楽器

所有する楽器「ホセ・ヤコピ」をレビューする。

何年か前にホセ・ヤコピを購入しました。

購入後、しばらくは思い通りの調整が出来ずに放置していました。
最近になって重い腰を上げ、製作家による修理を行いました。
ホセ・ヤコピのブリッジ周りの調整をして頂きました。|クラシックギターの世界

修理が終わったことで、やっとベストな音のテンションや音色に調整が完了しました。
この記事でレビューをします。

購入の経緯

私のメインギターはホセ・ルビオです。
音質は柔らかく、その上で大変音量があるタイプなのですが、広いホールではやや拡散するタイプの音です。
そのため、コンクール等で使用するために更に音量重視の楽器を探していました。

音量のある楽器は買わなかった

とあるショップに行き相談したところ、とある音量のある楽器を紹介頂きました。
(楽器の名前は忘れました)
しかし、あまり音質が好みではなくて、やんわりと購入を断っておりました。

店主とは大変仲良くさせてもらっており、ざっくばらんに会話する仲です。

店主から「こちらは音量がある楽器で購入条件にも合っているのに、どうして購入しないのですか?」と聞かれました。
そう問われ、こちらも曖昧に断ってはいけないと思いました。
「この音色の楽器に60万円は出せません。30万円でやっと購入するかどうかを悩み始める音質です。」と伝え、改めてお断りしました。
(一般の判断基準では非常に良い楽器でしたので、30万円で売ったら大損です。)

冷静に考えてみると、私の右手のタッチでは東京国際ギターコンクールの本選やクラシカルorスペインギターコンクールの1位、2位を狙うのでなければ、音量重視の楽器は不要です。
ましてや、それらを狙えるほどの腕はそもそもありません。

尋常ならざる音質

上記のやり取りをしていた際、件のホセ・ヤコピが店頭にありました。
入荷した直後であり、非売品として置かれていました。
当初はそれに対して「すごく良い楽器ですね」と月並みな会話をしておりました。

このヤコピは「音量のあるギター探し」という目的から離れておりましたので、それ程気に止めませんでした。
また、これまで弾いてきたホセ・ヤコピという名前に対する音の印象(ステレオタイプ)が強く残っていたと思います。

同じ日の内に、店頭にあった販売価格が200万円、300万円、500万円(2本)、800万円程の楽器をそれぞれ弾かせて頂きました。
どれも素晴らしい楽器で、大変貴重な体験をさせてもらいました。

その後、もう一度ホセ・ヤコピを弾いてみると、値段が3~10倍以上するどの楽器よりも良い音質で鳴っておりました。
(もちろん、機能面では劣ります)
非売品でしたが、この機会を逃すと後悔すと思い、購入を申し出ました。
店主に「いつも良い楽器ばかり持って(買って)いくね・・・」と恨み言を言われつつも購入させて頂きました。

ホセ・ヤコピの外観

ボディサイズは標準若しくはやや小さめです。
昔はホセ・ラミレスと比較され、身体が小さい奏者はヤコピを選んだと聞きます。
写真では伝わりませんが、非常に汚い楽器です。

ヘッド周り

ホセ・ヤコピと言えばこの彫刻が施されたヘッドが特徴です。
味わいがあって良いと思います。
手元にこういった楽器が1本あるのは嬉しいです。

私の所有品は汚れており、一部が欠けたりしていて、あまり綺麗には見えません。

3弦と4弦はヘッドに当たって曲がっています。
この3弦に関するナットの調整で非常に難儀したのですが、これによりナット製作に関する知見を深めることが出来ました。

裏側です。
彫刻が無い面から見ると、くり抜かれた面積が狭いことが良く分かります。
下側の部分は面取りしてあります。(謎)

糸巻き

ほとんどのヤコピのギターに採用されている貝のツマミの糸巻きの調子が悪かったようで、購入時はルブナーの糸巻きが取り付けられていました。
ルブナーも使い心地に難があり、そこで振動が妨げられているように感じたので、私の趣味でゴトーのアルミの糸巻きに変更しました。
(軸間の変更を合わせて行ったと思います)

オリジナルが現役であればそれを尊重せざるを得ないのですが、どうせ元がダメなら好き勝手に変えてしまおうということです。

糸巻きの変更で音は良くなりました。
振動をしっかりと受け止めているように思います。
惜しむらくは「アルミのタイプでなくても良かったかも」ということです。
ヤコピはボディサイズは小さいのですが、重量はかなり重いです。
わざわざ軽量な糸巻きを選ぶ意味は無かったと思っています。

ゴトーを選んだ理由

私は糸巻きに対する高級志向は無いので、機能的にはゴトーで良いと思っています。
むしろ、10万円以上糸巻きに支払って「気持ち良さ」が無い場合、そのショックに耐えられません。
この糸巻きは機能上は何の不便もありません。
巻き始めの部分で少し遊び・摩擦を感じますが、糸巻き本体によるものなのか、軸とヘッド側の摩擦によるものかは不明です。


同じくゴトーのKO-GAシリーズと比べて巻き心地は劣るのですが、カタログ上の重量は同じです。(55.2g)
私は外見がマシなこちらを今後も使うつもりです。

ネック・ヒール

ネックの裏には傷が付いており、汚いです。
塗装もムラがあり、やや厚いです。

あまり寝かせた材を使っていないのか、若干ネックの動きを感じます。
現在の使用環境では、許容範囲の反りの変化です。

ヒールはとんがっています。
ネックとの接合部に段差がありますが、一度剥がれたのか、元々の施工なのかは不明です。

裏板・横板

製作された年代を考えると、決して良いグレードとは言えないハカランダ?が使われています。
(見た目は気にしませんが)
私がこれまで所有してきた楽器ですと、明るい色のハカランダを持っていた割合が多いです。

横板も裏板と同様なハカランダです。
バインディングの模様も泥臭さがあって良いです。

ロゼッタ

南米を思わせる雰囲気のある柄が採用されています。

ラベルは破けています。
「前の所有者が雑巾を突っ込んで拭いたから」らしいです。
中は外観以上に汚いです。
確か、1971年製と聞いています。

ブリッジ

ブリッジもハカランダが使われていると思われます。

写真では見えにくいですが、ダブルホールに改造されています。
これはやめて欲しかったですが、埋めて音が悪くなっては困るのでそのままです。

製作家の清水優一氏の手により調整され、ブリッジは大変良い状態になっています。

表面板

表面板はかなり目の詰まった材が採用されています。
赤く見えますが、塗料の色ではないでしょうか。

よくよく見てみると、ラッカー塗装特有の小さなウェザークラックがびっしりとあります。
(ラッカーでない個体もありそうです)
後述しますが、この写真は通常やってはいけない作業を行いました。

低音側は傷を埋めた形跡があります。
この部分は演奏で付いた傷ではないと思います。
この写真の中央部あたりの表面板の裏にもパッチ当てがありました。
表面板のセンターの継ぎ部分にも剥がれがあったようで、いくつもパッチが付いていました。

指板のきわの部分に塗料が溜まっています。
厚く塗りすぎです。

行った調整

このギターは当初は音がかなり鈍かったです。
(その分、耐久力もあるのですが)
そのため、極力テンションを下げるような調整を行いました。

ナット・サドルでテンションを下げる

ナット・サドルもなるべく低くして、テンションを下げる調整をしました。
ナットの3弦、4弦に関しては通常の方法よりも更にテンションを緩める工夫をしました。

ナットはギリギリの弦高を攻めすぎて音が割れるようになってしまいました。
(弦の種類を変えると音がビリつく)
そのため、ナットの底に紙を敷き再調整しました。
丁度、Povo2.0(KDDIの通信SIM)に申し込んでいたので、同梱されていた厚紙を使いました。

KDDIの通信品質の良さが、音の良さにも反映されれば良いですね。
紙を敷いたことによるネガティブさはあまり感じません。

表面板の塗装を削る

このギターはウェザークラック等の情報から塗装が厚いことが分かります。
ナット・サドルの調整だけでは音のコントロールに限界を感じていました。

そのため、表面板の塗装(主に高音側)を削ることにしました。
元からボロボロのギターでしたので、ほとんど違いは分かりません。
(真似しない方が良いです)

この塗装を削る作業は大成功でした。
タッチに対する反応やレスポンス、音の柔らかさが増しました。
やり過ぎると、低音の輪郭を損なうように思います。

ホセ・ヤコピの音

癖や躍動感がある

ヤコピ自身はスペインのバルセロナで生まれ、アルゼンチンでギター製作を行っていました。

ヤコピのギターにはスペインギター特有の癖や躍動感(生命力・野性味)があります。
音の骨格としてはスペインなのですが、音の性質はアルゼンチンや中南米の楽器を思わせます。
スペインとアルゼンチンがこのバランスで融合している楽器を私はヤコピしか知りません。
(この音を聴いても「ヤコピ!」としか思わないので、私はすぐにはスペインもアルゼンチンも浮かびません)
鳴りきっていない際は、鳴らしにくいフレタやルビオのような手応えです。

また、力木の配置が通常の向きと上下反対になっています。
この配置も独特の音色に貢献しているのかもしれません。

私が所有しているこの個体に関しては、かなり音量があります。
躍動感のある鳴り方をするので、実際より大きく聴こえる印象です。
ラッカー塗装の音量が大きい楽器の鳴り方もします。

太く芯のある琥珀色の高音

高音は、芯が太い琥珀色の音色です。
艶消しの陶器のような温かみを持っています。
プロアルテの弦が持っているようなザラつきを更に強化したような音色に感じます。
柔らかいタイプの中南米の銘器と違い、強烈な芯があります。

楽器が眠っている内は閉じた(締まった)音ですが、鳴ってくると極太の豊かな音に変化します。
良くイメージされるギターの高音の魅力そのものに近い音色です。

ドムン!と鳴るサステインの長い低音

低音は重く太い音で存在感があります。
太鼓のようにドムン!と鳴るのですが、何故かサステインは長いです。
弱く弾いても存在感があるので、曲の中で非常に使いやすいです。
(古典曲の低音の連続等にも合います)
音の輪郭やエッジも効いています。

高音との違いも大きく、演奏の中で立体感が際立ちます。

クラシック曲もスパニッシュな曲も弾ける

ヤコピは楽器のバランスとしては癖がありますが、非常に品のある音色を持っています。
そのため、スペインの楽曲から古典の曲まで幅広いレパートリーに対応します。

松田晃演氏の演奏するトーレスのような、ギター本来の音色を感じる楽器です。
(トーレスは軽やか、ヤコピは重く鈍いですが)

右手も左手も労力は必要

ヤコピは剛性と良く分からない鈍さを持っています。
そのため、右手も左手もコントロールにはやや苦労します。

右手に関しては、ピアニシモでの音量のコントロールが難しいです。
厚めのラッカー塗装特有の特徴かもしれません。
(メゾフォルテ以上は問題なし)

右手以上に、左手に弾きにくさがあります。
剛性の高いドイツ系の楽器以上に入力量が必要です。
また、指先に返ってくる弦の情報にも雑味があります。

ホセ・ヤコピのレビューまとめ

音色や弾き心地に癖はありますが、非常にギターらしい音色持っているのが今回のヤコピです。

個体差は大きく、このヤコピ以上の個体をお目にかかったことはありません。
しかし、輸入されていた当時は相当の数が出回っていたことと思います。
新作で売られていた時代からすると、この楽器もさほど珍しいレベルではないかもしれません。
(良い時代ですね)

ギタリスト長谷川郁夫氏のブログに、私の記事よりも客観的で精度の高い情報が乗っております。
是非御覧ください。
ギタリスト長谷川郁夫 ホセ・ヤコピ 1968年

最後までご覧頂き、誠に有難うございました。