演奏者

ギターの神様、アンドレス・セゴビアをyoutubeで聴く。

ギターの神様とまで讃えられ、絶対的な存在出会ったアンドレス・セゴビア。

セゴビアの登場まで、ギターはスペインの民族楽器、酒場の歌の伴奏に使う楽器と認識されていましたが、彼はクラシック音楽を演奏する楽器としてのギターの魅力を多くの人に伝え、地位向上に努めました。
その素晴らしい演奏により同時代を活きた音楽家達を魅了し、数多くの作曲家がセゴビアのために楽曲を提供しています。

しかし、セゴビアの演奏は「テンポを大きく揺らす、酔っ払ったような弾き方」という批判を聴くこともあります。

セゴビアが本当はどのような演奏家だったのか、youtubeの動画を交えて紐解いていきます。

セゴビアの略歴

アンドレス・セゴビアは1893年2月21日にスペインのリナレスで生まれました。
ピアノやチェロを習う傍ら、独学に近いかたちでクラシックギターを学び、1909年にグラナダで演奏活動を開始します。
1929年には初めての日本ツアーを行っています。
ギターのコンサート楽器としての地位を確固たるものとすべく活躍し、彼の演奏に魅了された多くの作曲家達が彼のために作曲しました。
90歳となる1983年には米国及び日本でツアーを行っており、1987年に無くなっています。

1976年の演奏(The Song of the Guitarより)


ドキュメンタリー「The Song of Guitar」からの映像です。
セゴビアは当時84歳で、以下の曲を弾いています。

  1. カタロニア奇想曲/I.アルベニス
  2. ゴヤのマハ/E.グラナドス
  3. 朱色の塔/I.アルベニス
  4. ソナタ/D.スカルラッティ
  5. メヌエット/J.P.ラモー
  6. メヌエット/F.ソル
  7. バレットとアレグレット/M.M.ポンセ
  8. ガボットI&Ⅱ/J.S.バッハ
  9. アストリアス/I.アルベニス
  10. 聖母の御子/カタロニア民謡

演奏の特徴

①存在感のある音色、ビブラート

腕の重みをうまく使った甘く太い音色は抜群の存在感を持っています。この積極的に右手を動かしていく使い方は、安定を重視した現代の奏法(大きなアクションを極力減らす)とは異なります。
しかし、この弾き方でしか出せない音色であり、ぜひとも真似したいところです。
セゴビアの厚みのある大きな手で奏でられる幅の大きいビブラートも演奏の中で効果を発揮しています。
力に頼らないしなやかな演奏だからこそ、晩年まで演奏を行うことが出来たのだと思います。

②音色の変化

硬質でメタリックな音と太く柔らかい音を使い分けており、豊かな表情です。
ギターの音色の美しさと変化による魅力は、セゴビアが最も伝えたかったものではないでしょうか。

③テンポの変化

頻繁に批評を受けるように、大きなテンポ・ルバートが見られます。
曲全体のテンポ自体も、ポンセのプレリュード等ごく一部は速いですが、かなりゆったりしたものに聴こえます。
また、演奏も音がぶつ切りに聴こえる部分もあり、現代の端正な演奏に比べると聴き劣りする面もあるかと思います。

1962年の演奏

この動画は1956年又は1957年のハウザーⅡ世を使っているのではと思われます。
ギターの外観もそうですし、音にも粘りを感じます。
当初、私は演奏技術による微細なもつれなのかと思っていましたが、完成して数年のハウザーⅡ世はセゴビアですら弾きにくいのかもしれません(笑)
1960年にハウザーⅠ世が故障しラミレスⅢ世に持ち替えていますが、その前に手に入れた楽器なのでしょうか。
セゴビアのギター遍歴は非常に気になるところです。

  1. 組曲ニ長調よりガボット/M.M.ポンセ
  2. グランソロ(序奏なし)/F.ソル
  3. エチュード1番/H.ヴィラ=ロボス
  4. 松のロマンス/F.M.トローバ
  5. カスティーリャ組曲よりファンダンギーリョ/F.M.トローバ

演奏の特徴

この後に紹介する1954年の演奏に比べると、ヴィルトゥオーゾ的な面はあまり感じません。
暴走の無い、円熟に到達した演奏と思います。
この時セゴビアは69歳です。
ステージでの演奏は1950年代までを全盛期とすべきかもしれませんが、1960年代にもラミレスⅢ世を使用した素晴らしい録音を残しております。
タンスマンのポーランド組曲、テデスコのプラテーロと私、モンポウのコンポステラ組曲、ポンセのソナタ・ロマンティカ等、ギターの歴史に燦然と輝くレパートリーです。

1954年、パリでの演奏

有名な動画ですが、映像として聴けるものの中では最も良い演奏と思います。
以下の曲を弾いています。

  1. BWV999 プレリュード/J.S.バッハ
  2. 魔笛の主題による変奏曲/F.ソル
  3. ソナチネ第一楽章/F.M.トローバ(7:30まで)
  4. 聖母の御子/カタロニア民謡

演奏の特徴

1976年の演奏と比べた際に、ふらふらしたような様子は感じません。
テンポの揺れはありますが、セゴビア自身の明確な意図により完璧にコントロールされているように聴こえます。
ソルの「魔笛の主題による変奏曲」は高い技術故の狙った暴走が行われています(笑)
村治佳織さんは「セゴビアは陶酔型ではない。しかし、音楽により語る、歌う」とコメントしています。
要所でのテンポ・ルバートやビブラートを使い、ヴィルトゥオーゾ的なところがありながらも、基本的には良く設計された演奏です。

メロディ以外の音の流れも美しく、ポリフォニーにも気を配っています。

晩年の演奏と同様、音色のパレットは非常に多彩で、気品のある木質的な音を聴くと、ギターの音とはかくあるべき、と思わされます。弾力を感じるまでの太い低音は、セゴビアの演奏以外では聴けないのでは、と思います。

こういった演奏を聴くと、現代の演奏が「均一、デジタル」と言われるのも仕方がないように思えます。
音色の奥に見ることができる情報量が多く、これぞギターの音色と再確認します。

セゴビアの録音は

youtubeだけではセゴビアの本当の魅力は分からない

youtubeではたくさんのセゴビアの演奏を聴くことができますが、はっきりと名演とまで言い切れるものは多くないように思います。
上記の1954年は名演と思いますが、限られた楽曲しか聴くことが出来ません。

映像として残っているものは高齢になってからのものが多く、全盛期の華麗なテクニックに比べるとどうしても技術的には見劣りします。

音質の良い録音にセゴビアの真価がある

今回、youtubeの中でも音質が良いものを選びましたが、現在聴くことができるセゴビアの真価は「状態の良い録音」にあると思います。

Youtebeや音質の悪いCDの録音による演奏を聴いて「セゴビアの演奏はこんなものか」と思ってしまう方が沢山いるのではないかと思います。
LPレコードでは素晴らしかった録音が、ほとんど再現されていないCDがあまりに多いのです。

録音自体は70年代の晩年にも行われていますが、1950年前後の演奏が多く、年齢による技術の劣化を感じることは無いと思います。

現代の演奏と比べて

私個人のエピソードで恐縮ですが、過去にポンセのジーグでレッスンを受けていたことがありました。
私は現代の演奏家のCDを参考として聴いていたのですが、セゴビアの演奏を先生に聴かせて頂き、あまりの熱量の差に愕然としました。

これまで聴いていたCDが「流暢にすらすらと弾いているだけ」に聴こえてしまいました。
セゴビアと同じ要素(熱量、説得力)を感じることができたのは渡辺範彦さんの演奏くらいのものでした。

実は、先生に聴かせてもらった録音と同じ演奏の音源は私も持っていました。
しかし、リマスターにより演奏から受ける印象が全く別物でした。
どれでも良いと思ってCDを買うと、安物買いの銭失いになってしまいます。

おすすめのCDは

現在手に入るものの中では、グラモフォン盤がおすすめです。
「The Collection 1-american Decca Solo Recordings」
「The Great Master-fromus Decca Recordings」
また、安価なボックスとしては「Milestones of a Guitar Maestro (10CD)」が良いと思います。

「ギターの神様」とまで称される、圧倒的な音楽性と充実したテクニックを聴くことができます。
晩年と異なり、演奏のテンポはかなり速い印象で緩楽章とのコントラストが映えます。

密度と気品を兼ね備えた音質はハウザー1世やマヌエル・ラミレスならではの特徴です。
第二次世界大戦以前、1946年頃までの演奏はナイロン弦でなくガット弦が使用されていますので、そういった魅力もあるのかも知れません。

特に聴くべき曲は

私はポンセやタンスマン、トローバやテデスコ、ヴィラ=ロボス等、セゴビアに曲を献呈した同時代の作曲家達の録音に最も価値があると考えています。
同じ時間を生きた作曲家の作品を、その時代の最も優れた演奏家が弾いているわけです。

現代の我々のように、バロックの様式は、古典の様式は、と意識するまでもなく、自然に演奏することで作曲家の意図に近い表現をすることができます。

古典、ロマン派のレパートリーはあくまで19世紀ギターのオリジナルであって、
モダンギターのオリジナルレパートリーは、タレガ以降にしか存在しないことを考えるとギターにとって最も重要な楽曲のこれ以上ないお手本です。

改めて1976年の演奏を聴くと

セゴビアの全盛期と呼べる状態の演奏を聴いた後、改めて晩年の演奏を聴いてみると、技術の衰えを感じる中でセゴビアが本来はこう弾きたかったのでは、と思うような姿を感じることが出来ました。

もちろん、全盛期のような速いテンポやレガートさは無いのですが、「演奏を通じて表現すること」に非常に長けた演奏家であることは、最晩年まで変わらない印象です。
晩年の演奏に「魅力がない」とはとても言えない理由はここにあると思います。

使用楽器に関して、1960年以降はハウザー1世からホセ・ラミレス(表面板に杉を使用、弦長664mm)に変更しています。
ホセ・ラミレスを使用した演奏はスペインの光と影を感じることが出来ます。

セゴビアが使用していたものに近い664mmのラミレスを弾いたことがあるのですが、杉の楽器が持つ音の余白に独特の世界感を感じました。
これは後期の杉のフレタやフレドリッシュが持つ肉感とは全く違う音質です。
664mmもセゴビアの大きい手には丁度よかったのではと思います。

1987年、94歳に亡くなる直前まで現役の演奏家であり続けたセゴビア。
現代の演奏からは得難い魅力があり、今でも学ぶことは沢山あると改めて気付かされます。

最後までご覧頂き、誠に有難うございました。