イベント

第62回東京国際ギターコンクールを観戦しました。

毎年12月の初めに開催される東京国際ギターコンクールを観戦してきました。
今年はとてもレベルが高く、心底楽しめました。
時間が空いてしまいましたが、感想や私が思った順位を書きます。

会場

開場は例年と同じハクジュホールです。

コンクールの結果

下記の表の通りの順位になりました。
個性的な奏者が揃っていたので、特徴をまとめています。
私の予想は、名前の後ろに括弧で表示しております。
実際の順位と比べて1位と2位、3位と4位、5位と6位がそれぞれ入れ替わってます。

順位 名前 特徴
1位 Ji Hyung Park (2位) 存在感
迫力
表情の幅
音色が良い
2位 Gian Marco Ciampa (1位) 生命力、活力
表情の幅
緻密さ
3位 Damiano Pisanello (4位) 冷静
音質が良い
4位 Carlo Curatolo (3位) 真面目
作り込まれた表現
確実なコントロール
5位 Pietro Locatto (6位) 迫力
歌いまわし
6位 Carlotta Dalia (5位) アグレッシブ

以下、審査の結果(点数)です。

演奏者と曲ごとの感想

演奏順に演奏者と曲の感想を書きます。
順位を間違えた理由(言い訳)も合わせて書いております。

Gian Marco Ciampa (2位、個人的予想1位)

音色の使い分けや集中力、和声的な弾き方が素晴らしい演奏でした。
派手ですが、非常に繊細なことをしているのが良く分かり、勉強になりました。
「ここまでやるんだ」と思いましたし、聴く側がどれくらい汲み取れるかも試されているように感じました。
また、トップバッターで良くここまで世界観を作ったと思います。
技術的にも満点に近く、難曲を並べても傷が見えません。
音楽の流れを止めるようなミスはほとんど無かったです。

本人は演奏を終えた後非常に満足げでしたので、2位は残念でしたが、また来年出場してくれるなら私はとても嬉しいです。

ギターはイタリアのレオナルド・デ・グレゴリオだったと思います。
すこしドライな音色ですが、余計な埋め合わせが無いことにより音楽的な表情は分かりやすいと思いました。

スクリャービンの主題による変奏曲/A.タンスマン

主題の後の第一変奏はアゴーギクの硬さがごく僅かありましたが、その後は良く歌っていて表情も多彩でした。
変奏の弾き分けが明確に出来ており、メッセージが伝わってきました。

序奏とカプリス/J.レゴンディ

予選は粗雑さ、乱暴さがあったと他の方から聞いていましたが、この曲は歯切れ良く正確性の高い攻めでした。

グリッサンドが絡む速いパッセージは良く聴き取れなかったため、その部分に合わせて速度を落とした方が良いと思いましたが、それだけ彼が限界までアクセルを踏んでヴィルトォーゾ性を発揮した証明でもあると思います。
思わず拍手したくなりました。

課題曲

日本を代表するアコーディオニストであるCoba氏がギターのために書き下ろした「Return to O」が課題曲でした。
聴きやすい曲で「孤立した中での存在感」「荒野に佇む」ような印象を受けました。
(初見なので正しくないと思います)

初めて聴く曲でしたが、存分に魅力を伝えてくれる演奏でした。
ラスゲアードやプルガールの弾き分けが素晴らしかったです。
帰ってすぐに真似したいと思いました。

課題曲の中では一番好みの演奏でした。

ファンタジー7番/J.ダウランド

和音でアルペジオになるのは少々ギター訛りな気がしました。
いくつか声部が聴き取れない部分がありましたが、そういった部分以外はポリフォニーが明瞭でした。

彼の他の曲の演奏に比べると「完璧」と言える程マッチしていないと感じてしまいました。

パーカッション・スタディ第1番/A.カンペラ

ごくごく僅かなミスはありましたが、素晴らしい完成度と迫力で弾ききっていました。
生命力と高揚感に満ちており、彼の演奏の特徴が現れているようでした。

Carlotta Dalia (6位、個人的予想5位)

アロハシャツ的な服装がクールでした。
美音を活かしたアグレッシブな演奏が特徴だと思います。
その分、他の奏者に比べて粗が目立つ気がしました。

楽器はイタリアのアンドレア・タッキのコクレアモデルを使用と思います。
タッキはどれも素晴らしいのですが、個体差がある楽器と捉えています。
柔らかすぎる個体も見たことがありますが、今回の楽器も柔らかいのではと感じました。

具体的には「弱音がこもりやすく、音量を出すと飽和しやすい」印象です。
音色の子音はレオナルド・デ・グレゴリオと比べて魅力的な楽器でした。

涙の讃歌 D711/F.シューベルト(メルツ編)

分かりやすい曲だと思うのですが、今回の演奏ではあまり掴めなかったです。
これからエンジンがかかるのだと思って聴いていました。

課題曲

和音の間のスケールがはっきりと聞こえず、1番手のジャン・マルコ・チャンパに比べて置きに行っているように聴こえてしまいました。
本人の技量もありますが、楽器のせいもあると思います。

悲歌/L.ブローウェル

この方らしさの感じ取れる演奏だったと思いますが、コンクール向きでは無いと感じました。
いくつか曲の流れに影響するミスもありました。

BWV1004シャコンヌ/J.S.バッハ

ギターの音を活かした良い演奏だったのですが、ポリフォニーの表現を順番が前のジャン・マルコ・チャンパと比べて物足りなく感じてしまいました。

副付点の使用等、演奏に工夫はあるのですが、あまり時代ごとの違いを感じにくかったです。

Pietro Locatto (5位、個人的予想6位)

本来は迫力と歌心が売りの奏者なのですが、楽器の鳴りが今ひとつで良さをあまり感じ取れませんでした。
テクニックも十分で、難しいことをしているのですが、それが音に現れません。
「音に反映しきれていないが動きとして成立していること」を私は評価出来なかったので、難しいことをしていても私は6位と思ってしまいました。

始めの曲間で右手の爪を気にしており、その後の曲間では左手の力みを取ろうとストレッチしていたので、調子も悪かったのだと思います。

楽器は以前このブログにも書いたルイジ・ロカットだと思います。
特別良い楽器を渡しているだろうと思っていましたが、今回の演奏ではそれは感じられませんでした。
もしかしたら、コンクール前の弾きこみで少しヘタっているのかもしれません。
低音が軽く、高音も密度がありません。

伝統的な楽器の良さは「音量は大きくないが音が近いこと」と思うのですが、それが感じられませんでした。

課題曲

課題曲のスケールにミスが多く、流れが滞ってしまったのが残念でした。
課題曲の出来は一番悪かったように思います。

エレジー/J.K.メルツ

変化もついており、充分に弾けているのですが、メッセージあまり伝わってきません。
音が遠くに行き、そういう表現かと思いきや、音量が大きくなっても中々帰ってこない印象でした。

バレンシア組曲/V.アセンシオ

この奏者にマッチしていた曲に思います。
技術的なアピール度も高かったです。

ゴヤによる24の狂詩曲よりNo.18「理性の眠りは怪物を産む」/M.C.テデスコ

この奏者の曲の中で一番良い演奏だったと思います。
母国の作曲家の曲を弾くことによる相性の良さを感じました。

あまり鳴っていない楽器を鳴らそうとしていることもあってか、和音はフォルテッシモが並ぶだけのように聴こえてしまいました。
人によっては迫力に感動したかもしれません。

BWV914トッカータ/J.S.バッハ

大きめの音量で始まったのですが、今までの曲を聴いた傾向から、それを維持するのは無理と分かっていました。
案の定、曲が進むと冒頭程のエネルギーは無くなり、設計不足と思います。

低音の存在感や伸びが無いためポリフォリーが繋がりにくい、分かりにくいと感じました。
高い技術で難曲を弾きこなしているのは伝わるのですが、リスナーとの意思疎通が取れていません。

Damiano Pisanello (3位、個人的予想4位)

前の3人と比べると冷静に音楽を作るタイプで、その中でも攻めるところは攻める印象でした。
「お!ぜんぜん違う個性だ!」と思って楽しくなりました。
アマチュアプレイヤーとしては見習いたいスタイルです。
流れに影響する大きなミスもほとんど無かったです。

楽器はフレドリッシュの杉と思います。
非常に聴き取りやすい音色でした。
ただ、アルヴァロ・ピエッリの音のイメージがあるので、それと私は比べてしまい変化の幅が物足りなかったです。

ファンタジア/G.ホウェット

始めて聴く曲ですが、ダウランドにバロック趣味を少し加えた印象の曲でした。
(全然違うかもしれません)

あまり大きく音色を変えない演奏(意図的に)だったのですが、この曲にはマッチしていて魅力が充分伝わりました。

課題曲

流石フレドリッシュで、2番目3番目の奏者に比べて非常に聴きやすいと思いました。
スケールで大きく不満を感じることはありません。

マルコと比べると表情に欠けますが、そつなくまとめている印象でした。
曲の終わりは、他の奏者と異なり充分時間を取っていました。

序奏とカプリス/G.レゴンディ

マルコに比べるとどうしても流れがちに感じてしまうのですが、良い演奏でした。
この曲の後はどうしても拍手したくなります。

ソナタ第3番/ボグダノヴィッチ

レゴンディよりも更に攻めた演奏になった印象がありました。
他の奏者もそうですが、終曲に現代曲を持ってくるところが日本人とは感性が違う気がします。

Carlo Curatolo (4位、個人的予想3位)

一言で言うと真面目で丁寧な音楽で、音楽的な彫りも深いです。
4番目の方が冷静なタイプだったので、最初は似たタイプかと思ったのですが、また違う個性でした。
安易にアクセルを踏むことが殆どないのですが、伝えたいメッセージははっきりと主張しています。
本選出場者の中でもっとも好きなタイプかもしれません。
ドライブ感は強くないのですが、マルコと同じかそれ以上の緻密さを感じました。

調弦も充分時間を取っていて、全音変えた場合は長めに弦を引っ張って安定させていました。
演奏前にも深呼吸なのか集中なのか、観客が静かになるのを待つ時間がありました。
これだけ待たせてつまらなかったら、と思いましたが、待った分の価値があるものを聴かせてくれます。
演奏以外のところにも人柄がにじみ出ています。

楽器はダブルトップの杉と思われます。ラティスかもしれません。
アームレストが付いており、艶消しの塗装でした。
普通、こういった楽器は「遠くで大きな音が鳴っている」と感じるのですが、今回はあまりそういったことは思いませんでした。
演奏においてもダブルトップ的な音の表現とは感じませんでした。

森に夢見る/A.バリオス

押す表現は最小限で、長い音でしっかり時間を取る演奏です。
表情は非常に豊かですが、トレモロ曲ですのでこの時点では彼の個性を正確に把握することは出来ませんでした。

課題曲

良く設計されていて、表情豊かでミスがありません。
矢継ぎ早に繋ぎたくなる部分でも、長い音でしっかり時間を取っていました。
(これは好みが分かれそうです)
マルコと同じくらい良い演奏でした。

南のソナチネより第2楽章、第3楽章/M.M.ポンセ

定番曲であり、ポンセの中でも粗雑に弾かれがちな曲というイメージなのですが、今回は全く違いました。
2楽章が始まったとき、聴き慣れている曲の筈なのに、A・ホセの曲を思わせる重厚感がありました。
2楽章は音を抑えて3楽章との対比を活かす設計が見えます。
3楽章も迫力がありながら明瞭(余計な成分がない)印象で、この曲の良さをここまで感じたのは始めての体験でした。

ソナタ K213/D.スカルラッティ

これまでの曲の印象から、この曲も大きく外すことはないと予想できました。
期待を裏切らない良く練られた演奏でした。

ソナタOp.77より第4楽章/M.C.テデスコ

他の曲もそうですが、ほとんどミスがありません。
最初程の生真面目さは感じなくなり、音楽にも波が産まれてきたように思います。
楽曲の時代ごとの弾き分けも良く出来ていて、それがかえって彼の音楽への真摯な姿勢と

Ji Hyung Park (1位、個人的予想2位)

バッハから始まり、冒頭の和音から「我ここにあり!」という存在感を感じます。
抜群に音色が良く、1曲目では彼が1位だろうと思いました。
音量が大きいだけでなく、縦にも横にも埋もれません。
迫力がありながらも、知的さを失わない演奏です。

楽器が何であるかは非常に気になります。
伝統的なモデルを現代の製作家が作ったように感じました。
どんな楽器であっても普通は何かしら欠点を見つけてしまうものですが、少なくとも、彼が使う分にはそういったことは全く感じませんでした。
(恐らく私が弾きこなせるタイプではないと思います)

追記

使用している楽器はドイツの制作家「ゲルノット・ワグナー」によるダブルトップでした。
表面板がスプルース、内部に貼っているハニカム状のシートがシダーのようです。
流石に伝統的な楽器ではあの音量は出ません。
私がギター的だと感じたのは、スプルースらしさを音に感じたからだと思います。
まだまだ耳が未熟です。

BWV826 パルティータ第2番よりシンフォニア/J.S.バッハ

ロカットはただ単に弾けている印象でしたが、こちらは難しいことを音楽的に示していました。
とにかく音色が良いです。
松の楽器の密度が高い音とはこういうものだと思いました。

ちなみに、本番の演奏も素晴らしかったのですが、休憩時間にステージで弾いている時はもっと高いレベルで声部の弾き分けが出来ていました。
複数の楽器で弾いているように聴こえます。

私の耳が追いつかなかっただけかもしれないのですが、テンポが速すぎて少しだけ弾き飛ばし感じる部分もありました。

イベリアよりエル・プエルト/I.アルベニス(Javier Riba編)

アルベニスの最高傑作とも呼ばれるイベリアのギター編です。
美音でキレも良く、横の繋がりも全て聴こえます。
濃密な表現を聴けました。

課題曲

表情、迫力ともに申し分無かったです。
和音の弾き分けが明瞭だったのはマルコとこちらの奏者でした。
細かい部分の完成度はマルコの方が上と思いました。

エキノクス/武満徹

濃密な演奏でしたが、武満らしさとは少し離れている気がして、私は捉えきれませんでした。

ベッリーニのカプレーティとモンテッキの主題による変奏曲

レゴンディのこの曲は冗長な印象があり、これ程の名手が弾いてもその印象は拭えなかったです。
しかし、これまでこの曲を聴いた印象とは異なる要素を伝えてくれる素晴らしい演奏でした。
全体を通じて細かいミスは結構ありましたが、流れに響くミスはあまりありません。

まとめ

6番目のパクは1番目のマルコと甲乙付けがたい演奏です。
2人の演奏順が離れているので、尚更優劣は付けにくいと思いました。
結果はパク・ジヒョンが1位、マルコは2位でした。
それぞれ以下の特徴を感じました。

ジャン・マルコ・チャンパ

  • 生命力、活力のある音楽
  • 表情の緻密さ
  • ミスの少なさ
  • 安定感のあるドライブ

パク・ジヒョン

  • 迫力と存在感
  • 音色と音量
  • 表情の大きさ
  • 時代ごとの弾き分け

過去の東京国際ギターコンクールは、出場者全員が迫力重視のタイプで途中で飽きてしまった年もありました。
今年は全員のスタイルが違っていて、心から楽しめました。

特に、1位、2位、4位だった方は是非ともコンサートを聴きたいと思う魅力的な演奏でした。
3位のダミアノはフレドリッシュの音色も良かったのですが、1位、2位、4位の3名に比べるともっと表現を詰められると思ってしまいました。
他の順位は納得していますが、カルロが3位でなく4位なのはちょっと不満です。

3,000円でこれらの演奏が聴けたというのは、とても嬉しい体験でした。
来年も都合が合えば聴きに行こうと思います。

最後までご覧頂き、誠に有難うございました。