演奏者

2020年に逝去したジュリアン・ブリームの演奏をYoutubeからまとめる。

2020年8月14日、クラシックギターの巨匠ジュリアン・ブリーム氏が逝去されました。

大学生の頃、私が始めてギターを聴いて感動し、最も多くの録音を聴き、
影響を受けたのがジュリアン・ブリームでした。
当時の私は今よりも更に愚かで、
何故他の演奏家はジュリアン・ブリームのように弾かないのだろう
ブリームみたいに弾いてくれたらもっと聴くのに
と思っていました。

私がブリームから受けた影響は、
ジュリアン・ブリームのような音色の変化やテンポの揺らし方そのものではなく、
ブリームの演奏のような感動をどうやって自分の演奏により起こせるか
をギターを始めてから10年以上ずっと意識しています。

ジュリアン・ブリームについて
薀蓄はネット上に沢山ありますので、
私が思うジュリアン・ブリームの印象とお気に入りの演奏をまとめます。

ジュリアン・ブリームの印象

とにかく録音が素晴らしい

私は、ジュリアン・ブリームの演奏を生で聴いていません。
コンサートでは驚くような内容のミスをした、というエピソードも聞きます。
しかし、そんなことはどうでも良いのです。
どのCDでも素晴らしい演奏を聴くことが出来ます。
本当にどの録音も水準が高いので、ブリームは後世への影響力を理解していて
演奏家として高い意識があったのではと伺えます。
お手本にすべき姿勢です。

とにかく感動する

ブリームは薬指aの爪の質が良くなく、
音色を単独で切り取るとその質は決して高くないとも聴きます。
しかし、そんなことはどうでも良いのです。
エネルギーに満ちあふれていて、伝えたいことが明確であり、とにかく感動します。

現代ギターか、ネット上の記事かで書かれていたと思うのですが、
彼と同じレベルで人の心を動かすギター奏者はまだ現れていない
と言うのは大げさではないかもしれません

清楚でクラシカル

あれだけ情熱的でありながら、
クラシック音楽の演奏であるという芯が全くぶれておりません。
攻めているのに、高貴さ・清潔さは失われていないのです。

F.タレガのラグリマ等、曲によっては
過剰な装飾を配した清楚な面持ちでありながら、
楽曲が持つ表情は表現し尽くしています。
(悪い例としてありがちなアルペジオ[メロディがンター、ンター、ンターになる]
もかかっていません)

多彩な音色

ブリームを知っている方ならすぐにイメージ出来ると思いますが、
多彩な音色により曲の魅力を表現しています。
今ブリームの演奏を聴き直して思うことは、
あれだけ多彩でありながら、曲が求める範囲の音色から逸脱していない、
やり過ぎていないということです。
あくまで品は保っています。

楽器選びも素晴らしく、それぞれの個性を完璧に引き出しています。
音が持つザラつきや艶はギターが持つ一番の魅力です。

ポリフォニックである

冷静に聴くと、ブリームの演奏はポリフォニーが完璧に表現されています。
一見、感情的でありながらも、音楽は作り込まれていることが読み取れます。
こういった部分も、クラシック音楽という軸を感じさせる一面です。
ブリームが拘った細部まで耳を凝らしてみましょう。

楽曲の編曲が巧みである

ブリームは賛否が分かれる編曲を沢山行っていますが、
演奏効果の高いものが多く、非常に巧みであると言えます。
ブリームの変更は即興性とそれによるライブ感を生んでおり、
作曲家が生きていればそういった変更はあり得ただろうという説得力があります。
次に何が来るのだろうとワクワクしてしまいますし、
比べると、現代の演奏家は原曲の楽譜にこだわり過ぎ、
悪く言えば受け身に感じてしまいます。
(批判の多い現代なので、仕方ないんですが)

クラシックギターにとって、まだ開拓の時代だったと思うのですが、
バロックの編曲等、音楽と深く向き合っていたことが分かります。

個人的な名演奏

一般的な演奏家であれば気に入る演奏はごく一部なのですが、
ブリームの録音は惹きつけるものばかりです。
ですので、紹介する演奏はこれが特別に良いというわけではなく、
良いものが沢山ある中で私が良く聴いた演奏と捉えて下さい。

ショーロスNo.1(H.ヴィラ=ロボス)

私が始めてギターを聴いて惹きつけられたのが
ブリームの弾くショーロスNo.1でした。
私は音楽経験ゼロから楽器を始めたので、
クラシック音楽色の強くないこの曲は自然に耳に入ってきて
十二分にクラシックギターの魅力を伝えてくれました。
ポルタメントや間のとり方等、この演奏でブリームに魅せられた方は多いと思います。

ガボット・ショーロ(H.ヴィラ=ロボス)

同じH.ヴィラ・ロボスであれば、映画「マチネの終わりに」でも使われた
ガボット・ショーロも素晴らしい演奏です。
映画で流れたガボット・ショーロは少しふらふらしていましたが、
ブリームの演奏は芯と美しさ・儚さを同時に感じさせます。
様々なジャンルの音楽を演奏したブリームだからこそ、
クラシック音楽でありながら世俗的な面もあるこの曲も高貴な世界を作っています。
単なる「明るい、暗い」に留まらない長調、短調の表現が素敵です。

セビリア(I.アルベニス)

メロディの弾き方はブリームの間違いですが、
それでも私はこの演奏の価値は揺るがないと思っています。
ブリームのように弾きたくて、色々とこねくり回していたら
リズムがぐでんぐでんになり、レッスンでぼこぼこに注意されたのは良い思い出です。
この演奏でこの曲を弾きたいと思った方も多いでしょうし、
クラシックギターの魅力を十二分に伝えていますから、
この曲が動画として残っていて本当に良かったと思います。
(ブリームは意図的に残していると思いますが)

序奏とロンド(D.アグアド)

F.ソルと同時代の作曲家、D.アグアドの序奏とロンドです。
カメラワークに悪意(指を映さず、顔だけ映す)があり、
ブリームが如何に顔で演奏しているかが伝わってきます。
意外な和音に移る際のブリームの表情(2:47~)が最高です。
ブリームの表情から楽曲の意図を読み取れますので、こういった演奏で
「古典の曲がどういったものか」を学ぶことが出来ます。
(音に合わせて弾いているのかもしれませんが)

フロッグ・ガリアルド(J.ダウランド)

ブリームのリュート演奏なら、この曲を良く聴きましたし、私自身も弾きました。
「リュートは聴いたことが無いけれど、親しみやすい曲はどれか」という場合は
これがおすすめです。
軽快で優しく、気品があります。
散々聴いた方も、ブリームを偲んでまたぜひ聴いてみましょう。
「ホセ・ルビオの音」「リュートの音色」「ブリームらしさ」が混ざっていますね。

グランソロ(F.ソル)

同じく古典であればM.ジュリアーニの大序曲も良いですが、
このグランソロ(F.ソル)も非常に魅力的です。
Youtubeの録音は途中で終わっています。
学生時代、ブリームのグランソロが入ったCDを必死に探しましたが、
中々手に入らなかった記憶があります。(HMVで入手)
古典の曲がまとまったCDは超名盤で、
Youtubeと音質も段違い(密度が高く、音が重い)です。
色々と音を変更して曲を弾いていますが、
演奏効果が高く、真似してみたいと思わせます。

私もグランソロを弾いて色々やったつもりでいましたが、
久々にブリームの録音を聴くと、彼がやっていることの2割位しか出来ていません。

ドビュッシー讃歌(M.デ・ファリャ)

ブリームの演奏を聴いていて思うのですが、
ギターの弦を弾いているというよりは
音楽そのものに触れてコントロールしているように感じます。
音楽とブリームの間に楽器の存在を感じないのです。
この曲は特にそれが分かりやすく、
ブリームの意思が楽器を通じてロスなく現れています。
(私自身、何を言っているか分かりません)
暗く、一般のリスナーには分かりにくい曲かもしれませんが、
ブリームの演奏なら楽曲の意図がはっきり伝わってきます。

詩的ワルツ(E.グラナドス)

こちらは、youtubeでもCDと比べて比較的音質は良いかと思います。
原曲のピアノでの演奏を超えていないでしょうか。
和音の中の1音ずつまで音色をコントロールし、歌わせているように感じます。
この曲は(も)どうやってもブリームの演奏を超えられないので、弾く気にもなれません。
アルベニスのセビリアと並んで、ギターの魅力を詰め込んだ演奏です。

 

今回の記事は以上となります。

ブリームはクラシックギターの魅力を表現しきった演奏家で、
唯一無二の存在であることを再認識しました。
初めてギターの録音を聴く方は、セゴビアでなくブリームを是非聴いてほしいです。
(良い録音に当たる確率の問題)

最後までご覧いただき、誠に有難うございました。