演奏技術

J.S.バッハの音楽をギターで弾く際の右手の運指について。

バッハの楽曲の旋律は、跳躍があったり、表記上は1声であっても2声で弾くなど、かなり複雑な音型をしています。
(単純なスケールではない)
ギターで演奏する曲の中でもかなり弾きにくい形と言えるかもしれません。

つまり、バッハの右手を制すれば、他のギター曲の右手の運指も怖くなくなります。
右手の運指の考え方について、掘り下げてみます。

本番で使える運指であるべき

右手の運指の理想について、使う指は連続しない方が良いです。
しかし、本番でとっさに使えない運指を付けては意味がないと思います。

左手の運指と違い、右手は違う運指で弾いても音楽が繋がります。
練習と違う運指を使っても見逃してしまうことがあるかもしれません。
だからこそ、本番でも再現性できる運指を使うべきです。
絵に書いた餅はNGです。

同じ指を連続することの許容

同じ指の連続使用についても、様々な意見があります。
運指はマニアックなテーマであり、大袈裟に語られる議論ではないですが、出版されている楽譜を見ると考え方は多種多様です。

私は運指は机上の空論になってはいけないので、「同じ指の連続が少しあっても良い」派です。
左手のスラーを挟んでの同じ指の連続ももちろんOKです。
速い曲であっても、フレーズ(アーティキュレーション)の切れ目であれば同じ指の連続も良いと思っています。
3度で「im」を連続使用していることを考えれば、自由に考えて良い筈です。

ただし、演奏のレベルや薬指「a」の器用さにより運指も変わります。
上達に応じて、運指も変えるべきだと考えています。

「p」と「a」でリセット?

多くのギター弾きにとって、メインの指は「im」だと思います。
何も考えずに全て「im」で対応したい人は多いでしょう。
しかし、「im」だけではどうにもならない場面が多々あります。

「im」だけで連続や逆指が発生するときは、「p」と「a」を挟むことで、また「i」か「m」の好きな方を使うことが出来ます。
(当たり前のことを言語化しています)

「p」と「a」はあくまでリセットの意味で使っています。
個人的には、弾けるとしても「mama」のパターンは発生させたくないです。
「imami」のように回すパターンは使います。

「p」をどこまで使うか

親指「p」をどの範囲までで使うかは人により意見が分かれます。

私は親指「p」の位置をロストするのが怖いので、あまり高音側に持っていきたくないタイプです。
(なるべく3弦以下で使用)
その分、「a」の必要性が増します。

現代のギタリストの運指を見ますと、「p」を頻繁に入れています。
やはり、「p」を入れたほうがバリエーションが広がります。
「p」の後は、「i」「m」「a」のどれでも使えます。
むしろ、頻繁に使った方が位置を見失いにくいのかもしれません。

音型で記憶する

例えば、「1:3」のアーティキュレーションで弾く音型があるとします。
この場合は、「i+ami」や「p+ami」で処理すると良いです。

3つのアーティキュレーションが出てきたら、「ami」を使うと決めておけば、音に反応して自然にその運指が出てくるようになります。

ただし、「ami」の後に「i」を使いたいパターンが多数登場します。
音型に対して1種類のパターンの記憶で乗り切れる程、甘くはないようです。

逆指の許容

逆指をどれだけ許容するかについても、人により異なります。
私は、「im」なら逆指はほとんど気にしません。
ただし、②弦①弦②弦①弦をずっと「mimi」で弾くことは避けます。

「ma」の逆指は嫌です。
最近「a」の上達が著しいため、今後は「a」の逆指も少しづつ取り入れる予定です。

ギターの角度が立っているフォームの方が、「逆指」にストレスを感じやすいです。
(人によります)
ギターの角度が立つことの意外なデメリットです。

佐々木忠氏の楽譜を読む

佐々木忠氏のリュート組曲の楽譜より、「BWV997 Double」から抜粋して運指を参照します。
この楽譜の特徴は以下の通りです。

  • 親指「p」を多用
  • 薬指「a」を自在に使う
  • 逆指はなるべく避けている(使うときもある)

アウフタクトの処理

冒頭では、アウフタクトで音符3つの箇所があります。
ここは「ami」を使うと、次の「i」で連続になるため、「iam」を使用しています。
曲の頭から、非常に参考になります。

「mimi」は逆指になるため、避けています。
そういった逆指を使っている部分もありますが、曲の入りでは特にリスクを避けているかと思います。

アルペジオ風のパッセージの処理

アルペジオ風のパッセージの処理例です。
2拍目の「pip」が重要と思います。
「i」を入れることで、親指を自然に⑥弦→⑤弦に移動させています。

親指を多用している

親指で③弦を弾いている場面です。
私は親指の移動を恐れているため、逆指を完全無視して全て「im」か、どこかで「a」を入れます。
(③弦で親指を使った後に④弦を弾くので、楽譜どおりに「p」でも良いかと思います)

定番の親指滑らせパターンから、もう1度親指を使っています。
私は滑らせると音量や音色のコントロール感が失われるのが怖いので「m pimai」「mimim p」で弾きます。

こちらも「p」を自然に使っています。
このフレーズでは、1度目は「ami」、2度目は「aim」で弾くのはアマチュアギター弾きですと混乱するかもしれません。

おまけ BWV998 Prelude

この曲でも、親指「p」を使っています。

スラーと、同一弦上でのパターン

アウフタクトの後、「i」を使用して、その後も同じ指を連続使用する点が特徴的です。
また、②弦のレドシでは「ima」を使用して、③弦に移る際の逆指を避けています。
私の場合は、アウフタクトの「ima」後は「m imim」で逆指を気にせずに弾きます。

カンパネラのアルペジオ

アルペジオの上昇音型で、親指「p」を混ぜたカンパネラが使われています。
(また、スラーを挟んでmを連続使用しています)

私は作曲家の意図していないカンパネラは綺麗ではないと思っています。
親指「p」が入るとカンパネラが強調されるので、私が弾くなら「p」を使わないで弾きます。

佐々木忠氏の楽譜では総じて「p」が自然に使われていますので、「p」の使用では緻密なコントロールにより違和感が無いようになっているのかもしれません。

こちらも「p」を効果的に使っています。

「mama」を使うこともある

下記の部分は、右手の運指が書かれていない部分は「a」と思います。
「mama」は絶対に使わない訳ではないようです。
(楽譜を見る限りでは、なるべく避けていますが)

私は「m imim」「imiami」を使います。

5音の音型

前の部分、「amima」で指を回しています。
2拍目は低音を「p」ではなく「i」で打っています。
上声部は「i」から距離があるため「a」で入っています。
(手が小さい人は特に「a」の使い方が重要)

低音弦付近の処理

途中に逆指となる「mi」を入れています。
このタイプのフレーズで重要なのは、「pppp」を使わないということです。
私なら、最後の3音は「iip」にします。
「i」の連続は取り回しが良く、便利です。

「a」を自然に使う

佐々木忠氏の楽譜を読んでいて、「im」に強くこだわる印象が無く、「a」が自然に使われます。
下記のパターンなら個人的には「aim」で良いかなと思います。
④弦で「a」は個人的には弾きにくいです。
楽譜に書かれている運指も、違和感なく指を動かしやすい運指に感じます。

F.タレガの楽譜を読む

もうちょっとだけ続きます。

F.タレガ編の「BWV1001 フーガ」の運指を見てみます。
タレガは毎回運指を書くわけではありません。
それでもこの曲には事細かに運指の記載があります。
(やはりバッハは運指が重要?)
特徴は以下のとおりです。

  • 同じ指の連続が無いことにこだわっている
    (意識高い系)
  • スラーの前後でも指の連続使用を避けている
  • 逆指はなるべく避けるが、完全に避けている訳ではない
    (「m」と「a」の逆指も登場する)
  • ロマン派特有のスラーがあり、古臭さは否めない
    (辛いけど否めない、でも離れがたい)
  • 1弦=薬指「a」のような固定を使っているかもしれない

和音の間でも極力連続を避ける

和音同士の間でも、使っていない「m」や「a」を混ぜて連続を避けています。
和音で使っていない弦に対してはプランティングとして機能するので、真似すべきです。

連続は嫌

連続が相当嫌なようで、ちょっとトリッキーな運指が付いています。

スラーが多い

ロマン派の運指として、スラーが多いです。
スラーはギターの魅力ではありますが、バロックスタイルのスラーではありません。

「m」と「a」の逆指

2拍目の②弦で弾く箇所が逆指です。
「m」と「a」の逆指がごくまれに登場します。
好んでいた訳ではないでしょうが、どうしても避けたい訳ではなさそうです。

「m」「i」にこだわっていない

「m」「i」にこだわっていない運指が付いています。

こちらもかなり「m」「a」の頻度が多いです。

この運指を見ると、①弦「a」、②弦「m」、③弦「i」のルールを常日頃から行っていたのかもしれません。

「im」の強行突破も

「m」「a」が多いと思いきや、「i」「m」で押し切る部分もあります。
このフレーズ以外は「ima」とスラーを使っています。

フォームの影響が大きい(のでは)

タレガのフォームですと、逆指はそれ程弾きにくくないのではないかと思います。
また、腕の置き方を考えると、右手のポジション移動はやりにくかったかもしれません。
そこで、①弦=薬指「a」のような固定をよく使っていたのでしょう。
(全部推測です)

右手の運指、まとめ

タレガの運指で話が逸れてしまいましたが、右手で気にする要素は以下のとおりです。

  • 薬指「a」の頻度
  • 親指「p」を上声部で使うかどうか
  • 同じ指の連続を許容するかどうか
  • 逆指の許容

この要素に対してどれを重視するか決めなければいけません。

過去の私の愚かな話をします。
「逆指ってやつが良くないらしい!」と聞いたので、右手の運指を付け直していました。
逆指の回避に加えて、親指はあまり使わず、更に同じ指の連続を避けた内容にしました。
すると、「a」「m」が頻繁に登場する到底本番では弾けない運指が完成しました。
(当時の自分は阿呆でした)

運指は正解がある訳ではなく、自分なりに弾きやすい運指を付けるのが大事と思います。

追記)
いざ自分で運指を考えようとしたところ、並々ならぬ難しさがあります。
佐々木忠氏の運指に対しても、「自分がコメント出来る部分を抜粋しているだけ」に思えます。
単なる評論家は宜しくないので、自分で何かの曲の運指を付けて、また記事を投稿します。

最後までご覧いただき、誠に有難うございました。