楽器

ショートスケールのクラシックギター(640mm、635mm、630mm以下)の特徴をまとめる。

この記事では650mm以下の弦長を持つ、
いわゆるショートスケールと呼ばれるクラシックギター
音質や操作性の特徴(メリット、デメリット)をまとめます。
また、ショートスケールでおすすめの製作家も載せています。

操作性について

指板上の長さ(フレット間隔)

ショートスケールは弦長を短くしているので、
フレット同士の間隔が短くなり、弾きやすくなる
と思われています。

例として楽曲の中で良く登場する指の開き
6弦3フレットのGと1弦7フレットBの押さえで考えてみます。
650mmのギターなら、フレット間の距離は112.7mmです。
(0~7フレットのまで長さー0~3フレットまでの長さ)
弦長が1cm短くなる毎に
実用上の長さで約1.7mm短くなります。
その他の押さえでもせいぜい2~3mmの差で
この違いは微々たるもの
です。
鶴田誠氏のクレーンホームページ「TSULTRA FRET」を参照しました。

フレット間隔が狭くなることを期待してショートスケールを選ぶなら、
630mm以下を選ぶべきと思います。
(1cm短くなったとしても、演奏の中で影響があるのは約1.7mm)
クラシックギターは西欧で生まれているので、欧米人向けのサイズと思いますが
日本人でも大柄な方は655mm~のギターが弾きやすいと聞きます。
私の手は女性の平均値と同じ位ですが、650mmは長いと感じます。
(普段、660mmのギターを使っていますが)
平均男性の手のサイズがあるのなら、標準サイズで良さそうです。
(ピアノで言うところの9度、オクターブ+1度が届く位)
以下は私の個人的な意見による適正サイズ表です。

大柄な男性 弦長655~664mm
平均的な男性、大柄な女性 弦長650mm
小柄な男性、平均的な女性 弦長630~645mm
小柄な女性 弦長620mm以下

テンション

1cm弦長を短くするごとに弦のテンションは3%落ちます。
弦のテンションを1つ落とすのと同じような変化です。
(ハードテンション→ノーマルテンション)
注意すべき点は、
物理的に周波数が同じであっても音質の面では同じにならない
ということです。

コントラバスやチェロを例にすると、
弦の直径(太さ)を大きくするなら、
あのような長い弦長は計算上は必要ありません。
ただ、弦長を短くして弦を太くすると
音のヌケが悪くなり、鈍い音になります。

テンション低下による弾きやすさの違いは非常に大きいです。
1cm変わるだけでも、張りが弱くなり弾きやすくなります。
手が大きい方でも、テンションの低さを求めるなら
ショートスケールは有効です。

ショートスケールのギターは音量が小さいと言われておりますが、
弦のテンションが低くなることによる押し込みやすさを考慮するなら
音量に対してそれ程大きな影響は無いのではと考えています。
但し、基本を身に付けたタッチが出来ていることが前提です。
弦に指をぶつけたり、引っ掻いたりするような弾き方では
ショートスケールで音量を出すことは難しいと思います。

ボディサイズ

弦長が640mm位までですと、650mmと同じ
ボディサイズの場合が多いと思います。
それ以下の弦長ですと、長さに応じてボディサイズは小さくなっていきます。
弦楽器でヴァイオリンは小さく、チェロが大きいのと同じ理屈です。
しかし、音程が同じなのに楽器が小さくなっていくことを理論的に説明出来ません。
分かり次第追記します。

ギターはボディの形状・サイズ毎に型を作っているので、
製作する台数が少ないのに、サイズ毎に違った種類の型を作るのは手間です。
そもそも小さいボディの型を作っていない製作家も多いと思います。
650mm向けの型しか作っていない方が630mm以下の楽器を作ると
「楽器が鳴らない」ことが良くあります。
弦長の短い楽器を作るなら、
ショートスケールで評判の良い製作家に注文しましょう。

音の違い

640mm程度ですと標準サイズと大きくは違いませんが、
私がこれまでに弾いた620mm位のギターと
標準サイズのギターを比べると
ショートスケールの音は19世紀ギターに近づいていくように思います。

音量

弦長が短くなるとテンションが下がる分音量が小さくなる
と言われています。
しかし、きちんと作られたショートスケールの楽器であれば、
音量が小さくなっても音の抜け、通りの良さは増すので、
トータルして比較した演奏への効果は変わらないと思います。

逆に言えば、ショートスケールの楽器で抜けが悪いものは
ただ音量が無いだけになってしまいます。

音色

弦長が長ければ柔らかいゆったりとした太い音
弦長が短ければ粒立ちの良いはっきりした音
になる傾向があります。

弦長が短い場合はテンションが低く左手で音色を作りやすいので
技術的な操作によって柔らかい音を出すのも容易です。
ビブラートをかけやすく、音色に意志を反映させやすくなります。

音程の問題

長所と表裏一体なのですが、
ショートスケールの楽器は演奏時に音程が悪くなりやすい傾向があります。
「ビブラートをかけやすい」ということは
僅かな左手の乱れにも楽器が反応してしまいます。
脱力して弦を押さえていればOKです。

ウルフトーンの位置も変わる

ヘルムホルツ共鳴の式という公式があり、
ボディサイズの変更によりギターの容積が変わると
ウルフトーンの位置や鳴り方のバランスが変わります。
もしかすると、ウルフトーンが開放弦と被ることもあるかもしれません。
19世紀ギターは各弦の違いがかなり大きく、
ショートスケールの楽器もその要素が強くなります。

セゴビア以降のモダンギターのバランスが完璧と思っている方には
この変化は耐えられないと思います。

ショートスケールのおすすめの製作家

加納木魂

名古屋の製作家、加納木魂氏はショートスケール製作の達人で
600mm程度の弦長のギターまで製作しています。
シルキーでステージで良く存在感を発揮する音です。
かなり短い弦長を求める方は加納木魂氏の楽器が良いでしょう。

松井邦義

大人気の製作家で説明不要ですが、
松井邦義氏のショートスケールも定評があります。
粒立ちの良い明瞭な音で気品があります。
635mmで新作が作られていますので、
実物を確認して購入出来るのもメリットです。

栗山大輔

栗山大輔氏はドミンゴ・エステソモデルで小ぶりな
620mmのギターを製作しており、
これが非常に良かったです。
(金 庸太先生のギターを触らせてもらいました)
私は、自分自身を含めて一般的なアマチュアのプレイヤーには
「モダンギターの能力を完全に使い切るのは難しい」と思っていますので、
トーレス(レオナ)より小さいファンブレーシングのギターは
もっと普及して欲しいと思っています。
(ダブルトップと小型トーレスorエステソモデルが
店頭で併売される時代が来て欲しいです)

19世紀ギターを作っている製作家

個人で楽しんで演奏出来ればそれで良いという方なら
思い切って19世紀ギターのレプリカモデルを買った方が
演奏を楽しめると思います。

19世紀ギターはモダンギターよりも個体差が大きいので、
弾いて「つまらない」「モダンギターとの違いが分からない」と
思うような楽器は絶対に買わないで下さい。
面白いと思う楽器に2~3本出逢えば、
自分の中に基準が出来てくるでしょう。(我慢も大事)

私の意見

上記の内容を振り返って、
私はショートスケールの楽器に肯定的です。
本来、640~645mmが標準で良いと思っています。

しかし、
わざわざショートスケールで製作家にオーダーしたり、
ショートスケールに絞って楽器を探す
ことはやめようと思っています。
(欲望を我慢)

私は手が小さいので、一度だけ大変有名な製作家の
かなり珍しい640mmを使ったことがありますが、
「650mmの個体の方が良い音のものが選べた」と気がついて
手放してしまいました。

「650mmの方が良い」ではなく、
「650mmの方が沢山楽器があって良いものが選べる」
ということです。
ショートスケールは左利き用のギターを買うのと似ていて、
今後の選択肢が狭まります。

モダンギターでショートスケールでなければいけない方は
小柄な女性の方(手の大きさが身長換算で150cm以下)くらい
ではないでしょうか。

ギター以外もそうですが、
実物を触らずにカタログスペック(弦長)ばかり気にしていると
もっと大事な部分を見ずに商品を買ってしまうので
気を付けたいところです。

今回の記事は以上となります。

最後までご覧頂き、誠に有難うございました。