楽器

アントニオ・マリンの音色の要因について。

1983年製のアントニオ・マリンを購入し、しばらく調整を行っています。
ロベール・ブーシェと関わりがあった時代(若しくはその直後)の楽器ということで、ブーシェ的な要素を感じていました。
それでも、アントニオ・マリン特有の音の伸びや軽さ、暴れを強く感じます。
「ブーシェらしい音の艶の片鱗はあるが、全然ブーシェではない」という印象です。

サドルの2つの要素を修正したところ、アントニオ・マリンらしさが全く無くなりました。
(ナットを含めると3つの要素
アントニオ・マリンという楽器への破壊行為と捉える方もいるかもしれませんし、よりブーシェっぽくなったと捉える方もいるかもしれません。

ナットの要素

ナットは、溝の幅や角度等の要素で決まるので、具体的にどういった調整がされていたかは目視では分かりません。

私はいつもテンションを緩める方に調整します。
マリンのナットを棒ヤスリで何度か削ったところ、劇的に張りが柔らかく、弾きやすくなりました。
ナットの調整だけではマリンらしさは損なわれません。
マリンの要素を残しつつ弾きやすくしたいという方はナットだけ削ってみると良いでしょう。

大きく変化のあった調整でしたが、これは他の楽器でも同じ変化があります。
マリン特有のものではありません。

サドルの2つの要素

サドルの以下の2つの要素は、アントニオ・マリンの音色の特徴を達成している重要な要素だと思います。

弦との接点の形状

アントニオ・マリンのサドルの形状(弦との接点)は以下のようになっていました。
写真は取り忘れました。

  1. 表面板に対して角度がある
  2. かなり直線的に削ってある(うろ覚え)
  3. 表面が目で見て分かるほど荒い

このサドルの弦の接点の形状は、スペインのギターに共通のものである可能性があります。
これに対して、弦とサドルが面で接するように調整しました。
サドルの上部は弦に合わせて丸くなります。
すると、音に関して以下の変化がありました。

  1. 1弦の音色のささくれが無くなった
  2. 音に芯と存在感が生まれた
  3. 音の分離が良くなった(存在感によるものかも)
  4. 音の暴れがなくなり、コントロールしやすくなった
  5. 暴れなくなった分、音量は押さえられた
  6. 低音の伸びがかなりおさまった

当初は、サドル表面を2000番の紙やすりで磨きました。
これですと、音の密度は増しましたが音があまりに閉じすぎているように感じました。
240番の紙やすりを使ったところ、今度は音がブレているように聴こえます。
(マリンオリジナルのサドルは240番どころの荒さではないと思います)
最終的に、1000番以下の荒さを試しています。

点接点は上手くいかなかった

サドルの調整をするにあたって、3弦の音程補正を行いました。
音程補正をする過程で、接点の形状がたまたま「点」になりました。

3弦は音がぼやけるので点接点でも良いかなと思いましたが、音が突っ張ってしまいました。
他の弦の音にも悪影響を与えていたように思います。
音程の補正は残しつつ接点を「面」に近づけたところ、豊かな響きになりました。

サドルの下の木板

上記のようにナットとサドルをかなりイジったのですが、それでもマリン特有の要素がかなり残っていました。

サドルとブリッジの密着具合をチェックすると、高音側に隙間がありました。
サドルは工場で成形された状態から手を加えていないので、完全な直角になっています。
サドル幅の調整を失敗したかなと思ってブリッジ周りをチェックしていたら、下の写真のようにサドル下から木の板が出てきました。
30秒ほど「これはオリジナルの要素だから残すべきでは」と悩みましたが、音にプラスの要素と思わなかったので外しました。
もしかすると、ブリッジにくっついている危険性もありました。この木の板は0.5mmの厚みがありました。
もっと遅い段階で気がついていたら、削りすぎによりサドルを1つ無駄にするところでした。
(作り直し)

この木の板を外したことで、以下の変化がありました。

  1. 音の密度が増した
  2. 音の艶と存在感、濃さが増した
  3. サステインが長くなった
  4. 音の暴れと伸びが更に収まった

私としては好ましい変化です。

この木の板には、サドルからの振動を散らして表面板全体に分散させる効果があるように思います。
音質は軽くなり大雑把になりますが、音の伸びや音量は増す印象です。
アントニオ・マリンらしさそのものに繋がる調整だと思いました。

有識者からの情報では、1980年代のラミレスにもこの木の板があるようです。
これがプラスに働く楽器も多いと思います。

おすすめはしない


アントニオ・マリン氏が行っていた調整を無くすことで、音は伝統的な銘器の方向に変化しました。
私の場合は良い状態に調整出来ましたが、調整の過程で楽器としての魅力がほとんど無くなってしまった瞬間もありました。
最終的には上手くいくと思っていましたが、精神的にかなりのダメージです。

どんな調整がされているかを把握して作業を行っており、場合によっては元に戻したり、中間の状態を狙うことも出来ます。
それでも、普通はこういった調整はあまりやらない方が良いと思います。

アントニオ・マリンの音色の要因まとめ

アントニオ・マリン氏はブーシェのギターの芸術性に惹かれていたと思いますが、やはりマリン氏本人のアイデンティティと言える部分は保っていたのだと思います。

マリン氏の調整を外すことで、1960年代前後の銘器のような要素が復活しました。

マリン氏の調整は、広いコンサートホールで現代の音量のある楽器に対抗するのであれば理にかなった工夫に思います。
ブーシェのボディ構造が持つ特色にもマッチした調整だと感じています。

このアントニオ・マリンの調整をする中で、私自身もブーシェモデルの楽器を調整する場合にどうしたら良いかを掴めたように思います。
この特徴がブーシェのものなのか、マリンのものなのかがはっきりしないので、ここには書きません。
もう少し、試行錯誤してみます。

最後まで読んで頂き、誠に有難うございました。