.0数秒
- 視覚のフィードバック→0.15-0.2秒
- 聴覚のフィードバック→0.1秒
- 陸上の地面の設置時間→0.08秒
本来、指令は「今」出したいのですが、フィードバックの材料は
少し前の情報になってしまいます。
つまり、人間はフィードバックだけでは上手く動けないのです。
フィードフォワード制御
筋肉をこう動かして力を使えば、結果として身体はこう動くだろう
という予測や経験に基づく制御です。
事前に予測するので、フィードバックの必要がなく時間がかかりません。
考えずに身体が自然に動く状態と言えます。
フィードバック制御を繰り返し行うことにより、
フィードフォワード制御のモデルが構築されます。
この学習は無意識に行われます。
赤ちゃんが歩行を学習することも同じで、
学んだ歩行の結果、そこに不具合があればまた学習が行われます。
歩行のように既に学習した内容を行う際はフィードバック制御があまり起きず、
大脳を使わないので、あまり疲れません。
フィードフォワード制御は小脳を使っています。(脊髄の可能性も)
スマホを見ながらでも歩けることがその例です。
久しぶりに運動して怪我するのは、肉体が追いつかないのに
昔の運動のモデルが残っているからです。
「学習が早い」とは
学習が早いというのは、以下の2つを満足する必要があります。
①自分の身体の動きを正しく認識する
自分の身体がどう動いているかを正確に感じ取らなければ、
理想の動きに近付くように修正する作業が上手くいきません。
自分の体感や、視覚的な情報として「鏡、カメラ」を使います。
②身体を正しく認識した後、修正を適切に行う
身体を正しく認識した後、フィードバックを使って、
フィードフォワードのモデルを適切に書き換えることで学習が行われます。
演奏においてもそうかもしれませんが、
アクシデント(陸上のスタートの失敗、怪我、事故で手足が無くなった)が
あったときは、筋肉が余計に動く状態になってしまい、
大きな力が出せず、疲労も蓄積します。
ギターにどう活かすか
0.1秒、聴覚のフィードバックにかかる時間
聴覚情報のフィードバックに0.1秒かかりますので、
テンポの遅い曲では、今出した音に対して次の音にフィードバックが可能ですが、
テンポが速い曲では、フィードバックしようとしても上手くいかない
ということです。
テンポが速い曲は、練習で準備してきた指の運動の感覚を
再現することに集中しましょう。
テンポが遅い曲であっても、リアルタイムのフィードバックを行うよりも
用意してきたことをそのまま行う方が、効率よく演奏出来ます。
私は、会場の響きによって音量や音質をコントロールするタイプの奏者なのですが、
そういった奏者は演奏の効率は悪いので、コンクール的な要素に関しては不利と思います。
ただし、スポーツでなく音楽なので、別の加点は生じるでしょう。
練習では多くの情報を動員してフィードバックを行う
練習の際は、自分の身体の感覚と鏡や動画などの視覚情報を組み合わせて
フィードバックの材料にすべきです。
為末大氏は「左のアキレス腱をかばった結果、右の肩甲骨がこわばった」
というエピソードを説明しておりましたので、
腕や手、指以外の足や背中、お尻まで気を配るようにします。
視覚、聴覚、身体感覚のフィードバックをどう活用するかについては、
レッスン等の知識による理屈的な面もありますが、
どうやったら効率よく弦を押さえて弾けるか、本能的に対応する必要があります。
益田正洋先生が言っておりましたが、演奏はシンプルな動きなので、
理論に囚われなくても身体が勝手に順応してくれる面もあるでしょう。
ミスに対する対処
ミスや外乱があると、筋肉が速く動いてしまい、
力が出ず、エネルギー効率も悪くなるということが分かりました。
学術的には「筋肉が速く動いてしまう=身体がバタバタと動く」では
必ずしもないのですが、イメージ的にはそう思っても
結果は変わらないかもしれません。
「ミスした際にどう対処するか」を練習することで、
本来の力が発揮しやすくなることが科学的にも説明されました。
あえてミスする必要はありませんが、動じずに対処するようにします。
今回の記事は以上となります。
また為末大氏のyoutubeで有益な情報がありましたら、
ギターに活かせそうな部分をまとめて記事にしたいと思います。
他人の褌で相撲を取っているように見えて、実際そのとおりなのですが、
クラシックギターの演奏に活かせる内容を見つけるのは案外難しいのです。
最後までご覧頂き、誠に有難うございました。